はじめに
歯科医学を修めようとする者は,全身のマクロ解剖学,ミクロ解剖学を学んだ後,歯学医学教育固有の解剖学,すなわち口腔解剖学,口腔組織・発生学を学ばなければなりません.口腔解剖学のなかには歯の形態を学ぶ「歯の解剖学」があります.魚類や爬虫類の歯はすべて同じ形をしていますが,我々ヒトの歯はすべて異なっています.この異なる形は長い進化の過程で食性や機能に応じた変化の産物で,その形にはそれぞれ意味があります.この歯の形を扱う学問が「歯の解剖学」で,必ず学習しなければならない基礎歯科医学の一学問領域です.歯科医療の目的は,口の機能と形態の回復・維持していくことですから,機能と密接な関係がある歯の基本的な形態を学ぶことの重要性は容易に理解できると思います.
本書『基礎から学ぶ 歯の解剖学』は故酒井琢郎氏(愛知学院大学歯学部名誉教授)が『歯科衛生士教本 口腔解剖』中に執筆され,各分野から高い評価を得てきた「歯の解剖学」の改訂新版です.この原著が出版されて早くも30年が経過し,その間,歯科医療従事者の教育を取り巻く環境は大きく変わりました.歯学教育ではモデル・コアカリキュラムの制定全国共用試験の実施,歯科衛生士教育では2年制から3年制へと教育期間が延長されるとともに,4年制課程を設置する大学が出現し,歯科衛生士教育の高度化が図られています.また,歯科技工士国家試験の全国統一化も目前です.このような歯科医学教育の高度化,質の保証に向けた取り組みが行われているなかにおいて,歯の解剖学教育の重要性は少しも変化していません.
旧版はその内容の正確さ,理解しやすさから歯科衛生士教育のみならず,さまざまな学生諸君に愛されてきました.また,歯科衛生学教育コア・カリキュラムの制定,さらには歯科衛生士教育の高度化のため最新歯科衛生士教本シリーズの改訂が進むなか,改訂版を望む声も少なくありませんでしたが,原著者である酒井琢朗氏のご逝去のため,長年改訂されないままでした.名著の誉れ高い原著に筆を入れることは,改訂する立場の我々にとって非常に勇気を必要とする一大事業でしたが,さまざまな先生からのご協力を得てここに上梓できましたことは望外の喜びであります.
本書の改訂にあたり,我々が最も注意を払ったことは,原著者の教育精神を堅持し,かつ歯科医療従事者になるために現在必要不可欠な事項を網羅することでした.原著中には理解しにくい表現等がありましたが,初めて歯の解剖学を学ぶ人達が理解できるよう,不必要と思われる部分は大胆に削除するとともに,理解しやすい文章に修正しました.本書が広く用いられることを望み,我々改訂者は基本的な事項をさらに理解できるよう一部高度な内容も加筆しました.このような発展的な内容は文字を小さくし,発展的な内容とわかるように本文中で配慮しました.各教育機関の教育ポリシーにより,教授内容を種々選択していただければ幸いかと思います.また,酒井琢郎氏の逝去から時間が経過しており,原著の原稿,原図,写真類は散逸していたので,模式図類は原図を参考に再度書き下ろすとともに,新たな写真も収載いたしました.しかしながら,原著の貴重な写真で差し替えが不可能なものについては,そのまま再掲してあります.さらには,歯の形態に興味をもってもらうために,いくつかのコラムを新たに書き下ろしました.
本書が学生諸君の理解を助けるばかりでなく,本書で歯の解剖学を学ぶ人達がこの分野に大きな関心,興味をもっていただければ幸いです.また,教育にあたっておられる先生方のご意見,ご批評をいただければ幸甚です.また,本書の出版にあたり,貴重な写真を提供していただいた脇田 稔氏(北海道大学名誉教授),大里茂雄氏(日本歯科大学名誉教授),早ア治明氏(新潟大学教授),田代寛一郎氏(元東京医科歯科大学技官),そして,短期間で改訂作業を進めていただきました医歯薬出版歯科書籍編集部の皆様に感謝の意を表します.
2015年1月
前田 健康
酒井 英一
歯科医学を修めようとする者は,全身のマクロ解剖学,ミクロ解剖学を学んだ後,歯学医学教育固有の解剖学,すなわち口腔解剖学,口腔組織・発生学を学ばなければなりません.口腔解剖学のなかには歯の形態を学ぶ「歯の解剖学」があります.魚類や爬虫類の歯はすべて同じ形をしていますが,我々ヒトの歯はすべて異なっています.この異なる形は長い進化の過程で食性や機能に応じた変化の産物で,その形にはそれぞれ意味があります.この歯の形を扱う学問が「歯の解剖学」で,必ず学習しなければならない基礎歯科医学の一学問領域です.歯科医療の目的は,口の機能と形態の回復・維持していくことですから,機能と密接な関係がある歯の基本的な形態を学ぶことの重要性は容易に理解できると思います.
