やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに

 月刊「歯科技工」では,創刊以来さまざまなコラムを設け,好評のうち今日に至っている.なかでも「これは便利!」と「技工のタブー」は多くの読者から支持を得たコラムである.
 「これは便利!」の連載コラムは,日常技工上不便に感じていることをちょっとした工夫で改善したり,材料や時間の無駄をはぶくなどの工夫が,多くの著者から寄せられたものである.その意味ではアイデアを発表する側(著者)と受けとる側(読者)がつぎつぎと立場が入れ替わり,ある日の読者が別の日には著者になっているというダイナミックな関係を生み出すことにもなった.
 今回,「これは便利!」のコラムをまとめて単行本として発行するにあたって,一見すると相互に関係なく発表されたようにみえる一つ一つを関連項目ごとに整理した.たとえば「日常生活用品の利用」,「歯科用器材の二次利用」のようにである.また,整理した項目がどこに出ているかがすぐわかるように,目次や本文のレイアウトにも工夫をこらした.目次の整理番号(1-01-01など)と本文の見出し番号を同じにし,読みたい項目がすぐ引き出せるようにした.また巻末の索引からも必要事項が引けるようになっている.
 コラムを本書に収載するにあたっては,雑誌コラムが半ページであるという制約から,十分説明しきれなかった部分を補うため,図・写真を加え,大幅な加筆を行った.雑誌掲載時に本コラムをすでに読まれた読者にとっても新たな気持ちでお読みいただけるものと思う.
 ところで,今日の歯科界の現状をみると,ともすれば暗い情報にばかりふり回されがちである.しかし,足元にせまっている高齢化社会の到来や国民の歯科医療に対する要求の高度化を考えると,必ずしも現在の情況が続くものとも思われない.来るべき時代の要請に応えるためには,技術や手技の高度化,器材の開発や種々の工夫の積み重ねが必要である.
 本書に収載された一つ一つの工夫は,日常歯科技工界で行われているさまざまな工夫のほんの一部にすぎないと思う.本書がこうした日常の工夫やアイデアを生み出すヒントになれば幸いである.また,掲載されたアイデアのいくつかでも読者にとって役立つものがあればと願っている.
 1989年8月20日 月刊歯科技工 編集部
一般用品の技工への応用 1
01 日常生活用品 2
 01 リングレス埋没の外枠材に円筒形のプラスチック容器を利用
 02 普通石膏の採取にアイスクリームサーバーを用いる
 03 ストッキングを用いて使用後のサンドブラスターのサンドを再利用
 04 一次石膏と二次石膏の連結に園芸用のアルミ線を利用
 05 ポストコアのワックスアップにプラスチック製の爪楊枝を利用
 06 ポーセレン築盛に霧吹きと加湿箱を利用
 07 ヘアスプレーをパターン清掃に使用
 08 簡単な流蝋装置
 09 清掃がめんどうなアルジネート印象材などは紙コップで練和
 10 ビニール袋密封器で埋没材や石膏の保管を
 11 小分けした埋没材や石膏を包装用密封器でポリ袋に包装
 12 細長の布きれを利用した研磨方法
 13 流し込みレジンの注入にフレキシブルフォーマーと紙コップを使用
 14 ネット付き二重容器内で超音波洗浄
 15 歯科技工の各種作業に化粧用ブラシを利用
 16 ワイヤブラシを改良してリング内壁の鋳型材除去に利用
 17 石膏模型の分割時にすべり止めシートを敷く
02 事務用品 19
 01 プラスチック板とマグネット付きクリップで研磨ボックスを作る
 02 アスベストリボンの切断に裁断機を使用
 03 厚紙でディスクを作り歯間乳頭部のつや出し研磨に用いる
 04 クレヨンを使って歯冠色ワックスを作る
 05 シャープペンシルのカラー芯をマージンラインの記入に用いる
 06 シャープペンシルのペンシル部分に補強鞘を作りサベイングに用いる
 07 事務用ゼムクリップをダウエルピンの植立に利用
 08 市販の筆ペンに分離剤を入れて使用する
03 一般工具・器材 27
 01 コーヌス内冠にリング状の木ネジを埋め込む
 02 水道用の塩ビ管からバキュームマウスを作る
 03 リングからの埋没材取り出しは樹脂をコーティングした金槌で
 04 セントリックストッパーのない咬合器の指導桿にストッパーを付与
04 他の医療用器材 31
 01 使用済み麻酔液用カートリッジを用いてガラススポイトを作る
 02 メスピペットと安全スポイトで液体の計量を
 03 瞬間接着剤の容器先端に注射針をつける
05 家電品 34
 01 時間を有効に使うためにタイマーを
 02 電気蚊取り器を改良したワックス溶解装置
 03 製氷皿をバースタンドに利用
 04 ヘアドライヤーを改造して熱風作業に利用
 05 ドライヤー通風口に取り付けた金網上で接着ブリッジ鋳造体を乾燥
 06 タイマーを用いて時間短縮の訓練を行う
 07 各作業コーナーにスポットライトをつける
06 ホビー用品 41
 01 ポスターカラーの水溶液で石膏を練和
 02 パチンコ玉を義歯床の埋没などに利用
 03 オイルスプレーを技工用の分離剤に応用
 04 歯型回転防止溝の形成に三角形チップを利用
 05 プラスチックの輪で一次石膏埋入用の連結子をつくる
07 その他 46
 01 ユーティリティワックスの代わりに油粘土を使う
 02 鋳造体の酸処理は傾けたビンのなかで
 03 家庭用品で簡易排水浄化器を
 04 不要のポリベルトをダウエルピン回転防止溝の形成に利用
 05 ワックスクラウンの連結などに加熱不要のクリア樹脂を利用
 06 器機の保護をカッティングシートで
 07 空缶とアルミ線でワックス溶解皿を作る
 08 ばね秤の前面にウエイトインジケーターを取り付ける

