やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 人が生きていくうえで,「口からものを食べる」ということは非常に大切です.「口から食べる」ことができないと,生活の質(QOL)が非常に低くなってしまいます.胃に直接栄養を入れる「胃瘻」でも生きていくことはできますが,食べる楽しみを失ってしまうことになります.
 一般的に,鳥や爬虫類以下では,口から食べてもほとんどが「丸飲み」状態です.これらの生物は,ただ「生きるため」だけに食べているのでしょう.私は,摂食とは「食べ物を咀嚼して,味を楽しむこと」,嚥下とは「楽しんだ後の食べ物を胃の中に確実に移動させること」ではないかと思っています.
 最近,筋力の衰えによって摂食・嚥下機能が低下し,誤嚥性肺炎を起こす高齢者が多くいらっしゃいます.嚥下するときには,舌骨上筋群により喉頭全体を持ち上げますが,その仕組みは非常に複雑で,いろいろな条件がそろわないと嚥下できません.言い換えると,ある部分が欠けると嚥下に失敗するのです.たとえば,「口をあけたまま飲み込む」……できません.「上を向いて飲み込む」……できません.「飲み込むときに息をする」……できません.
 嚥下の仕組みについては,これまでも多くの本などで説明されています.しかし,筋の収縮とその動きを3DCGを用いて説明したものは少ないのではないかと思います.本書では,デジタルソリューション株式会社のご協力のもと,これらの3DCGの制作を行い,嚥下の仕組みを三次元的に把握できるようにいたしました.また,嚥下の基本的なメカニズムについて簡単な解説を加えました.本書がこれから摂食・嚥下を学ぼうとする学生の皆さま,および臨床に携わる医療従事者の学習の一助になれば幸いと存じます.
 最後に,本書の企画にご協力いただいた広島大学大学院医歯薬保健学研究院の二川浩樹教授,デジタルソリューション株式会社の開発者の皆さまおよび医歯薬出版株式会社の担当者に心からの謝意を表します.
 平成25年3月
 監修者を代表して 里田 隆博
第1章 摂食・嚥下に関わる構造
 1 脳頭蓋
   前頭骨/頭頂骨/側頭骨/後頭骨/
   蝶形骨/篩骨/鼻骨/涙骨/鋤骨/下鼻甲介
 2 顔面頭蓋
  上顎骨
  口蓋骨
  頬骨
  下顎骨
  舌骨
  顎関節
 3 口腔の構造
  口腔
  口唇
  頬
  口蓋
  口腔底
  舌
  歯列
   上顎歯列/下顎歯列
  唾液腺
 4 鼻腔の構造
   鼻腔/副鼻腔
 5 咽頭の構造
 6 喉頭の構造
 7 食道の構造
 8 摂食・嚥下に関わる筋群
  顔面表情筋
   口輪筋
   大頬骨筋
   口角挙筋
   頬筋
   口角下制筋
   笑筋
  咀嚼筋
   側頭筋
   咬筋
   外側翼突筋
   内側翼突筋
  舌筋
   (1)外舌筋
    舌骨舌筋
    茎突舌筋
    オトガイ舌筋
   (2)内舌筋
    上縦舌筋
    下縦舌筋
    横舌筋
    垂直舌筋
  口蓋筋
   口蓋帆挙筋
   口蓋帆張筋
   口蓋垂筋
   口蓋咽頭筋
   口蓋舌筋
  舌骨上筋群
   顎二腹筋
   茎突舌骨筋
   顎舌骨筋
   オトガイ舌骨筋
  舌骨下筋群
   頬骨舌骨筋
   肩甲舌骨筋
   胸骨甲状筋
   甲状舌骨筋
  咽頭筋
   上咽頭収縮筋
   中咽頭収縮筋
   下咽頭収縮筋
   茎突咽頭筋
   耳管咽頭筋
  喉頭筋
   輪状甲状筋
   後輪状披裂筋
   外側輪状披裂筋
   甲状披裂筋
   甲状喉頭蓋筋
   斜披裂筋
   横披裂筋
   披裂喉頭蓋筋
第2章 摂食・嚥下のメカニズム
 1 液体嚥下
  5期モデル
  先行期
  準備期
  口腔期
  咽頭期
  食道期
 2 咀嚼嚥下
  プロセスモデル
  Stage I transport
  Processing(咀嚼)
  Stage II transport
  咽頭期以降
  Key Word 「VF」と「VE」
 第2章のまとめ
第3章 誤嚥のメカニズム
 1 嚥下前誤嚥
 2 嚥下中誤嚥
 3 嚥下後誤嚥
 第3章のまとめ

  Break Time
   鼻腔は何のためにあるか
   副鼻腔
   言葉
   痰
   鼻から牛乳
   咽頭という不思議な空間
   発声と息こらえのメカニズム
   赤ちゃんのおっぱい
   高齢者の嚥下
   高い音と低い音
   歯医者さんのクラウン装着
   咬み合わせと嚥下