やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 このたび,日本歯科衛生士会監修により「歯科口腔保健の推進に向けて-ライフステージに応じた歯科保健指導ハンドブック-」を発行することになった.
 本書は,2011(平成23)年8月,歯科口腔保健の推進に関する法律(歯科口腔保健法)が公布・施行となり,翌2012(平成24)年7月,同法に基づく「歯科口腔保健の推進に関する基本的事項」(基本的事項)が策定され,大臣告示されたことを受け,企画された. 歯科口腔保健法は,第1条に「口腔の健康が,国民が健康で質の高い生活を営む上で基礎的かつ重要な役割を果たしている」と明記し,「基本的事項」には,口腔の健康の保持・増進に関する基本的方針のもと,健康格差の縮小,歯科疾患の予防,生活の質の向上に向けた口腔機能の維持・向上および歯科医療を受けることが困難な障害者・要介護高齢者等の目標・計画を掲げ,各ライフステージの特性に応じた歯科口腔保健の普及啓発とともに,歯科疾患の予防や歯科保健指導等の具体的項目が明示されている.
 従来の歯科保健対策では,おもに歯科疾患の予防等に重点が置かれる傾向にあったが,昨今の人口構成や疾病構造等の変化から,口腔機能の維持・向上に関する対策にも重点が置かれている.そのため,摂食や会話などの生活機能や生活の質に配慮した歯科保健指導をはじめ,歯科からの食育支援として,口腔機能の向上や,食べ方を支援する歯科保健指導の必要性が示されている.また,障害者や要介護高齢者等に対しては,口腔環境を清潔に保つための口腔ケアや摂食・嚥下機能向上等の支援にともない,家族・介護者等も含む歯科保健指導の必要性が高まっており,多職種との連携が不可欠となっている.
 歯科衛生士は,このような歯科口腔保健の目標・計画を踏まえて,幼児期から高齢期までのそれぞれの時期における口腔状態とその機能,および歯科疾患の特性に応じて,適切で効果的な歯科保健指導を実施しなければならない.そのために必要な知識・技能を習得するための身近なハンドブックとして本書が発行された.
 これからの新たな歯科口腔保健の推進に向けて,本書が広く活用され,国民の歯科口腔保健の推進に寄与することを願ってやまない.
 本書の発行にご執筆の労を賜った先生方をはじめ,ご尽力いただいた医歯薬出版株式会社の皆様に厚くお礼申し上げ,発刊の序とする.
 2014年3月
 公益社団法人 日本歯科衛生士会
 会長 金澤紀子
 序章 歯科口腔保健の推進に向けて
  I はじめに
  II 歯科口腔保健法の制定とその背景
  III 「歯科口腔保健の推進に関する基本的事項」の枠組みと特色
   1.枠組み 2.新たな視点に基づく特色
  IV 関連施策との有機的連携―とくに健康日本21(第2次)との連動について
  V 歯科衛生士が行うライフステージ別の歯科保健指導と歯科口腔保健法
  Column 意外と身近なPDCAサイクル
  Column 7の倍数と高齢化の不思議な関係
I編 歯科疾患の予防におけるライフステージに応じた歯科保健指導
 1章 乳幼児期
  I 口腔の特徴
   1.無歯期 2.乳歯萌出期 3.乳歯列完成期
  II 健全な歯・顎骨の成長・育成を図る
   1.歯の発育と栄養摂取(食事) 2.歯口清掃の指導 3.う蝕予防法
  III 歯科疾患,口腔の外傷
   1.乳歯う蝕 2.歯肉炎 3.口腔の外傷
  Column 食物による窒息事故
  Column 歯ブラシによる事故
 2章 学齢期
  I 口腔の特徴
   1.混合歯列期から永久歯列の完成まで 2.心身の発達と歯・口腔の発達
  II 生きる力をはぐくむ歯・口腔の健康づくり
   1.歯・口腔の発達と食生活 2.歯・口腔の機能に関わる疾患の予防・対策
  III 歯・口腔の外傷とその予防
   1.子どものQOLを高める習慣育成 2.歯の外傷の種類と応急処置
   3.マウスガードによる外傷予防
 3章 妊産婦期
