はじめに
わが国の歯科衛生教育の教育年限が3年以上になり,これに基づき教育も充実してきています.そして,歯科衛生士国家試験でも,従来あまり問われることのなかった領域も対象となってきました.その一つが,いわゆる「歯科医療管理」という分野です.
この分野の扱う範囲は,歯科医療の質と安全の確保に関する診療管理から経営管理まで広範にわたっており,大変重要なことにもかかわらず,これまで歯科医学教育ではあまり系統的に教授されてきませんでした.歯科衛生士教育でも“歯科医療の安全確保”に関しては同様であり,歯科衛生概論や歯科診療補助の授業で部分的に触れられているのが実態で,関係法令や科学的根拠まで系統立てて示すには至っていませんでした.
しかし,院内感染による死亡や医療事故が増え,社会問題化するなか,平成19年に医療法が改正され,これまで法的には別々に規定されていた医療安全に関する項目がこの医療法に一括してまとめられ,すべての医療機関に「医療の安全の確保」が義務づけられることになりました.その後,医科医療機関の医療安全への取り組みの流れが全体的に急速に促進され,現在では診療報酬のうえでも院内感染対策の評価が行われるに至りましたが,これもその一環です.当然,歯科医院も例外ではなく,その取り組みが喫緊の課題とされています.そのなかで,歯科衛生士もはじめて医薬品,医療機器などの管理責任の一端を担う資格のある職種と位置づけられ,この業務における歯科衛生士の活躍も必要になってきました.
このような背景のもとに,この間,歯科衛生士教育現場から医療安全管理(院内感染対策,インシデント防止等の管理)や医療に関わる情報管理に関する適当なテキスト発刊の要望が寄せられるようになりました.そこで,こうした声を踏まえて,座学のみならず,今後の歯科医療現場での必要性を見据えて,本書を発刊することにいたしました.
本書では,歯科衛生士の教本として多岐にわたる歯科医療安全の全体像をコンパクトにわかりやすく収めて理解を深めることを重視しました.また,教本として使うこと以外にも,ある特定の章だけを取り上げて学習することが可能なように構成されています.すなわち,授業の中では他の科目の副読本として使用できるように配慮しています.さらに,法的規定や根拠についての要点を提示し,併せて臨床現場の実践例をシェーマ,写真を多用して解説してありますので,現場の歯科衛生士,医療安全管理責任者である歯科医師の座右の書としても十分役立つものと思われます.
本書が,わが国の歯科衛生士教育ならびに歯科医療のさらなる向上にお役に立つことができればと願っております.
2014年2月
編者一同
わが国の歯科衛生教育の教育年限が3年以上になり,これに基づき教育も充実してきています.そして,歯科衛生士国家試験でも,従来あまり問われることのなかった領域も対象となってきました.その一つが,いわゆる「歯科医療管理」という分野です.
この分野の扱う範囲は,歯科医療の質と安全の確保に関する診療管理から経営管理まで広範にわたっており,大変重要なことにもかかわらず,これまで歯科医学教育ではあまり系統的に教授されてきませんでした.歯科衛生士教育でも“歯科医療の安全確保”に関しては同様であり,歯科衛生概論や歯科診療補助の授業で部分的に触れられているのが実態で,関係法令や科学的根拠まで系統立てて示すには至っていませんでした.
しかし,院内感染による死亡や医療事故が増え,社会問題化するなか,平成19年に医療法が改正され,これまで法的には別々に規定されていた医療安全に関する項目がこの医療法に一括してまとめられ,すべての医療機関に「医療の安全の確保」が義務づけられることになりました.その後,医科医療機関の医療安全への取り組みの流れが全体的に急速に促進され,現在では診療報酬のうえでも院内感染対策の評価が行われるに至りましたが,これもその一環です.当然,歯科医院も例外ではなく,その取り組みが喫緊の課題とされています.そのなかで,歯科衛生士もはじめて医薬品,医療機器などの管理責任の一端を担う資格のある職種と位置づけられ,この業務における歯科衛生士の活躍も必要になってきました.
このような背景のもとに,この間,歯科衛生士教育現場から医療安全管理(院内感染対策,インシデント防止等の管理)や医療に関わる情報管理に関する適当なテキスト発刊の要望が寄せられるようになりました.そこで,こうした声を踏まえて,座学のみならず,今後の歯科医療現場での必要性を見据えて,本書を発刊することにいたしました.
本書では,歯科衛生士の教本として多岐にわたる歯科医療安全の全体像をコンパクトにわかりやすく収めて理解を深めることを重視しました.また,教本として使うこと以外にも,ある特定の章だけを取り上げて学習することが可能なように構成されています.すなわち,授業の中では他の科目の副読本として使用できるように配慮しています.さらに,法的規定や根拠についての要点を提示し,併せて臨床現場の実践例をシェーマ,写真を多用して解説してありますので,現場の歯科衛生士,医療安全管理責任者である歯科医師の座右の書としても十分役立つものと思われます.
