やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 “平成“から“令和”へ,新しい時代が始まりました.平成時代におけるわが国の社会構造の急激な変化に伴い,医療も目覚ましく発展してきましたが,国民が個々に抱える問題はよりいっそう複雑化・多様化しています.そのため,対象者の抱える問題を自らみつけ,エビデンスに基づいて解決する能力が,医療従事者に求められていることはいうまでもありません.医科歯科連携が推進されるなか,歯科衛生士においても同様で,対象者を包括的にみて,科学的に思考し,歯科衛生業務を展開することがこれまで以上に重要となってきました.
 そのようななか,歯科衛生業務を展開するための論理的思考ツールとして「歯科衛生過程」を初学者のために解説した『よくわかる歯科衛生過程』を2015 年に出版しました.このなかでは,歯科衛生士が専門職として,対象者に関わる情報を収集して,問題と原因を判断したうえで,対象者とともに計画を立てて実践すること,介入後には対象者の満足度や歯科衛生士が関わった効果を評価することの流れを身につける必要性をまとめました.
 そして,国民の生活習慣などの複雑化・多様化に,また,さまざまな場面において対応できる歯科衛生士を目指すべく,いくつかの事例を使って「歯科衛生過程」の学びを深めていただけるように本書を企画いたしました.事例をもとに,対象者の抱える問題解決のための流れを具体的に示しました.各段階の留意点とともに,それぞれがもつ意味や内容など,考えるステップをまとめています.
 また,歯科衛生士は歯科診療所や病院だけではなく,地域においても歯科衛生業務を展開する場面があります.そのため本書では,アプローチの方法は異なるものの,考え方の根幹は同じであることを知っていただくために,保育所での健康教育の事例も収載しました.
 「歯科衛生過程」は論理的思考ツールの1 つであり,唯一の方法ではありません.また,情報収集や歯科衛生計画においても,正解は1 つではありません.対象者が100 人いれば,100 とおりの展開の方法があるかもしれません.本書の事例についても,記載されていることだけではなく,さまざまなご意見が出てくるはずです.ぜひ,いろいろな角度から見ていただき,学びを深める一助となれば幸いです.
 令和元年6 月
 編集委員代表 遠藤圭子
1章 歯科衛生過程を学ぶ意味
 (吉田直美)
2章 歯科診療室における歯科衛生過程の応用
 3つの事例の概要と見方(吉田直美)
 事例1 老年期の歯周基本治療(石井実和子)
 事例2 障害者の歯周治療(有井真弓)
 事例3 周術期口腔機能管理(吉田直美)
3章 健康教育における歯科衛生過程の応用
 事例4 保育所での健康教育(船奥律子)
4章 ワークで学ぶ歯科衛生過程
 (宮崎晶子)
5章 もっとよくわかる歯科衛生過程
 (吉田直美)
 参考文献