やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

第2版 はじめに
 本書の初版が出版されてから,9年の時間が経過しました.この間に,従来よりも,感染対策,医療安全そして医療情報,医薬品・医療機器などの管理の重要性が,歯科医療現場で再認識されてきました.そしてこれらに関する業務等については,歯科衛生士が担当者として行う社会環境が少しずつ整備されつつあります.このような環境下で,この3年間には,歯科医療管理を取り囲む環境が大きく変化しました.このことを考慮して,以下の2つの項目について,特に配慮して編集しました.
 1つ目が,新型コロナウイルス感染症〈COVID-19〉の世界中での大流行・パンデミックです.歯科医療安全の中で,感染対策は極めて重要な項目です.歯科医療は,通常の診療でも飛沫が飛散することによって感染の危険が高い医療職種とされていますが,わが国では,「歯科医療機関でのCOVID-19クラスターが起きていない」と言われているほど,良く管理されていたことは皆さんがご存じのとおりです.本書では,このことに胡坐をかくことなく,さらなる安全を求め,感染対策については,新しい情報を入れるのみならず,大学病院などの大規模の医療機関だけでなく,歯科診療所でのあり方についても丁寧に扱っています.
 また2つ目は,個人情報に関することです.社会全体で個人情報やプライバシーに関する関心が高まる中,2020年に個人情報保護法の改正が施行されました.これに伴い,医療情報に関しても,変更された部分のみならず,通常の歯科衛生業務に関してわかりにくい部分についても触れています.
 本書では,初版から引き続き,歯科における医療安全管理の全体像をコンパクトに,かつ図・写真を多用しながらインシデント,アクシデントの事例と対応策などをわかりやすく解説しました.必要な内容を各章ごとにまとめ,どの章から読んでも理解できるように構成しています.さらに,規制法規やその根拠についての要点も示して解説してあります.
 歯科衛生士教育のテキストとして,また歯科診療所での医療安全対策やスタッフ教育の実践マニュアルとしてもすぐに活用できるように編集しました.
 歯科衛生士が歯科医療現場で,歯科医療管理の担い手として活躍することで,歯科医療がますます向上し,より安心・安全な歯科医療を国民に提供できることを願っております.
 2023年2月
 編者一同


初版 はじめに
 わが国の歯科衛生教育の教育年限が3年以上になり,これに基づき教育も充実してきています.そして,歯科衛生士国家試験でも,従来あまり問われることのなかった領域も対象となってきました.その一つが,いわゆる「歯科医療管理」という分野です.
 この分野の扱う範囲は,歯科医療の質と安全の確保に関する診療管理から経営管理まで広範にわたっており,大変重要なことにもかかわらず,これまで歯科医学教育ではあまり系統的に教授されてきませんでした.歯科衛生士教育でも“歯科医療の安全確保”に関しては同様であり,歯科衛生概論や歯科診療補助の授業で部分的に触れられているのが実態で,関係法令や科学的根拠まで系統立てて示すには至っていませんでした.
 しかし,院内感染による死亡や医療事故が増え,社会問題化するなか,平成19年に医療法が改正され,これまで法的には別々に規定されていた医療安全に関する項目がこの医療法に一括してまとめられ,すべての医療機関に「医療の安全の確保」が義務づけられることになりました.その後,医科医療機関の医療安全への取り組みの流れが全体的に急速に促進され,現在では診療報酬のうえでも院内感染対策の評価が行われるに至りましたが,これもその一環です.当然,歯科医院も例外ではなく,その取り組みが喫緊の課題とされています.そのなかで,歯科衛生士もはじめて医薬品,医療機器などの管理責任の一端を担う資格のある職種と位置づけられ,この業務における歯科衛生士の活躍も必要になってきました.
 このような背景のもとに,この間,歯科衛生士教育現場から医療安全管理(院内感染対策,インシデント防止等の管理)や医療に関わる情報管理に関する適当なテキスト発刊の要望が寄せられるようになりました.そこで,こうした声を踏まえて,座学のみならず,今後の歯科医療現場での必要性を見据えて,本書を発刊することにいたしました.
