やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

監修の序
 日本は超高齢社会を迎え,歯科医療を取り巻く「保健・医療・介護・福祉」の環境も大きく変化しています.団塊の世代が75歳以上となる2025年とそれ以降の社会・経済の変化や技術革新への対応迄をも視野に入れ,今まさに地域包括ケアシステムの構築が推進されています.こうした変化のなか,歯科医療の提供体制も従来の歯科診療所における外来患者中心の「歯科完結型」から,「地域完結型」へと変化し,地域でのきめ細やかな歯科保健医療の提供が求められます.今後,医療及び介護の総合的な確保に向けた歯科医療サービスの拡充にともない,多職種連携が加速するなか,歯科医療従事者としての役割を認識して,よりいっそう,その専門性を高めることが大切です.
 さて,医療職の業務は診療報酬体系のなかに位置づけられており,そのシステムのなかで行われています.歯科衛生士の業務も例外ではありません.しかしながら,歯科診療報酬体系のなかでの歯科衛生業務の位置づけや,歯科医師との関係における実践的な面を理解するうえで,現在の学校教育のみでは限界があります.今後ますます歯科医療提供体制が変化し,高度化・多様化するなかで,歯科医師と歯科衛生士の関係だけではなく,治療の全体像の把握,社会と結びついている経済行為であることまで理解を促進する必要があります.保険点数に関しても,その請求方法のみでなく,診療報酬を体系的に理解することが大切となります.これまでに「歯科保険点数表の解釈等」に関する書籍は出版されていますが,診療報酬体系を具体的に理解するための書籍はなく,とくに歯科衛生士向けの書籍は発刊されていませんでした.
 そこで日本歯科衛生士会では,2017年より診療報酬体系をわかりやすく解説し,そのなかにおける歯科衛生士の業務の位置づけを説明することで,歯科衛生業務を確実に実践するための書籍を発行してきました.診療報酬改定は2年に1度行われるため,今回は2回目の書籍の改訂となります.とくに今回の改訂では,かかりつけ歯科医の機能の評価,周術期等の口腔機能管理の推進,質の高い在宅医療の確保,口腔疾患の重症化予防,口腔機能低下への対応,生活の質に配慮した歯科医療の推進が改訂のポイントになっています.今後,歯科衛生士が自らの歯科衛生業務を診療報酬全体のなかで体系的に理解し,臨床実践力をますます高めていただくために,都道府県歯科衛生士会におかれましては本書を活用した研修会を活発に実践されること,さらに歯科衛生士教育においても本書を活用されますことを願って止みません.
 最後に,本書の発行の労を賜った鳥山佳則先生および石井拓男先生をはじめ,ご尽力をいただいた医歯薬出版株式会社の皆様に深く感謝申し上げます.
 2020年5月
 公益社団法人日本歯科衛生士会
 会長 武井典子


2020-2021版の発行にあたり
 診療報酬は,概ね2年に1回改定されるが,限られた財源をいかに患者と歯科医療機関の双方に有益なものにするか,厚生労働省が中央社会保険医療協議会での議論を踏まえ,政策決定を行っている.改定の内容を大きく左右するのは改定率であり,2020年(令和2年)改定では,歯科は0.59%の改定率であった.単純化するなら,1,000点の項目が1,006点に,100点の項目は,少数点以下を四捨五入して101点になる.現実にはこのような改定は行われず,重点項目に対して点数の引き上げを行うこととなる.歯科医療関係者からみると,改定の度に施設基準や通知などが増えて,よくわからないとの意見も多い.この意見には,望むような点数の引き上げがされていないとの不満も併在している.
 一方で,2012年(平成24年)改定以降,在宅医療,周術期,口腔機能をキーワードとする明確な方向性があり,いずれも歯科衛生士の役割が大きい分野である.
 周術期等口腔機能管理については,歯科衛生士が行わなければ算定できない周術期等専門的口腔衛生処置(I)は毎年算定回数が大きく増加していたが,今回,周術期等口腔機能管理料(III)算定患者に対しては月1回から月2回への増となった.
 口腔機能には,歯周病患者の長期管理,小児・高齢者の口腔機能管理があるが,このうち歯周病については,歯周病重症化予防治療が新設され,これまでのSPT(I),SPT(II)と併せて,歯周病患者の長期管理の評価が一応整った.ますます歯科衛生士の役割が増すことになり,今回,これらについての記載を大幅に充実し,事例も追加した.
 全国のレセプト統計を基に約2,000の点数表項目の算定回数をみると,歯科衛生実地指導料やスケーリング,機械的歯面清掃処置など歯科衛生士に関係深い項目が上位20項目のうち,11項目を占めており,データの上でも歯科衛生士の役割が重要であることが如実に表れている.
