やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

発刊の序
 わが国においては,少子高齢化が進むなかで医療サービスに対する国民のニーズが一層高まってきており,歯科医療関係者にも,国民の需要に応えるべく良質な補綴物を効率的に提供していくことが求められている.
 現在,歯科技工士養成施設での教育は,「歯科技工士学校養成所指定規則第3条」により修業年限2年以上,総時間数2,200時間以上と定められており,実際は平均2,500時間程度の教育が実施されている.そのなかで,今後,医療関係職種との連携を可能とし,専門領域での技術習得が十分になされた資質の高い歯科技工士を適正に養成していくためには,教養課程の充実と専門教育の強化,さらには最新の材料・機器の革新に伴う新しい技工技術の習得が望まれる.そこで,これまで先人諸氏のご尽力によって歯科技工士教育のバイブル的存在となり,資格試験における出題基準の根幹を担ってきた「歯科技工士教本」を基盤としながら,さらに抜本的改変を行うことにより「新歯科技工士教本」を編纂,発刊することとなった.「新歯科技工士教本」の発行趣旨は下記のとおりである.
[新歯科技工士教本発行の趣旨]
 1.平成13年9月に公布された「歯科技工士の養成の在り方等に関する検討会意見書」に基づき,ほかの医療関係職種との歩調を合わせるべく,教育の大綱化・単位制が提言された.
 2.現在の歯科技工士教本は発行から10年ほど経過し,新規項目の充実や不要項目の削除など教育内容の大幅な整理が必要である.
 3.現在の教本における分冊化(歯科理工学,有床義歯技工学)を避け,各教科目においては1冊に整理する.
 4.グローバル化や将来的な臨床実習に対応すべく新規教本(歯科英語,歯科技工実習)を発行し,また,専門教育に即した教本科目名の変更(歯科技工美術概論)をはかる.
 5.各科目間における重複内容の調整や教授内容の見直しをはかる.
 6.学生が理解しやすく,体系的に専門教育の教授をすることが可能な教本とする.
 「新歯科技工士教本」は,歯科技工士養成にあたっての必須教授内容を集約したものであり,学生にとっては歯科技工業をなすうえでの最低限の知識をまとめたものである.修業期間中はもちろんのこと,卒業後も基礎を振り返るための伴侶として活用いただければ幸甚である.
 今回の「新歯科技工士教本」は,全国の大学歯学部,歯科大学の教授陣ならびに全国歯科技工士教育協議会加盟の歯科技工士養成施設の専任教員をはじめとして,多くの先生方の深いご理解とあたたかいご支援の賜物によって生まれたものである.教授の実践にあたっては,なかには内容の不十分なところもあろうかと思うが,教授される皆様方の熱意によって今後さらに増版を重ね,なお一層充実した教本になることを期待する.
 2006年1月
 全国歯科技工士教育協議会
 会長 末瀬一彦