2 歯科用器材のこんな使い方 55
01 歯科用器材の二次利用 56
 01 使用後のダウエルピンをアルミホイルに包んで低温加熱で回収
 02 折れたリーマーをポスト部のワックス形成に利用
 03 探針を廃品利用してワックス形成用インスツルメントを製作
 04 不要の超音波ドリルをポーセレンコンデンスに利用
 05 不要になった円錐台を加工して分離剤容器の中蓋を作る
 06 ニッケル・クロム合金で陶材焼成皿を製作
 07 ゴムホイールを不要になったポイント類のシャンクに接着する
 08 使い古しのフィッシャーバーを平たく加工
02 歯科用器材の別用途 64
 01 メタルコアのワックスアップにコアフォームクラウンを利用
 02 歯内療法用クレンザーを用い模型ポストコア部の印象材を除去する
 03 咬合堤の修正や仕上げに使用済みのトリマーディスクを利用
 04 最も簡単な陶材焼付冠鑞着法
 05 シリンジを用いた埋没材や石膏の注入法
 06 診療室のデントバスを利用して複印象用の寒天を保温
 07 歯間ブラシで石膏模型を清掃
 08 グリーンルージュの溶液を鑞着時に使用
 09 鋳造ルツボ内にアスベストリボンを敷く
 10 アスベストの小片で鑞の余分な流れをストップ
 11 ダウエルピンを利用して分割コアを製作
 12 石膏および石膏系埋没材の硬化促進に印象用石膏を添加する
 13 ワイヤを屈曲して咬合紙ホルダーを作る
 14 ガラスビーズの代わりにアルミナ粉末を
03 歯科用器材の使いやすさの工夫 78
 01 マウント用のスペーサーをシリコーンで作る
 02 石英ルツボの上部をくさび型に削除
 03 エバンス彫刻刀にブラシを取り付ける
 04 バイブレーターやレーズはフットスイッチで
 05 瞬間接着剤を綿球にしみこませて使う
 06 朝顔型ブンゼンバーナーを横にして使う
 07 布バフの縫い目をほどいて用いる
 08 プライヤーを改造して一定の圧痕をワイヤに
 09 バイブレーターのスイッチをプッシュオン式に
 10 義歯床の掘り出し時,加工したカーバイドバーで石膏を掘り込む
 11 鋳造リングに混水比を彫り込んでおく
 12 ガラス棒を改良してポーセレンインスツルメントを製作
04 技工テクニックヒント…90
 01 レジン前装ポンティックの粘膜部に即時重合レジンを盛る
 02 模型分割面に小紙片を狭んでポンティック基底面の二次築盛を行う
 03 シートワックスをポンティックの形成時に利用
 04 石膏をシリンジで注入してOリングアタッチメントのスペースを作る
 05 連結歯などのわずかな不適合に対しては埋没せずに流鑞して修正
 06 フィッシャーバーを2本重ねて使う
 07 欠損部のダウエルピンを浮上させてポンティック基底部をワックスアップ
 08 陶材築盛時ハンドリーマーを使用して咬合面を形成
 09 摩擦熱を感じないですむ研磨方法
 10 ブロア(熱風)を築盛陶材の乾燥に使用
 11 一次・二次石膏接合のための維持溝を二列のディスクで形成
 12 支台歯模型に歯肉縁と歯頚縁とをマーク
 13 トレーレジンを用いて口蓋皺襞を付与する
 14 下顎全顎印象の舌側部をティッシュペーパーで塞ぐ
 15 ポスト付き模型はトリミング前に仮パターンを2つ作っておく
 16 リン酸塩系埋没材使用時の鋳造体内面荒れ防止法
05 その他 106
 01 ハンディトーチを鑞付修理に利用
 02 インレーの研磨ブロックをアドバストーンで作る
 03 使いやすいキャスティングワックスの自作法
 04 ダッペングラスに即時重合レジン製の蓋をつける
 05 作業用模型分割固定装置の工夫
 06 歯肉色ワックスで模型の歯肉形態を回復する
 07 銀合金の融解はリング加熱炉の余熱で
 08 模型二次石膏部の製作と咬合器装着を同時に
 09 クリアランス不足の場合,模型支台歯の削除量がわかるキャップを作る
 10 ダイロックトレーの壊れた爪の部分をクラスプ用ワイヤで修理
 11 ポイントの包装用品を模型の固定補助に利用
 12 フレキシブルチューブを吸塵口に連結

索引 119