やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 インプラントが臨床応用されて半世紀以上が経ちました.当初は非常にハードルの高い治療でしたが,いまでは多くの臨床医に取り入れられ,予知性の高い欠損補綴の選択肢として,なくてはならない治療方法となりました.現在,全世界で毎年400万〜500万人の患者さんに1,500万本ものインプラントが埋入されているという報告があります.このような状況下では,他院でインプラントを埋入した患者さんが来院するというのは決してめずらしいことではありません.しかし同時に,「他院でインプラントを埋入した患者さんが来院したときに尻込みをしてしまう」という歯科医師,歯科衛生士も少なくないでしょう.
 インプラントのメインテナンスと天然歯のメインテナンス,インプラント周囲疾患の治療と歯周疾患の治療には多くの共通点があることを,皆さんはご存じですか? 天然歯を喪失してしまう最大の原因は歯周炎です.一方,インプラントを喪失してしまう最大の原因はインプラント周囲炎ですが,インプラント周囲炎が生じる最大のリスクは歯周炎です.この因果関係から考えれば,たとえ皆さんの医院でインプラント治療をしていなくても,歯周病の知識があれば,科学的根拠に基づいたインプラントのメインテナンスやインプラント周囲疾患の治療は可能なのです.インプラントは専門性の高い治療であることに間違いありませんが,その専門性が最も求められるは埋入手術のときです.ですから,メインテナンスに移行した後,不幸にしてインプラント周囲疾患に罹患してしまった段階で必要とされる専門性というのは,歯周病の知識なのです.
 本書では,インプラント周囲の組織・病理の知識から,インプラント周囲疾患の診査・診断,治療方法まで,あらゆる場面の重要なポイントを「歯周病(天然歯)と対比しながら解説する」という新しい切り口でわかりやすくご紹介しています.いってみれば「歯周治療の応用編」です.インプラント治療経験が浅い,あるいは経験がまったくない医院でも,歯周治療をしたことがないはずはありませんね.むしろ,齲蝕の治療と並んで歯周治療は最も経験値の高い治療ではないでしょうか.この貴重な経験を,インプラントに対して活かさない手はありません.
 本書が,他院で埋入されたインプラントへの対応に苦慮している歯科医師や歯科衛生士の皆さん,そして患者さんの助けとなることを願ってやみません.
 2020年7月
 清水智幸
 はじめに
 目次
第1章 まずはここから! インプラントの“超”基本
 オッセオインテグレーションとは?
 インプラントの基本構造
 インプラントの表面性状〜くっつきやすさvsインプラント周囲炎のリスク
 上部構造の固定法
 インプラントの埋入法と形状〜プラークコントロールvs審美性
第2章 歯周組織と比べて見るインプラント周囲組織
 歯周組織(歯の周囲組織)
 インプラント周囲組織
 健康な歯周組織
 健康なインプラント周囲組織
 歯肉炎
 インプラント周囲粘膜炎
 歯周炎
 インプラント周囲炎
 天然歯とインプラントのプロービング
第3章 インプラントメインテナンスのポイントを考える
 治療の基本は同じ! 歯周病とインプラント周囲疾患
 インプラント周囲疾患の定義と診断基準
 適切なブラッシングの回数は?
 適切なメインテナンスの間隔は?
 BOP,スルーしていませんか!?〜出血と骨吸収の関係
 結論:インプラントメインテナンスの6カ条
第4章 Stepでわかる! インプラントメインテナンスの流れ
 Step0 インプラント以外にも目を向けよう!
 Step1 まずはプロービングとX線写真!
 Step2 BOP(-)ならひと安心! 骨吸収がなければさらによし!
 Step3 BOP(+)だったら……粘膜炎か周囲炎かを確認して即治療!
 Step4 インプラント周囲粘膜炎への対応
 Step5 インプラント周囲炎への対応
 フローチャートでわかる! (1)初診時の対応
 フローチャートでわかる! (2)2回目以降の来院時(メインテナンス時)の対応
第5章 症例からみるインプラントメインテナンスの実際
 Case1 インプラント周囲粘膜炎(1)〜ブラッシング指導で大きく改善したケース
 Case2 インプラント周囲粘膜炎(2)〜上部構造の形態を修正したケース
 Case3 インプラント周囲炎(1)〜外科治療により改善したケース
 Case4 インプラント周囲炎(2)〜インプラントの抜去に至ったケース

 コラム
  (1)X線写真にご注意!〜骨吸収に見える? 見えない?
  (2)プロービングでインプラントの周囲組織は壊れる?
  (3)歯周炎の新しい国際分類
  (4)インプラント専門医に患者さんを紹介するときに気をつけたいこと
  (5)CIST:累積的防御療法