 本書は歯科衛生士を対象とした入門書であるので,既存の項目,新規項目ともに掲載していない項目があるが,レセプト統計を参考にし,必要かつ十分な内容を網羅している.また,各論と事例との統一感についても工夫するなど,全般に渡り細部に至る編集を行った.
 本書を初めて手に取った方,2018-2019年版と2017年版の読者の方,いずれにも,教本や実用書として利用していただくよう期待する次第である.
 2020年5月
 編集委員,著者一同


2017年版の発行にあたり
 歯科診療報酬は,医療機関にとって生活の糧であり,誰もが重要と考えている.関連する書籍は,古くから多数発行されているものの,いずれも入門者にはいささかハードルが高かった.
 「保険点数はよくわからない…」
 「レセコンがあるから何となくわかっている…」
 「どうやって勉強すればいいの…」
 との声が多くあったが,これに答え得る書籍はなかったのである.
 歯科点数表の変遷を振り返れば,歯科衛生士を評価した項目が年々増加している.歯科医師にとっても歯科衛生士の雇用が大きな関心ごとである.歯科衛生士にも単なる請求事務の知識の習得にとどまらず,歯科点数表を理解することが必要であり,ここに入門書を上梓することとなった.
 本書の特徴は,次のとおりである.
 (1)歯科点数表(診療報酬)について,まったく知識のない人を想定
 (2)歯科点数表全体のルールをやさしく,ポイントを絞り解説
 (3)各論は統計データを基に必要かつ最小限の項目に厳選
 (4)歯科衛生士に関係の深い項目をていねいに解説
 (5)事例は各分野に精通した歯科衛生士が詳しく解説
 これらの特徴を際立たせるため,次のような編集上の工夫をしている.
 ・医療保険制度の解説は成書が多数あることから,本書では最小限の記載にとどめた.
 ・同様の理由で医療事務に特化した内容は記載していない.
 ・難解な法令用語,歯科点数表用語は,可能な限りわかりやすく表現した.
 ・個別項目は平成27年度の全国のレセプトデータを基にし,頻度が高い項目,歯科医療費に占めるシェアが高い項目に限定した.
 ・事例については診療内容,歯科衛生士業務記録,算定項目をバランスよく配置した.
 ・周術期口腔機能管理と在宅医療については,今後の重要性を考慮して詳しく解説した.
 これらの特徴をふまえた書籍は初めてであるが,今後,単なる点数の改定にとどまらず,内容の改善を図っていきたいと考えている.本書により,「保険点数は,わからない…」との声が一つでも少なくなることを期待する次第である.
 2017年4月
I 歯科衛生士と歯科診療報酬
 (石井拓男)
 1 医療専門職と診療報酬
 2 歯科衛生士と診療報酬
 3 歯科衛生士数の増加と保険点数
II 医療保険制度の概要
 (鳥山佳則)
 1 保険診療の概念
 2 医療保険制度の体系
 3 日本の医療保険制度の特徴
 4 医療費の患者負担
 5 保険医と保険医療機関
 6 請求・審査・支払
III 歯科点数表総論
 (鳥山佳則)
 1 歯科点数表とは何か
   (1)厚生労働大臣が定めた保険診療の項目
   (2)上記項目の価格表
   (3)地域によらず全国一律
   (4)歯科医師の知識・技能に関係なく一律
 2 歯科点数表はどのように決まるのか
 3 中央社会保険医療協議会
 4 歯科診療報酬の構成
  1 各種の規範
  2 告示と通知
  3 歯科点数表告示とその他の告示など
  4 薬価基準と材料価格基準
 5 歯科点数表の構成
  1 基本診療料と特掲診療料
  2 章,部,節
  3 通則
 6 電子レセプトと紙レセプト
IV 歯科点数表の特徴
 (鳥山佳則)
 1 用語
  1 点数表の用語=学術用語
  2 点数表の用語≒学術用語
  3 点数表の用語≠学術用語
  4 よく似た用語
   (1)よく似た名称
   (2)同一の名称の数字違い
 2 算定の単位
  1 1歯単位
  2 根管単位
  3 複数歯単位
  4 3分の1顎単位
  5 1装置単位(1床単位)
  6 1顎単位
  7 1口腔単位
 3 算定の回数(回数制限の有無)
  1 回数制限あり
  2 特に回数制限なし
 4 他の項目の算定と関係する項目
  1 ある項目を算定した場合に他の項目が算定できない場合
  2 算定の時期により減算される場合
  3 ある項目の算定に,他の項目の算定が必要となる場合
 5 略称
  1 傷病名
  2 診療行為
   (1)初・再診料の加算
   (2)医学管理等
   (3)在宅医療
   (4)検査
   (5)リハビリテーション