 本書では,歯科衛生士の教本として多岐にわたる歯科医療安全の全体像をコンパクトにわかりやすく収めて理解を深めることを重視しました.また,教本として使うこと以外にも,ある特定の章だけを取り上げて学習することが可能なように構成されています.すなわち,授業のなかでは他の科目の副読本として使用できるように配慮しています.さらに,法的規定や根拠についての要点を提示し,併せて臨床現場の実践例をシェーマ,写真を多用して解説してありますので,現場の歯科衛生士,医療安全管理責任者である歯科医師の座右の書としても十分役立つものと思われます.
 本書が,わが国の歯科衛生士教育ならびに歯科医療のさらなる向上にお役に立つことができればと願っております.
 2014年2月
 編者一同
CHAPTER 1 医療法と歯科衛生士
 I 医療法と歯科診療における医療安全管理
  1 医療法の第5次改正とその後
  2 医療法の改正が目指してきたもの
  3 安全管理体制の確保
  4 安全管理体制の整備とは具体的に何をすることか
 II 安全管理責任者としての歯科衛生士
   COLUMN 1 医療安全に対する歯科衛生士の意識は?
 III 医療安全をいかに共有するか
  1 医療の“不確実性”について
  2 医療安全の共有とは
  3 誰が誰と何を共有するのか
  4 歯科医療としてのプロフェッショナリズム
  5 マネジメントの進め方
   COLUMN 2 歯科衛生士のプロフェッショナリズム
  6 リスクやミスを共有するコミュニケーション
  7 会議・ミーティングの活用法
  8 医療安全から安心,信頼へのプロセスについて
 IV 安全管理と歯科衛生士の自覚
  1 新しい分野での社会的役割
  2 一人ですべての把握はできない
  3 安全管理責任者としての自覚
  4 管理責任者としての職務
CHAPTER 2 安全管理責任者としての業務を理解しよう
 I 医薬品の安全管理
  1 管理責任者としての業務の基本
  2 医薬品に関連したインシデント,アクシデントへの対応
   COLUMN 3 医療安全の5S
  3 歯科医院における医薬品安全管理業務の例
  4 病院における医薬品安全管理の補佐
   COLUMN 4 リスク感性を養う
 II 医療機器の安全管理
  1 医療安全管理者としての業務の基本
  2 医療機器のリスクマネジメントの基本
  3 定期的な保守点検と記録の重要性
   COLUMN 5 医療機器の安全に関する情報収集の方法
  4 歯科医院における医療機器安全管理業務の例
 III 院内感染対策
  1 院内感染対策責任者としての業務の基本
   COLUMN 6 医療関連感染
   COLUMN 7 “咳エチケット“から“ユニバーサルマスキング”へ
  2 院内感染対策におけるリスクマネジメントの基本
  3 歯科医院における院内感染対策業務の例
  4 病院における院内感染対策の留意点
   COLUMN 8 滅菌・消毒業務管理の基本
 IV 歯科訪問診療における感染予防対策
  1 歯科訪問診療時の感染予防対策の基本
  2 訪問先の居宅,施設等への配慮
  3 手指衛生
  4 歯科訪問診療時の患者への感染予防対策
  5 歯科訪問診療時の歯科医療従事者の職業感染予防対策
 V 感染性廃棄物の管理-特別管理一般廃棄物・産業廃棄物の処理
  1 廃棄物の定義と分類
  2 感染性廃棄物の判断基準
  3 産業廃棄物と一般廃棄物の分類(分別)
  4 管理責任者としての業務の基本
  5 非感染性の廃棄物の表示
  6 特別管理産業廃棄物管理票〈マニフェスト〉の交付・保管
  7 廃棄物管理のための留意点
  8 歯科医院における感染性廃棄物管理業務の例
  9 病院における感染性廃棄物管理の留意点
 VI 歯科訪問診療時の廃棄物管理
  1 歯科訪問診療時の廃棄物とは
  2 歯科訪問診療時の感染性廃棄物管理
CHAPTER 3 歯科医師によるその他の医療安全管理を知っておこう
 I 施設管理
 II 労務管理
 III 防災管理
  1 防火管理