本書が,わが国の歯科衛生士教育ならびに歯科医療のさらなる向上にお役に立つことができればと願っております.
2014年2月
編者一同
CHAPTER 1 医療法と歯科衛生士
1 医療法と歯科診療における医療安全管理
1 医療法の第5次改正
2 医療法の改正が目指したもの
3 安全管理体制の確保
4 安全管理体制の整備とは具体的に何をすることか
2 安全管理責任者としての歯科衛生士
COLUMN(1) 医療安全に対する歯科衛生士の意識は?
3 医療安全をいかに共有するか
1 医療の“不確実性”について
2 医療安全の共有とは
3 誰が誰と何を共有するのか
4 歯科医療としてのプロフェッショナリズム
5 マネジメントの進め方
COLUMN(2) 歯科衛生士のプロフェッションフッド
6 リスクやミスを共有するコミュニケーション
7 会議・ミーティングの活用法
8 医療安全から安心,信頼へのプロセスについて
4 安全管理と歯科衛生士の自覚
1 新しい分野での社会的役割
2 1人ですべてを管理することはできない
3 安全管理責任者としての自覚
4 安全管理責任者としての職務
CHAPTER 2 安全管理責任者としての業務を理解しよう
1 医薬品の安全管理
1 安全管理責任者としての業務の基本
2 医薬品に関連したインシデント,アクシデントへの対応
3 歯科医院における医薬品安全管理業務の例
COLUMN(3) 医療安全の5S
4 病院における医薬品安全管理の補佐
2 医療機器の安全管理
1 安全管理責任者としての業務の基本
2 医療機器のリスクマネジメントの基本
3 定期的な保守点検と記録の重要性
COLUMN(4) PMDA―医療機器の安全に関する情報収集の方法
4 歯科医院における医療機器安全管理業務の例
COLUMN(5) リスク感性を養う
3 院内感染対策
1 院内感染対策責任者としての業務の基本
2 院内感染対策のリスクマネジメントの基本
3 歯科医院における院内感染対策業務の例
COLUMN(6) 単回使用の小分けパック
4 病院における院内感染対策の留意点
COLUMN(7) 滅菌消毒業務管理の基本
4 歯科訪問診療における感染対策
1 訪問診療時の感染対策の基本
2 訪問診療時の患者への感染対策
3 訪問診療時の歯科医療従事者の感染対策
5 感染性廃棄物の管理?特別管理一般廃棄物・産業廃棄物の処理
1 廃棄物の定義と分類
2 感染性廃棄物の判断基準
3 産業廃棄物と一般廃棄物の分類(分別)
4 管理責任者としての業務の基本
5 非感染性の廃棄物の表示
6 特別管理産業廃棄物管理マニフェストの交付・保管
7 廃棄物管理のための留意点
8 歯科医院における感染性廃棄物管理業務の例
9 病院における感染性廃棄物管理の留意点
6 訪問診療時の廃棄物管理
1 訪問診療時の廃棄物とは
2 訪問診療時の感染性廃棄物管理
CHAPTER 3 歯科医師によるその他の医療安全管理を知っておこう
1 施設管理
2 労務管理
3 防災管理
1 防火管理
2 地震等防災管理
COLUMN(8) 災害時の備え
COLUMN(9) 地震に対する10の備え
4 放射線管理
1 X線診療室
2 X線装置の管理
3 放射線の防護
5 院内掲示管理
1 医療法に基づく掲示物
2 個人情報保護法に基づく掲示物
3 療養担当規則等による院内掲示
4 その他の掲示物
COLUMN(10) 守秘義務(秘密保持義務)について
CHAPTER 4 医療情報,個人情報の管理
1 医療情報,個人情報の管理の基本
1 プライバシーの考え方
2 OECDガイドラインの8原則
3 プライバシーと個人情報の関係
4 個人情報保護法と医療関係者向けガイドラインとの違い
5 個人情報保護法を適用しない場合
2 個人情報保護方針の周知
1 医療情報,診療情報,患者情報
2 情報の一次利用と二次利用
3 患者情報の第三者提供
COLUMN(11) 守秘義務規定の事例
4 匿名化
5 電子保存の3基準
6 医療情報を取り扱う際の責任のあり方
3 個人情報に関する業務委託先の監督
1 個人情報管理の範囲
COLUMN(12) 「“ガイドライン”における個人情報取り扱いを業務委託する場合の留意点および従事者の守秘義務等
2 個人情報管理上のトラブルの可能性と対策の立案
ワーク 1.