 歯科医療では,歯科医師,歯科技工士ならびに歯科衛生士の三者のチームプレーによって,患者さんの望む治療結果が達成される.特に補綴物は,多くの調整作業を経て患者さんの口腔内に装着され,身体の一部,すなわち人工臓器となる.そのつくり手は歯科技工士である.患者さんの口腔内の生体情報を精密にコピーした模型上で,歯科医師からの歯科技工指示書で指示された設計,材料および成形法に従い補綴物を製作するのである.その製作過程については,これまでの研究と経験から最も合理的な方法が定められており,最終的に求める「型」が得られている.しかし,歯科技工士が製作物をそのまま歯科医師に手渡せば,それで職務が終わりとするのは正しくない.
 医療はそこに従事する者と患者さんとの信頼関係を基礎に,双方のコミュニケーションで成り立っている.歯科医療では補綴物の製作を担当する歯科技工士の役割がきわめて大きいが,患者さんが満足する真の補綴物は「型」どおりではとうてい得られるものではない.歯科診療所での患者さんとの緊密なコミュニケーションに基づいて「形」を成した段階でこそ得られるのである.歯科技工士は患者さんとの対面行為がないだけに,熱意をもって歯科医師から患者さんの情報を収集し,模型だけに留まることなく患者さんの口腔内の状況を把握しながら作業にあたる努力が必要である.また,自らの技工技術を高めるために継続して生涯研修を行い,つくり上げる歯科技工作品がアートの領域にも達して生命の通うがごとき「形」となるように,目標を定めて歩むことが歯科医療への貢献につながる.
 「新歯科技工士教本『歯科理工学』」は,以上のような点を念頭に置きつつ,まずは「型」をしっかりとつくり上げるために,歯科材料や器械に関する基礎知識を学べるように構成されている.さらに,急速に進歩してきている成形法についても頁を割いている.学生諸君の旺盛な知識欲の高まりによって,歯科技工が意義ある誇り高き職であり続けることを願う.
 なお,本教本は,1章 中村正明・武田昭二・大島 浩,2章 武田昭二・大島 浩,3 章 武田昭二・篠崎照泰,4章 武田昭二・篠崎照泰,5章 武田昭二・中川正史,6章 武田昭二・福間正泰,7章 武田昭二・大島 浩・篠崎照泰・福間正泰・中川正史,8章 大島 浩・篠崎照泰,9章 大島 浩・篠崎照泰,10章 武田昭二・大島 浩,11章 大島 浩・篠崎照泰が執筆した.ご執筆いただいた先生方に厚く感謝申し上げる.
 2006年3月
 中村正明
1 歯科技工と歯科理工学
 1 歯科理工学の意義と目的
  1 歯科理工学の意義
  2 歯科理工学の目的
 2 歯科の果たす役割
 3 歯科成形法
 4 歯科技工の安全性と環境
2 歯科材料の性質
 1 物質の構造
  1 原子間結合
  2 材料の種類と性質
 2 機械的性質と試験法
  1 応力とひずみ
  2 弾性変形と塑性変形
  3 応力-ひずみ曲線
  4 展性と延性
  5 曲げ強さ
  6 疲労限
  7 衝撃強さ
  8 クリープ
  9 硬さ
 3 物理的性質
  1 密度と比重
  2 熱膨張
  3 熱伝導率
  4 熱可塑性
  5 比熱
  6 蒸発熱と融解熱
  7 光の屈折と反射
 4 化学的性質
  1 耐食性
  2 溶解性
  3 吸水性
  4 接着性
  5 生物学的性質
3 模型製作
 1 印象材
  1 印象材の種類
  2 印象材の一般的性質
  3 印象材と模型材の関係
 2 模型材
  1 石膏の種類
  2 石膏の一般的性質
4 原型製作
 1 原型材料
  1 歯科用ワックスの種類と用途
  2 鋳造用原型材料
  3 原型材料以外のワックス
5 レジン成形
 1 義歯床用レジン
  1 種類
  2 加熱重合レジン
  3 常温重合レジン
  4 一般的性質
  5 その他の成形法
 2 義歯床関連材料
  1 人工歯
  2 軟質義歯裏装材
 3 歯冠用硬質レジン
  1 組成
  2 硬質レジン前装冠の製作
  3 金属との結合
 4 その他のレジン
  1 軟性レジン(マウスガード用)
  2 トレー用レジン
  3 テンポラリークラウン用レジン
6 セラミック成形
 1 歯冠用セラミックス
 2 歯科用陶材
  1 組成
  2 分類
  3 築盛
  4 焼成
  5 陶材の性質と強化
 3 金属焼付用陶材
  1 メタルボンドクラウン(陶材焼付鋳造冠)
  2 機械的加工法
 4 オールセラミックス
  1 築盛・焼成
  2 スリップ焼結法
  3 鋳造法(キャスタブル)
  4 加圧成形法(射出成形法)
  5 切削法(CAD/CAM)
7 金属成形
 1 金属
  1 主な歯科用金属
  2 歯科用合金
  3 貴金属合金
  4 非貴金属合金
 2 鋳造
  1 鋳造理論
  2 埋没材
  3 埋没操作
  4 加熱操作
  5 鋳造操作
  6 鋳造欠陥
 3 金属の加工
  1 金属の塑性加工
  2 CAD/CAM
 4 金属の接合
  1 種類
  2 鑞付け
  3 鑞付け法
  4 溶接
  5 鋳接
 5 合金の熱処理
  1 軟化熱処理
  2 硬化熱処理
8 その他の歯科材料
 1 合着材・接着材
  1 歯科用セメント
  2 接着材
 2 成形修復材
  1 金属材料
  2 レジン材料(修復用)
  3 セラミック材料(修復用セメント)
 3 インプラント材料
9 補綴物の仕上げ
 1 意義と目的
  1 審美的意義
  2 生物学的意義
  3 口腔衛生学的意義
  4 化学的意義
 2 成形物の仕上げ
 3 機械研磨
  1 切削
  2 研削および研磨
 4 化学研磨
  1 電解研磨
 5 圧延による表面仕上げ
 6 材料添加による表面仕上げ
  1 レジンの場合(表面硬化材)
  2 陶材の場合
 7 研磨効率
 8 切削,研削,研磨に用いられる器具・器械
  1 マイクロモーター
  2 エアタービン
  3 電気エンジン
  4 レーズ
  5 モデルトリマー
  6 超音波洗浄器
  7 スチームクリーナー
 9 各種補綴物の研磨方法
  1 レジン補綴物
  2 セラミック補綴物
  3 金属補綴物
10 補綴物の安定性
 1 レジン
  1 化学的溶解
  2 劣化
  3 摩耗
 2 セラミックス
  1 熱による変化
  2 機械的性質
  3 保存性
  4 化学的安定性
 3 金属
  1 変色
  2 腐食
  3 摩耗
11 歯科技工の安全性
 1 作業者への影響
  1 技工作業
  2 器具・器械
 2 環境対策
  1 粉塵対策
  2 廃棄物・排水

 ・参考文献
 ・本教本の利用の仕方・進め方の例
 ・索引