本書『基礎から学ぶ 歯の解剖学』は故酒井琢郎氏(愛知学院大学歯学部名誉教授)が『歯科衛生士教本 口腔解剖』中に執筆され,各分野から高い評価を得てきた「歯の解剖学」の改訂新版です.この原著が出版されて早くも30年が経過し,その間,歯科医療従事者の教育を取り巻く環境は大きく変わりました.歯学教育ではモデル・コアカリキュラムの制定全国共用試験の実施,歯科衛生士教育では2年制から3年制へと教育期間が延長されるとともに,4年制課程を設置する大学が出現し,歯科衛生士教育の高度化が図られています.また,歯科技工士国家試験の全国統一化も目前です.このような歯科医学教育の高度化,質の保証に向けた取り組みが行われているなかにおいて,歯の解剖学教育の重要性は少しも変化していません.
旧版はその内容の正確さ,理解しやすさから歯科衛生士教育のみならず,さまざまな学生諸君に愛されてきました.また,歯科衛生学教育コア・カリキュラムの制定,さらには歯科衛生士教育の高度化のため最新歯科衛生士教本シリーズの改訂が進むなか,改訂版を望む声も少なくありませんでしたが,原著者である酒井琢朗氏のご逝去のため,長年改訂されないままでした.名著の誉れ高い原著に筆を入れることは,改訂する立場の我々にとって非常に勇気を必要とする一大事業でしたが,さまざまな先生からのご協力を得てここに上梓できましたことは望外の喜びであります.
本書の改訂にあたり,我々が最も注意を払ったことは,原著者の教育精神を堅持し,かつ歯科医療従事者になるために現在必要不可欠な事項を網羅することでした.原著中には理解しにくい表現等がありましたが,初めて歯の解剖学を学ぶ人達が理解できるよう,不必要と思われる部分は大胆に削除するとともに,理解しやすい文章に修正しました.本書が広く用いられることを望み,我々改訂者は基本的な事項をさらに理解できるよう一部高度な内容も加筆しました.このような発展的な内容は文字を小さくし,発展的な内容とわかるように本文中で配慮しました.各教育機関の教育ポリシーにより,教授内容を種々選択していただければ幸いかと思います.また,酒井琢郎氏の逝去から時間が経過しており,原著の原稿,原図,写真類は散逸していたので,模式図類は原図を参考に再度書き下ろすとともに,新たな写真も収載いたしました.しかしながら,原著の貴重な写真で差し替えが不可能なものについては,そのまま再掲してあります.さらには,歯の形態に興味をもってもらうために,いくつかのコラムを新たに書き下ろしました.
本書が学生諸君の理解を助けるばかりでなく,本書で歯の解剖学を学ぶ人達がこの分野に大きな関心,興味をもっていただければ幸いです.また,教育にあたっておられる先生方のご意見,ご批評をいただければ幸甚です.また,本書の出版にあたり,貴重な写真を提供していただいた脇田 稔氏(北海道大学名誉教授),大里茂雄氏(日本歯科大学名誉教授),早ア治明氏(新潟大学教授),田代寛一郎氏(元東京医科歯科大学技官),そして,短期間で改訂作業を進めていただきました医歯薬出版歯科書籍編集部の皆様に感謝の意を表します.
2015年1月
前田 健康
酒井 英一
1章 総論
I 歯とは
1.歯の定義
2.歯の生物学的特性
II 歯の種類と記号
1.歯の種類と名称
2.歯の記号
III 歯の数と歯式
IV 方向用語
V 歯の形態
1.歯の外形
2.歯冠の形態
3.歯冠表面の浮彫像
4.歯根の形態
5.歯頸線
6.歯髄腔の形態
VI 歯の鑑別のながれ
1.歯種の鑑別
2.上下の鑑別
3.順位の鑑別
4.左右の鑑別
VII 歯と歯周組織の組織構造
1.歯の組織構造
2.歯周組織の組織構造
3.歯の固定
VIII 歯の機能
2章 永久歯
I 切歯
1.歯冠
2.歯根
3.歯髄腔
II 各切歯の特徴
1.上顎中切歯(第一切歯)
2.上顎側切歯(第二切歯)
3.下顎中切歯(第一切歯)
4.下顎側切歯(第二切歯)
III 犬歯
1.歯冠
2.歯根
3.歯髄腔
IV 各犬歯の特徴
1.上顎犬歯
2.下顎犬歯
V 小臼歯
1.歯冠
2.歯頸線
3.歯根
4.歯髄腔
VI 各小臼歯の特徴
1.上顎第一小臼歯
2.上顎第二小臼歯
