序
「月経は定期的にありますか?」
「月経周期は何日周期ですか?」
「いつごろ閉経しましたか?」
私はいつも女性の患者さんには,医療面接でこのような質問をします.
患者さんからは「口の中の健康に女性特有のリスクがあることをもっと早くから知りたかった!」とよく言われます.その一方で歯科衛生士からは「女性の患者さんに月経や閉経に関する質問をすることにためらいがある」との声があります.
約20年前,私が歯科衛生士4年目の時に,日本大学歯学部歯周病学講座教授(現在日本大学名誉教授)の伊藤公一先生から「月経周期が口臭と関連があるのでは」とヒントをいただき,過去の論文を調べてみると1978年にThe Journal of International Medical Researchに掲載された論文が1つだけ見つかりました.それを英語から日本語に辞書を片手に必死に訳しました(もちろん当時はGoogle翻訳のような便利なものはありませんでした).当然,本邦で同様の研究は存在せず,これは自分たちの口腔内を使って調べてみたら面白そうだということになり,伊藤公一先生と菅野直之先生(本書共著者)のご指導のもと,歯科衛生士5名で調査をスタートしました.まずは基礎体温測定から始まり,自分達の月経周期(月経期,卵胞期,排卵期,黄体期)のタイミングで歯周組織検査を行い,さらには口臭測定器(ハリメーター(R))を使って,どう変化するのかを調べました.基礎体温を測定するのも初めてで,月経周期とは何かを理解することから始まり,「月経周期において女性ホルモンは変動するの?」「女性ホルモンと歯周病には関連があるのかしら?」「女性ホルモンを餌に増殖する歯周病原細菌がいるらしい」といった具合に知識が増えると同時に,更なる疑問も増えました.研究を進めていく過程ではいくつもの壁にぶつかることもありましたが,研究結果が論文として形になっていくことは楽しみでもありました.そのような折,2022年6月に京王プラザホテルで開催された第65回春季日本歯周病学会学術大会の歯科衛生士シンポジウムにおいて日本大学医学部産婦人科学系産婦人科学分野准教授の永石匡司先生と「歯科衛生士に知って欲しい女性の身体の基礎知識」について講演させていただく好機に恵まれると同時に本書の企画がスタートしました.
本書は,女性の各ライフステージにおいて歯科衛生士が臨床で活用できる内容を目指し,Part 1では永石匡司先生に女性の身体の基礎知識として「女性の身体の特徴」について,Part 2では菅野直之先生に歯周病に関する最新情報として「歯周病と全身の健康」についてご執筆いただきました.Part 3では「女性特有の歯周病のリスク」について日本女性の現状も踏まえ,Part 4では「女性の口腔」(1)月経周期,(2)妊娠期,(3)産後期,(4)更年期,(5)特殊な歯周病(非プラーク性歯肉病変)について実際の症例を交えながらそれぞれの具体的な管理方法を提示しました.
本書をきっかけに女性特有の歯周病のリスクが歯科衛生士に広く認識され,患者さんの口腔の向上を介して全身の健康の維持増進にも貢献できるようになること,そして,かかりつけ歯科医師・歯科衛生士のもとで,生涯を通じた切れ目のない口腔衛生管理を受ける女性が増えていくことを心から願っています.
最後に,これまで私たちの研究を力強くサポートしていただいた株式会社ヘルスケアシステムズの関係各位に感謝申し上げます.また,本出版の企画に深いご理解とご協力を賜った医歯薬出版株式会社の関係各位に御礼申し上げます.
2025年5月
川本亜紀
「月経は定期的にありますか?」
「月経周期は何日周期ですか?」
「いつごろ閉経しましたか?」
私はいつも女性の患者さんには,医療面接でこのような質問をします.
患者さんからは「口の中の健康に女性特有のリスクがあることをもっと早くから知りたかった!」とよく言われます.その一方で歯科衛生士からは「女性の患者さんに月経や閉経に関する質問をすることにためらいがある」との声があります.
約20年前,私が歯科衛生士4年目の時に,日本大学歯学部歯周病学講座教授(現在日本大学名誉教授)の伊藤公一先生から「月経周期が口臭と関連があるのでは」とヒントをいただき,過去の論文を調べてみると1978年にThe Journal of International Medical Researchに掲載された論文が1つだけ見つかりました.それを英語から日本語に辞書を片手に必死に訳しました(もちろん当時はGoogle翻訳のような便利なものはありませんでした).当然,本邦で同様の研究は存在せず,これは自分たちの口腔内を使って調べてみたら面白そうだということになり,伊藤公一先生と菅野直之先生(本書共著者)のご指導のもと,歯科衛生士5名で調査をスタートしました.まずは基礎体温測定から始まり,自分達の月経周期(月経期,卵胞期,排卵期,黄体期)のタイミングで歯周組織検査を行い,さらには口臭測定器(ハリメーター(R))を使って,どう変化するのかを調べました.基礎体温を測定するのも初めてで,月経周期とは何かを理解することから始まり,「月経周期において女性ホルモンは変動するの?」「女性ホルモンと歯周病には関連があるのかしら?」「女性ホルモンを餌に増殖する歯周病原細菌がいるらしい」といった具合に知識が増えると同時に,更なる疑問も増えました.研究を進めていく過程ではいくつもの壁にぶつかることもありましたが,研究結果が論文として形になっていくことは楽しみでもありました.そのような折,2022年6月に京王プラザホテルで開催された第65回春季日本歯周病学会学術大会の歯科衛生士シンポジウムにおいて日本大学医学部産婦人科学系産婦人科学分野准教授の永石匡司先生と「歯科衛生士に知って欲しい女性の身体の基礎知識」について講演させていただく好機に恵まれると同時に本書の企画がスタートしました.
