やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

発刊にあたり
 多職種連携,チーム医療が当たり前になっている時代に,歯科医師,歯科衛生士が「歯科医療者」としてチームの一員として認知されるか,非常に重要な時期であると思います.その連携の輪に入っていくには,歯科医療者が多職種との共通認識をもつことが必要で,多職種の役割と立場を理解したうえで,我々の専門性を発揮することが信頼獲得に繋がります.歯科による口腔,咽頭,呼吸の「リスク管理」はその中で使う一つの「武器」であり,なにより自分自身の身を守るためにも重要です.
 摂食嚥下リハビリテーション,口腔機能管理の中で「リスク管理」と聞くと,最初に誤嚥・誤飲予防,肺炎予防が思い浮かびます.もちろん予防も重要ですが,予期せぬ事態が起きた時は,「緊急時の対応を行う」ことが求められます.たとえば,口腔機能管理中やミールラウンドの最中に,多量の誤嚥や窒息が生じた際,咽頭吸引や窒息時の対応を即座に判断する必要があります.いつ何時でも対応できるように,われわれ歯科医療者が,基本的な呼吸機能,背景にある疾患,誤嚥・窒息時の対応等,適正な知識と技術を備えておくことが必要です.
 近年,摂食嚥下障害の病態はより複雑化しており,その対応には多様な知識や技術が要求されています.特にその傾向が強く,需要が増加している在宅や施設等の最前線で活躍が期待されているのが歯科衛生士,歯科医療者です.歯科衛生士,歯科医療者にとって「リスク管理」とはなにか.本書がその疑問を払拭することを期待しています.そして,歯科衛生士が歯科医師や多職種と同等な医療者として活躍されることを切に願っています.
 最後に,本書出版にあたり,図表の使用をご快諾いただき,ご助言をいただきました東京歯科大学客員教授山田好秋先生に厚く御礼申し上げます(本書第II章において「よくわかる摂食・嚥下のメカニズム第2版」山田好秋著 医歯薬出版」より引用).そして,ご尽力いただきました著者の皆様,医歯薬出版株式会社に心より感謝申し上げます.
 2023年6月吉日
 編集委員 谷口裕重 渡邉理沙
I章 なぜ歯科衛生士がリスク管理を学ぶのか
 (渡邉理沙)
 (1)―リスク管理の必要性
 (2)―昨今の歯科衛生士の臨床現場
 (3)―歯科衛生士が対応する患者の疾患,障害の複雑化
II章 呼吸器に関連する解剖・生理学
 (谷口裕重)
 (1)―誤嚥,窒息,嘔吐を予防する
  1.誤嚥
   1)摂食嚥下のメカニズム
   2)誤嚥の分類とその予防
  2.窒息
   1)咀嚼のメカニズム
   2)窒息の予防
  3.嘔吐
   コラム(1) 口腔機能低下と摂食嚥下障害の関係
 (2)―誤嚥した際の抵抗力を高める
  1.呼吸
   1)呼吸のメカニズム
   2)呼吸と嚥下
   3)気管,気管支の解剖
   4)肺の解剖と誤嚥部位
   コラム(2) なぜビールを飲んだら「プハー」と息をするのか
  2.咳嗽
   1)咳嗽反射の概要
   2)随意的咳嗽
   3)咽頭吸引と咳嗽
III章 リスク管理に必要な全身状態のアセスメント方法
 (1)―症状からのアセスメント(長縄弥生)
 (2)―歯科衛生において考えられるリスク(長縄弥生)
  1.口腔周囲筋および口腔を刺激すること
  2.開口すること
  3.姿勢を設定すること
   1)起立性の低血圧
   2)呼吸運動の障害
  4.その他(誤嚥,気道閉塞,出血,感染)
   1)誤嚥,気道閉塞
   2)出血,感染
 (3)―疾患別アセスメントポイント
  1.がん(長縄弥生)
  2.脳血管疾患
  3.心疾患
  4.呼吸器疾患(渡邉理沙)
   1)慢性閉塞性肺疾患(COPD)
   2)気管支喘息
   3)間質性肺炎
   4)誤嚥性肺炎
   5)肺がん
  5.神経変性疾患の呼吸器障害(谷口裕重)
   1)パーキンソン病(PD)
   2)筋萎縮性側索硬化症(ALS)
   3)ギランバレー症候群
   4)多系統萎縮症(MSA)
   5)重症筋無力症
  6.皮膚筋炎,多発性筋炎(谷口裕重)
IV章 胸部聴診,頸部聴診の方法と聴診音の聞き分け方
 (三鬼逹人)
 (1)―聴診器
 (2)―胸部聴診の実際
 (3)―呼吸音
  1.呼吸音の特徴と聴診のポイント
  2.異常音(副雑音)
 (4)―頸部聴診
V章 呼吸療法に使用される医療デバイスの基礎知識
 (村松恵多/三鬼逹人)
 (1)―呼吸器の問題に対して導入されるデバイスの種類
   コラム(3) 経皮的酸素飽和度(サチュレーション:SpO2)って何を意味しているの?