   (6)処置
   (7)表面麻酔「OA」
   (8)歯冠修復及び欠損補綴
 6 算定項目の細分化
  1 光重合型コンポジットレジン充填の例
  2 感染根管治療(3根管の場合)の例
 7 診療日が複数日にまたがる
 8 材料の使用頻度が高い
  1 材料料が別に定められている場合
  2 材料料が別に定められておらず材料の費用が算定できない場合
V 初診料と再診料
 (鳥山佳則)
 1 初診料
  1 種類
  2 算定のルール
   (1)いわゆる1月ルール
   (2)診療継続中に他の傷病で初診を行った場合等
   (3)健康診断の取扱い
   (4)医科歯科併設医療機関での算定
  3 加算
 2 再診料
  1 再診料の種類
  2 加算
VI 各論
 (鳥山佳則)
 1 歯科衛生士に関係する項目
  1 歯周治療
   (1)歯周治療の流れ
   (2)歯周病の検査と歯周病患者画像活用指導料
   (3)歯周基本治療
   (4)歯科疾患管理料
   (5)機械的歯面清掃処置
   (6)歯科衛生実地指導料
   (7)歯周基本治療処置と歯周疾患処置
   (8)歯周病重症化予防治療(令和2年改定新設項目)
   (9)歯周病安定期治療(SPT)
  2 周術期等口腔機能管理
   (1)周術期等口腔機能管理の対象となる患者
   (2)周術期等口腔機能管理に関する項目の概要
   (3)周術期等口腔機能管理の実施体制
   (4)手術ありの場合
   (5)放射線治療,化学療法,緩和ケアの場合
   (6)個別の項目
  3 在宅医療
   (1)在宅医療の基本となる項目
 2 その他の日常臨床で必要な項目
  1 修復
   (1)充填(光重合型コンポジットレジン充填)
   (2)インレー
  2 歯内治療
   (1)主な項目と一連の行為
   (2)処置の通則
   (3)算定単位と回数
   (4)電気的根管長測定検査(EMR)
   (5)根管貼薬処置(根貼,RCT)
   (6)細菌簡易培養検査(S培)
   (7)加圧根管充填処置(CRF)
   (8)デンタルエックス線診断
   (9)除去料
   (10)その他の関連する項目
  3 クラウン・ブリッジ
   (1)主なクラウンの種類と使用材料
   (2)全部金属冠(大臼歯)に係る一連の行為
   (3)レジン前装金属冠に係る一連の行為
   (4)失活歯に係る歯冠形成および支台築造に係る項目
   (5)CAD/CAM冠に係る一連の行為
   (6)クラウンとブリッジの算定上の相違点
   (7)ポンティックの種類と点数
   (8)クラウン・ブリッジ維持管理料
  4 有床義歯
   (1)概要
   (2)有床義歯に関する項目
   (3)学術用語にない歯科点数表独自の項目の概説
   (4)その他
  5 抜歯
  6 エックス線診断
   (1)一般的な呼称と歯科点数表の名称(区分)
   (2)エックス線診断算定の基本的構成
   (3)デンタルエックス線診断の算定
   (4)パノラマエックス線診断の算定
   (5)歯科用CTによる診断の算定
  7 投薬
   (1)院外処方の場合
   (2)院内処方の場合
  8 その他の主な処置
   (1)初期う蝕早期充填処置
   (2)知覚過敏処置
   (3)う蝕薬物塗布処置
   (4)フッ化物歯面塗布処置
VII 事例
 1 歯周治療
  1 フローチャートと算定項目(上島文江)
  2 検査結果と評価のポイント
   事例1 単純性歯肉炎(単G)病名でのスケーリング
   事例2 中等度歯周炎(P)病名でのスケーリング後歯周病重症化予防治療
   事例3 中等度歯周炎(P)病名でのSRPと再SRP
   事例4 SPT(I)
   事例5 SPT(II)(小森朋栄)
 2 周術期等口腔機能管理
   事例1 医科歯科併設医療機関・院内完結型-手術あり(大屋朋子)
   事例2 医科歯科併設医療機関・院内完結型-化学療法・放射線治療
   事例3 医科歯科併設医療機関と歯科医療機関連携型-手術あり(河野章江)
   事例4 歯科のない医療機関と歯科医療機関連携型-化学療法あり
 3 在宅医療(武藤智美)
   事例1 自宅への訪問歯科診療 患者数1名,20分以上
   事例2 歯科のない病院への訪問歯科診療 患者数1名,20分以上
   事例3 特別養護老人ホームへの訪問歯科診療 同日に患者数3名
   事例4 自宅への訪問歯科診療 患者数1名,20分以上
関係法令等

 ※付録歯科点数表チャート
 索引