本書は,女性の各ライフステージにおいて歯科衛生士が臨床で活用できる内容を目指し,Part 1では永石匡司先生に女性の身体の基礎知識として「女性の身体の特徴」について,Part 2では菅野直之先生に歯周病に関する最新情報として「歯周病と全身の健康」についてご執筆いただきました.Part 3では「女性特有の歯周病のリスク」について日本女性の現状も踏まえ,Part 4では「女性の口腔」(1)月経周期,(2)妊娠期,(3)産後期,(4)更年期,(5)特殊な歯周病(非プラーク性歯肉病変)について実際の症例を交えながらそれぞれの具体的な管理方法を提示しました.
本書をきっかけに女性特有の歯周病のリスクが歯科衛生士に広く認識され,患者さんの口腔の向上を介して全身の健康の維持増進にも貢献できるようになること,そして,かかりつけ歯科医師・歯科衛生士のもとで,生涯を通じた切れ目のない口腔衛生管理を受ける女性が増えていくことを心から願っています.
最後に,これまで私たちの研究を力強くサポートしていただいた株式会社ヘルスケアシステムズの関係各位に感謝申し上げます.また,本出版の企画に深いご理解とご協力を賜った医歯薬出版株式会社の関係各位に御礼申し上げます.
2025年5月
川本亜紀
Part 1 女性の身体の特徴〜女性ホルモンの変化を知ろう!〜
(永石匡司)
(1)はじめに
(2)思春期
(3)月経に関する用語
(4)月経周期の特徴
(5)卵子の一生
(6)卵胞発育と月経周期
(7)基礎体温
(8)性成熟期
(9)更年期
(10)おわりに
Part 2 歯周病と全身の健康
(菅野直之)
(1)歯周病とは
(2)歯周炎による歯周組織の炎症の指標:PISA
(3)腸内細菌叢に影響を与える口腔細菌
(4)歯周病診断の新たなフレームワーク:4つのステージと3つのグレード
Part 3 女性特有の歯周病のリスク〜女性ホルモンはお口の中にも関係するの?〜
(川本亜紀)
(1)男性より女性のほうが,現在歯数が少ない?
(2)女性ホルモンと歯周病は関係あるの?
Part 4 女性の口腔
(川本亜紀)
1 月経周期
(1)月経周期における歯周病のリスク
(2)月経周期における口腔衛生管理
(3)症例1-月経周期関連歯肉炎の症例(1)
(4)症例2-月経周期関連歯肉炎の症例(2)
2 妊娠期
(1)妊娠期における歯周病のリスク
(2)妊娠期における口腔衛生管理
(3)症例3-月経周期関連歯肉炎の患者さんが妊娠した症例
3 産後期
(1)産後期における歯周病のリスク
(2)産後期における口腔衛生管理
(3)症例4-月経周期関連歯肉炎の患者さんの産後の症例
4 更年期
(1)更年期における歯周病のリスク
(2)更年期における口腔衛生管理
(3)症例5-更年期の症例
(4)症例6-口腔乾燥症および灼熱痛の症例
5 特殊な歯周病(非プラーク性歯肉病変)
(1)剥離性歯肉炎
(2)剥離性歯肉炎における口腔衛生管理
(3)剥離性歯肉炎における新規治療法(エクオール尿検査およびエクオールサプリメント)
(4)症例7-口腔苔癬様病変の症例
(5)症例8-類天疱瘡の症例
(永石匡司)
(1)はじめに
(2)思春期
(3)月経に関する用語
(4)月経周期の特徴
(5)卵子の一生
(6)卵胞発育と月経周期
(7)基礎体温
(8)性成熟期
(9)更年期
(10)おわりに
Part 2 歯周病と全身の健康
(菅野直之)
(1)歯周病とは
(2)歯周炎による歯周組織の炎症の指標:PISA
(3)腸内細菌叢に影響を与える口腔細菌
(4)歯周病診断の新たなフレームワーク:4つのステージと3つのグレード
Part 3 女性特有の歯周病のリスク〜女性ホルモンはお口の中にも関係するの?〜
(川本亜紀)
(1)男性より女性のほうが,現在歯数が少ない?
(2)女性ホルモンと歯周病は関係あるの?
Part 4 女性の口腔
(川本亜紀)
1 月経周期
(1)月経周期における歯周病のリスク
(2)月経周期における口腔衛生管理
(3)症例1-月経周期関連歯肉炎の症例(1)
(4)症例2-月経周期関連歯肉炎の症例(2)
2 妊娠期
(1)妊娠期における歯周病のリスク
(2)妊娠期における口腔衛生管理
(3)症例3-月経周期関連歯肉炎の患者さんが妊娠した症例
3 産後期
(1)産後期における歯周病のリスク
(2)産後期における口腔衛生管理
(3)症例4-月経周期関連歯肉炎の患者さんの産後の症例
4 更年期
(1)更年期における歯周病のリスク
(2)更年期における口腔衛生管理
(3)症例5-更年期の症例
(4)症例6-口腔乾燥症および灼熱痛の症例
5 特殊な歯周病(非プラーク性歯肉病変)
(1)剥離性歯肉炎
(2)剥離性歯肉炎における口腔衛生管理
(3)剥離性歯肉炎における新規治療法(エクオール尿検査およびエクオールサプリメント)
(4)症例7-口腔苔癬様病変の症例
(5)症例8-類天疱瘡の症例