3.下顎第一小臼歯
4.下顎第二小臼歯
VII 大臼歯
1.上顎大臼歯
2.上顎各大臼歯の形態の比較
3.下顎大臼歯
4.下顎各大臼歯の形態の比較
VIII 永久歯の大きさ
3章 乳歯
I 乳歯の形態的特徴
1.大きさ
2.歯冠の色
3.歯冠歯頸部
4.咬合面
5.歯冠・歯根移行部
6.歯根
7.歯髄腔
8.エナメル質および象牙質の厚さ
II 乳切歯
1.上顎乳中切歯(第一乳切歯)
2.上顎乳側切歯(第二乳切歯)
3.下顎乳中切歯(第一乳切歯)
4.下顎乳側切歯(第二乳切歯)
III 乳犬歯
1.上顎乳犬歯
2.下顎乳犬歯
IV 乳臼歯
1.上顎第一乳臼歯
2.上顎第二乳臼歯
3.下顎第一乳臼歯
4.下顎第二乳臼歯
V 乳歯の大きさ
4章 歯の配列と咬合
I 歯の配列
II 歯の植立(歯軸の傾斜)
III 咬合
1.鉗子状咬合
2.鋏状咬合
3.屋(根)状咬合
4.後退咬合
5.離開咬合
5章 歯の異常
I 歯数の異常
1.歯数過剰
2.歯数不足
3.乳歯の晩期残存
II 形態の異常
1.中心結節(中央結節)
2.カラベリー結節
3.プロトスタイリッド
4.臼傍結節
5.臼後結節
6.融合歯
7.その他の特色ある歯の形態
Column
爬虫類から哺乳類へ〜なぜ生歯は減少したのか?〜
肉食系?それとも草食系?〜歯と食性〜
オスの歯,メスの歯
親知らずと智歯
歯の進化にまつわる咬頭の名づけ方
歯列のすきま〜霊長空隙と発育空隙〜
Angleの不正咬合の分類
歯の将来〜歯がなくなる日が来る?〜
人類学からみた日本人の歯
I 歯とは
1.歯の定義
2.歯の生物学的特性
II 歯の種類と記号
1.歯の種類と名称
2.歯の記号
III 歯の数と歯式
IV 方向用語
V 歯の形態
1.歯の外形
2.歯冠の形態
3.歯冠表面の浮彫像
4.歯根の形態
5.歯頸線
6.歯髄腔の形態
VI 歯の鑑別のながれ
1.歯種の鑑別
2.上下の鑑別
3.順位の鑑別
4.左右の鑑別
VII 歯と歯周組織の組織構造
1.歯の組織構造
2.歯周組織の組織構造
3.歯の固定
VIII 歯の機能
2章 永久歯
I 切歯
1.歯冠
2.歯根
3.歯髄腔
II 各切歯の特徴
1.上顎中切歯(第一切歯)
2.上顎側切歯(第二切歯)
3.下顎中切歯(第一切歯)
4.下顎側切歯(第二切歯)
III 犬歯
1.歯冠
2.歯根
3.歯髄腔
IV 各犬歯の特徴
1.上顎犬歯
2.下顎犬歯
V 小臼歯
1.歯冠
2.歯頸線
3.歯根
4.歯髄腔
VI 各小臼歯の特徴
1.上顎第一小臼歯
2.上顎第二小臼歯
3.下顎第一小臼歯
4.下顎第二小臼歯
VII 大臼歯
1.上顎大臼歯
2.上顎各大臼歯の形態の比較
3.下顎大臼歯
4.下顎各大臼歯の形態の比較
VIII 永久歯の大きさ
3章 乳歯
I 乳歯の形態的特徴
1.大きさ
2.歯冠の色
3.歯冠歯頸部
4.咬合面
5.歯冠・歯根移行部
6.歯根
7.歯髄腔
8.エナメル質および象牙質の厚さ
II 乳切歯
1.上顎乳中切歯(第一乳切歯)
2.上顎乳側切歯(第二乳切歯)
3.下顎乳中切歯(第一乳切歯)
4.下顎乳側切歯(第二乳切歯)
III 乳犬歯
1.上顎乳犬歯
2.下顎乳犬歯
IV 乳臼歯
1.上顎第一乳臼歯
2.上顎第二乳臼歯
3.下顎第一乳臼歯
4.下顎第二乳臼歯
V 乳歯の大きさ
4章 歯の配列と咬合
I 歯の配列
II 歯の植立(歯軸の傾斜)
III 咬合
1.鉗子状咬合
2.鋏状咬合
3.屋(根)状咬合
4.後退咬合
5.離開咬合
5章 歯の異常
I 歯数の異常
1.歯数過剰
2.歯数不足
3.乳歯の晩期残存
II 形態の異常
1.中心結節(中央結節)
2.カラベリー結節
3.プロトスタイリッド
4.臼傍結節
5.臼後結節
6.融合歯
7.その他の特色ある歯の形態
Column
爬虫類から哺乳類へ〜なぜ生歯は減少したのか?〜
肉食系?それとも草食系?〜歯と食性〜
オスの歯,メスの歯
親知らずと智歯
歯の進化にまつわる咬頭の名づけ方
歯列のすきま〜霊長空隙と発育空隙〜
Angleの不正咬合の分類
歯の将来〜歯がなくなる日が来る?〜
人類学からみた日本人の歯