  2 地震等防災管理
   COLUMN 9 災害時の備え
   COLUMN 10 地震に対する10の備え
 IV 放射線管理
  1 エックス線診療室
  2 エックス線装置の管理
  3 放射線の防護
  4 在宅歯科医療における放射線管理
 V 院内掲示管理
  1 医療法に基づく掲示物
  2 個人情報保護法に基づく掲示物
  3 介護保険法に基づく掲示物
  4 保険医療療養担当規制等による掲示物
  5 その他の推奨される掲示物
CHAPTER 4 医療情報,個人情報の管理
 I 医療情報,個人情報における基本的考え方
  1 プライバシーとプライバシーの侵害について
  2 秘密と守秘義務について
  3 いわゆる個人情報保護法における個人情報などについて
  4 個人情報・プライバシー・秘密の相違とその効果について
 II 個人情報の取り扱いについて
  1 仮名加工情報
  2 個人情報の一次利用と二次利用
  3 匿名加工情報
  4 患者情報の第三者提供
  5 電子保存の3基準
 III 個人情報に関する業務委託先の監督
  1 個人情報管理の範囲
  2 個人情報管理上のトラブルの可能性と対策の立案
 IV 歯科医院における個人情報管理の実際
 V 病院における医療情報・個人情報の管理
  1 病院情報システムの安全管理
  2 組織的安全対策
  3 物理的安全管理
  4 技術的安全管理
  5 情報の廃棄
CHAPTER 5 医療事故・医療過誤・医事紛争防止のポイント
  1 用語の定義について
   COLUMN 11 アクシデント,インシデント,ヒヤリ・ハット
  2 医療事故をどう捉え,どう対応するか
 II コミュニケーションの重要性
  1 医療のコミュニケーションとは
  2 なぜコミュニケーションエラーが発生するのか
  3 医療コミュニケーションの三大コアスキル
 III よくあるインシデント,アクシデントの事例
  1 はじめに
  2 インシデント,アクシデントの事例
   事例1:名前違い
   事例2:問診の未実施
   事例3:部位間違い
   事例4:治療用器具の破折
   事例5:インレー,クラウンなどの誤飲(誤嚥)
   事例6:タービンによる舌および頬粘膜の損傷,皮下気腫
   事例7:抜歯時の軟組織傷害および神経損傷
   事例8:針刺し事故
   事例9:薬液による軟組織損傷,衣服の損傷
  3 クレームを背景としたトラブルを防ぐには
 IV 具体的な防止策
  1 意識の可視化と場の可視化
  2 インシデントレポートの実際例
  3 インシデントから学ぶ
 V 歯科衛生士のインシデント,アクシデント事例と対応策
   事例1:患者衣服の汚染
   事例2:歯科用ユニット消導薬の取り違え
   事例3:口腔清掃用具の破損
   事例4:ガーゼの紛失
   事例5:在宅酸素療法患者のトラブル
CHAPTER 6 院内感染対策の背景
 I 院内感染対策に関わる法制化等の経緯と歯科医療分野の動向
  1 院内感染対策有識者会議報告書に基づく国の対応
  2 医療安全対策の一環としての院内感染対策
  3 医療法および医療法施行規則の一部改正
  4 院内感染対策の具体的な運用
  5 歯科医療分野における院内感染対策の動向
 II 院内感染対策委員会と感染対策マニュアル
  1 院内感染対策委員会の設置について
  2 院内感染対策マニュアル
  3 歯科医院における院内感染対策の責任者とその数

 付1 保健所の立入検査
  1 検査項目の要点
  2 立入検査の手順とその対応
  3 検査で不備があった場合の処置
   COLUMN 12 毒薬と劇薬,毒物と劇物って?
 付2 歯科医療安全管理のための歯科医院自主点検管理表
  1 個人情報保護に関するチェックリスト
  2 医療安全管理チェックリスト
  3 医療機器安全管理対策チェックリスト
  4 医薬品等の取り扱いのためのチェックリスト
  5 歯科衛生士に関するチェックポイント
 付3 医薬品業務手順書記載項目と記載例

 さくいん