  I よくみられる歯・口腔の特徴
   1.妊娠期と歯周病 2.妊娠性エプーリス 3.妊娠期とう蝕の増加
  II 母体栄養および胎児発育のための食生活
   1.歯の形成に必要な栄養素 2.カフェイン,飲酒,喫煙のリスク
  III 口腔の特徴と状況に応じた歯口清掃法
   1.つわり時のデンタルリンスやガムの活用 2.歯ブラシの選択
   3.補助清掃用具の活用 4.プロフェッショナルケア
 4章 成人期
  I 歯・口腔の一般的特徴
   1.歯肉炎の顕在化 2.生活習慣病による影響
  II 健全な口腔状態の維持・改善のための歯口清掃
   1.歯口清掃用具の種類 2.予防・改善のための歯口清掃法
  III 歯科での禁煙支援
   1.禁煙支援と歯科 2.歯科での禁煙支援
 5章 高齢期
  I 歯・口腔の一般的特徴
   1.口腔機能の低下 2.全身疾患との関わり
   3.歯・口腔に関連する高齢者の全身状態 4.口腔内の症状を訴える全身疾患
  II 歯の喪失を予防する
   1.食事指導 2.歯口清掃
  III よくみられる口腔疾患(予防や早期受診の指導について)
   1.根面う蝕 2.歯周病 3.口腔乾燥症 4.口腔粘膜疾患など
II編 生活の質の向上に向けた口腔機能の維持向上におけるライフステージに応じた歯科保健指導
 1章 乳幼児期および学齢期
  I 口腔機能の獲得に影響を及ぼす習癖
   1.指しゃぶり 2.吸唇癖,咬唇癖 3.舌突出癖 4.口呼吸
   5.歯ぎしり 6.爪かみ癖(咬爪癖)
  II 口腔機能に関わる病気や症状とその対応・指導116
   1.顎関節の機能不全 2.摂食・嚥下機能の獲得不全
 2章 成人期および高齢期
  I 咀嚼機能の維持・向上の重要性
   1.咀嚼機能と栄養摂取状態 2.咀嚼機能と全身の運動機能
   3.全身疾患と歯科保健指導
  II 誤嚥性肺炎の予防
   1.我が国における誤嚥性肺炎 2.誤嚥性肺炎の原因
   3.誤嚥性肺炎の症状 4.誤嚥性肺炎の予防
 3章 ライフステージに応じた食育支援
  I 乳幼児期
   1.乳児期 2.幼児期
  II 学齢期・思春期
   1.小学校低学年 2.小学校中学年 3.小学校高学年
   4.中学生,高校生
  III 成人期−社会生活における食習慣や生活習慣の課題に応じた継続的な食育指導・支援
  IV 高齢期−口腔機能の維持と誤嚥・窒息の防止をはじめとする安全性に配慮した食べ方の指導
III編 定期的に歯科検診または歯科医療を受けることが困難な者に対する歯科保健指導
 1章 障害児・障害者
  I 障害のある人のライフステージと歯科口腔保健
  II 障害児・者の口腔の特徴
   1.障害児・者によくみられる口腔疾患と特徴 2.障害児・者にみられる口腔機能の障害
  III 家族・介護者への口腔ケア指導
   1.歯科保健指導の前に必要な情報の収集と共有 2.障害の受容とラポールの形成
  IV 多職種や地域との取り組み
   1.定期的な歯科検診 2.プロフェッショナルケア
   3.摂食・嚥下リハビリテーション
  V 集団と個人,スペシャルニーズと個別化対応
   1.集団が対象の歯科保健指導と個人が対象の歯科保健指導
   2.歯科保健指導から歯科診療への連携
  Column 障害者差別解消法と障害者権利条約(Convention on the Rights of Persons with Disabilities)
 2章 要介護高齢者
  I 口腔感染の予防と口腔ケア
   1.口腔清掃 2.義歯の清掃
  II 口腔状態とQOLとの関わり
  III 家族・介護者への口腔ケア指導
  IV 多職種や地域との取り組み
   1.定期的な歯科検診 2.プロフェッショナルケア 3.摂食・嚥下リハビリテーション
  Column EAT-10
  Column Trans-disciplinary team approachとは