4 歯科医院における個人情報管理の実際
1 個人情報管理についての職種別の“To Do”
ワーク 2.
2(個人情報管理についての)“場面“と“機能”に基づく“To Do”
ワーク 3.
5 病院における医療情報・個人情報の管理
1 病院情報システムの安全管理
2 組織的安全対策
3 物理的安全管理
4 技術的安全管理
5 情報の廃棄
CHAPTER 5 医療事故・医療過誤・医事紛争防止のポイント
1 医療事故・医療過誤・インシデントとは
1 言葉の定義について
COLUMN(13) アクシデント,インシデント,ヒヤリ・ハット
2 医療事故をどう捉え,どう対応するか
2 コミュニケーションの重要性
1 医療のコミュニケーションとは
2 なぜコミュニケーションエラーが発生するのか
3 医療コミュニケーションの三大コアスキル
3 よくあるインシデント,アクシデントの事例
1 はじめに
2 インシデント,アクシデントの事例
3 クレームを背景としたトラブルを防ぐには
4 具体的な防止策
1 意識の可視化と場の可視化
2 インシデントレポートの実際例
3 インシデントから学ぶ
5 歯科衛生士のインシデント,アクシデント事例と回避策
CHAPTER 6 院内感染予防対策の背景
1 院内感染対策に関わる国の対応と法制化等の経緯
1 院内感染対策有識者会議における検討
2 有識者会議報告書に基づく国の対応
3 医療安全対策の一環としての院内感染対策
4 医療法の一部改正に関する検討
5 医療法および医療法施行規則の一部改正
6 院内感染対策の具体的な運用
2 院内感染対策委員会と感染対策マニュアル
1 院内感染対策委員会の設置について
2 院内感染対策マニュアル
3 歯科医院における院内感染対策の責任者数
CHAPTER 付 1─保健所の立入検査
1 検査項目の要点
2 立入検査の手順とその対応
COLUMN(14) 毒薬と劇薬,毒物と劇物って?
3 検査で不備があった場合の処置
COLUMN(15) 「安全」,「安心」,「信頼」の上に立った歯科医療
CHAPTER 付 2─歯科医療安全管理のための歯科医院自主点検管理表
1 個人情報保護に関するチェックリスト
2 医療安全管理チェックリスト
3 医療機器安全管理対策チェックリスト
4 医薬品等の取り扱いのためのチェックリスト
5 歯科衛生士に関するチェックポイント
CHAPTER 付 3─医薬品業務手順書記載項目と記載例
参考文献
さくいん
1 医療法と歯科診療における医療安全管理
1 医療法の第5次改正
2 医療法の改正が目指したもの
3 安全管理体制の確保
4 安全管理体制の整備とは具体的に何をすることか
2 安全管理責任者としての歯科衛生士
COLUMN(1) 医療安全に対する歯科衛生士の意識は?
3 医療安全をいかに共有するか
1 医療の“不確実性”について
2 医療安全の共有とは
3 誰が誰と何を共有するのか
4 歯科医療としてのプロフェッショナリズム
5 マネジメントの進め方
COLUMN(2) 歯科衛生士のプロフェッションフッド
6 リスクやミスを共有するコミュニケーション
7 会議・ミーティングの活用法
8 医療安全から安心,信頼へのプロセスについて
4 安全管理と歯科衛生士の自覚
1 新しい分野での社会的役割
2 1人ですべてを管理することはできない
3 安全管理責任者としての自覚
4 安全管理責任者としての職務
CHAPTER 2 安全管理責任者としての業務を理解しよう
1 医薬品の安全管理
1 安全管理責任者としての業務の基本
2 医薬品に関連したインシデント,アクシデントへの対応
3 歯科医院における医薬品安全管理業務の例
COLUMN(3) 医療安全の5S
4 病院における医薬品安全管理の補佐
2 医療機器の安全管理
1 安全管理責任者としての業務の基本
2 医療機器のリスクマネジメントの基本
3 定期的な保守点検と記録の重要性
COLUMN(4) PMDA―医療機器の安全に関する情報収集の方法
4 歯科医院における医療機器安全管理業務の例
COLUMN(5) リスク感性を養う
3 院内感染対策
1 院内感染対策責任者としての業務の基本
2 院内感染対策のリスクマネジメントの基本
3 歯科医院における院内感染対策業務の例
COLUMN(6) 単回使用の小分けパック
4 病院における院内感染対策の留意点
COLUMN(7) 滅菌消毒業務管理の基本
4 歯科訪問診療における感染対策
1 訪問診療時の感染対策の基本
2 訪問診療時の患者への感染対策