 (2)―気管挿管と気管切開
 (3)―人工気道を有している患者の注意点
  1.気管チューブの事故抜去予防
  2.気管切開カニューレの事故抜去予防
  3.気管チューブの事故抜去時の対応(気道確保の方法)
  4.気管切開中の食事
   ADVANCE編 永久気管孔
   コラム(4) 気管切開チューブの取り扱い事故に学ぶ
   コラム(5) 気管切開カニューレの再挿入は医行為?
 (4)―酸素療法に利用するデバイスの特徴,観察のポイント
  1.鼻カニューレ
   コラム(6) 新しいデバイス「リザーバー式鼻カニューレ(オキシマイザー(R))」
   コラム(7) 新しいデバイス「開放型酸素マスク」
  2.簡易酸素マスク
  3.リザーバー付酸素マスク
  4.高流量鼻カニューレ
   コラム(8) 酸素流量計の見方
   ADVANCE編 在宅医療での酸素投与で問題になる火気トラブル
   コラム(9) SpO2が低いから酸素濃度を上げてもいい?
 (5)―人工呼吸管理に使用するデバイスと特徴,観察のポイント
  1.人工呼吸器を必要とする患者の基準
   1)呼吸仕事量
   2)呼吸筋力
   3)ガス交換
  2.人工呼吸器の種類
   1)NPPV
   2)TPPV
   コラム(10) バイパップって?
  3.人工呼吸器回路の仕組みと構造
   1)アラーム対応
  4.人工呼吸器を使用している患者の留意点
   コラム(11) 人工呼吸器の加温加湿
VI章 肺理学療法
 (1)―肺理学療法の適応と必要性(三鬼逹人)
  1.肺理学療法とは
  2.肺理学療法の適応
  3.嚥下障害と呼吸の関係
 (2)―呼吸訓練と排痰法(三鬼逹人)
 (3)―肺理学療法の方法(柴田享子)
  1.リラクセーション
   1)目的
   2)適応
   3)実施時の注意点
   4)手技
  2.呼吸練習
   1)目的
   2)適応
   3)実施時の注意点
   4)手技
  3.胸郭可動域練習
   1)目的
   2)適応
   3)禁忌
   4)手技
  4.排痰法
   1)目的
   2)適応
   3)手技
VII章 喀痰吸引の実際
 (渡邉理沙)
 (1)―歯科衛生士が喀痰吸引を実施するための法的根拠と実施要件
  1.法的根拠
  2.実施要件
 (2)―吸引の必要性を判断するポイント
  1.吸引に注意が必要な場合と禁忌
 (3)―口腔・鼻腔・気管からの吸引方法
  1.事前の準備
  2.吸引の準備
  3.吸引圧の調整
   1)壁掛け式吸引器の場合
   2)ポータブル吸引器の場合
  4.カテーテルの挿入
  5.吸引操作
   1)口腔からの吸引
   2)鼻腔からの吸引
   3)気管内からの吸引
   4)吸引後
   5)窒息時の対応

 さくいん