3 訪問診療時の歯科医療従事者の感染対策
5 感染性廃棄物の管理?特別管理一般廃棄物・産業廃棄物の処理
1 廃棄物の定義と分類
2 感染性廃棄物の判断基準
3 産業廃棄物と一般廃棄物の分類(分別)
4 管理責任者としての業務の基本
5 非感染性の廃棄物の表示
6 特別管理産業廃棄物管理マニフェストの交付・保管
7 廃棄物管理のための留意点
8 歯科医院における感染性廃棄物管理業務の例
9 病院における感染性廃棄物管理の留意点
6 訪問診療時の廃棄物管理
1 訪問診療時の廃棄物とは
2 訪問診療時の感染性廃棄物管理
CHAPTER 3 歯科医師によるその他の医療安全管理を知っておこう
1 施設管理
2 労務管理
3 防災管理
1 防火管理
2 地震等防災管理
COLUMN(8) 災害時の備え
COLUMN(9) 地震に対する10の備え
4 放射線管理
1 X線診療室
2 X線装置の管理
3 放射線の防護
5 院内掲示管理
1 医療法に基づく掲示物
2 個人情報保護法に基づく掲示物
3 療養担当規則等による院内掲示
4 その他の掲示物
COLUMN(10) 守秘義務(秘密保持義務)について
CHAPTER 4 医療情報,個人情報の管理
1 医療情報,個人情報の管理の基本
1 プライバシーの考え方
2 OECDガイドラインの8原則
3 プライバシーと個人情報の関係
4 個人情報保護法と医療関係者向けガイドラインとの違い
5 個人情報保護法を適用しない場合
2 個人情報保護方針の周知
1 医療情報,診療情報,患者情報
2 情報の一次利用と二次利用
3 患者情報の第三者提供
COLUMN(11) 守秘義務規定の事例
4 匿名化
5 電子保存の3基準
6 医療情報を取り扱う際の責任のあり方
3 個人情報に関する業務委託先の監督
1 個人情報管理の範囲
COLUMN(12) 「“ガイドライン”における個人情報取り扱いを業務委託する場合の留意点および従事者の守秘義務等
2 個人情報管理上のトラブルの可能性と対策の立案
ワーク 1.
4 歯科医院における個人情報管理の実際
1 個人情報管理についての職種別の“To Do”
ワーク 2.
2(個人情報管理についての)“場面“と“機能”に基づく“To Do”
ワーク 3.
5 病院における医療情報・個人情報の管理
1 病院情報システムの安全管理
2 組織的安全対策
3 物理的安全管理
4 技術的安全管理
5 情報の廃棄
CHAPTER 5 医療事故・医療過誤・医事紛争防止のポイント
1 医療事故・医療過誤・インシデントとは
1 言葉の定義について
COLUMN(13) アクシデント,インシデント,ヒヤリ・ハット
2 医療事故をどう捉え,どう対応するか
2 コミュニケーションの重要性
1 医療のコミュニケーションとは
2 なぜコミュニケーションエラーが発生するのか
3 医療コミュニケーションの三大コアスキル
3 よくあるインシデント,アクシデントの事例
1 はじめに
2 インシデント,アクシデントの事例
3 クレームを背景としたトラブルを防ぐには
4 具体的な防止策
1 意識の可視化と場の可視化
2 インシデントレポートの実際例
3 インシデントから学ぶ
5 歯科衛生士のインシデント,アクシデント事例と回避策
CHAPTER 6 院内感染予防対策の背景
1 院内感染対策に関わる国の対応と法制化等の経緯
1 院内感染対策有識者会議における検討
2 有識者会議報告書に基づく国の対応
3 医療安全対策の一環としての院内感染対策
4 医療法の一部改正に関する検討
5 医療法および医療法施行規則の一部改正
6 院内感染対策の具体的な運用
2 院内感染対策委員会と感染対策マニュアル
1 院内感染対策委員会の設置について
2 院内感染対策マニュアル
3 歯科医院における院内感染対策の責任者数
CHAPTER 付 1─保健所の立入検査
1 検査項目の要点
2 立入検査の手順とその対応
COLUMN(14) 毒薬と劇薬,毒物と劇物って?
3 検査で不備があった場合の処置
COLUMN(15) 「安全」,「安心」,「信頼」の上に立った歯科医療
CHAPTER 付 2─歯科医療安全管理のための歯科医院自主点検管理表
1 個人情報保護に関するチェックリスト
2 医療安全管理チェックリスト
3 医療機器安全管理対策チェックリスト
4 医薬品等の取り扱いのためのチェックリスト
5 歯科衛生士に関するチェックポイント
CHAPTER 付 3─医薬品業務手順書記載項目と記載例
参考文献
さくいん








