校閲者序―歯科衛生教育と臨床のバイブル
『歯科衛生士の臨床』はClinical Practice of the Dental Hygienistの第9版を訳出して出版したものである.本書の最初の日本語版は,英語版の第4版を元として1986年に出版された.著者のウィルキンス先生は,現在も米国ボストンの大学と歯科衛生士学校で教育と研究に従事され,ご健在である.その間,このテキストは版を重ね,現在第9版が出版されているが,2000年の段階で第8版の英語版を入手し,目次に目を通したところ,歯科衛生士の業務を7つのステップに分つなど,第4版とは比較にならないほど歯科衛生士業務の充実した内容が網羅されていることが確認できた.それを監訳者の一人,松崎 晃先生に御覧に入れたところ,ぜひ日本語訳を世に送り出したいとのお話をされ,臨床に多忙な中,独自に第8版の翻訳を松崎先生のもとにおられた布施祐二先生と進めておられた.
その後,2005年に第9版が出版され,章立ての追加や新しい知見も盛り込んだ上に「倫理の観点」(“Everyday Ethics”)などの新企画も取り入れられ,最後の資料部分には米国疾病予防管理センター(CDC)による感染予防のガイドラインや米国・カナダの歯科衛生士会が作成した倫理規定の新訳も含めて,旧版の見直しも必要になったことから,全国歯科衛生士教育協議会のメンバーを中心に追加新訳と旧版の見直し作業を行い,漸く上梓するに至った.
日本語版初版の監訳者序にも記したところであるが,歯科衛生士業務の必要性・重要性などの認知が社会的に進む中,Dental Hygieneの考え方がさらに浸透し,よりよい口腔環境に基づく健康の維持に役立つ方向に向かうことが期待される.さらに本書の日本語版初版が出版された1986年は,わが国の歯科衛生士教育が2年制に統一移行される時期であったことと,今回の新訳出版が歯科衛生士教育の3年制移行の時期と重なるという,日本の歯科衛生士教育の大きな変革期に世に出ることを合わせて考えるといささか因縁めいた気がしてならない.
最後に,英語版第8版の翻訳作業を独自に進められた,松崎・布施の両先生に深く感謝申し上げるとともに,英語版第9版の追加訳および第8版の素訳見直しをしていただいた全国歯科衛生士教育協議会の関係各位に厚く御礼を申し上げます.さらに,本書の上梓に尽力を頂いた医歯薬出版株式会社をはじめとして本書の編集と出版に関係された方々に敬意を表したい.
平成19年12月10日
校閲にあたって
石川達也
監修のことば
Clinical Practice of the Dental Hygienistの日本語版は,昭和60年に石川達也先生と栗山純雄先生の監訳によって紹介され,当時の日本の歯科衛生士教育に大変影響が大きく反響も大きかったと聞いていました.当時就業年限は2年制になって間もない頃でした.一方,米国の教育もどんどん進歩変遷を見て,本書も原著は1959年が初版で,その後改定を重ね第9版まで出されており,次々にステップアップされていく内容はまさに充実していく今日の望ましい歯科衛生士業務そのものを表わしていると言えます.
この度,すでに第8版の翻訳を手がけられていた松崎 晃・布施祐二両先生のご了解のもとに,石川達也・松井恭平・眞木吉信先生の呼びかけにより,第9版の翻訳者に広く全国歯科衛生士教育協議会のスタッフを多数参加させ,前出の第8版分に加筆・追加・監修をさせていただき上梓するに至りました.
わが国の歯科衛生士の産みの親,育ての親として全衛協をつくられた榊原悠紀田郎先生は,今まですべての教育教本の編集を手がけられてこられた中で,常に看護師養成の教本を例にあげられ,歯科衛生士の教本も,もっとコンパクトにわかりやすい内容にしなければならないと自戒されておりましたが,ウィルキンスの本書はまさに,一冊で歯科臨床に携わる歯科衛生士に必要なすべての領域の知識と技術の解説を適確に表現されたハンドブックと言えます.
もともとわが国の歯科衛生士教育は,第二次世界大戦後に米国を範としてつくられ,昭和23年歯科衛生士法が制定され翌24年から養成が始まった経緯があるので,当初は米国流であったはずでしたが,わが国の諸事情と米国の違い,特に制度意識の差もあり,少しずつ誤差を生じるようになって来たように思われます.わが国でも教育年限が近年2年制から3年制に移行され,医療,保健,福祉の面での歯科界も疾病志向から予防志向に転換を求められる中,歯科衛生士への期待も幅広く求められて来ました.現在,私ども全国歯科衛生士教育協議会でも,最新教本の監修時には可能なかぎり社会環境に対応しうる教育内容を盛込もうと努力はしておりますが,それぞれの教科に分散されておりますので,同時に改定はしかねる悩みがあります.本書のように一冊で多岐にわたる分野を同時に表現出来ているものは,洋の東西で唯一と言ってよいと思っております.国際的に認められているウィルキンスの本書が,さらに重要性を帯びております.現在わが国の養成機関には800名ほどのインストラクターがおり,また臨床実習先の歯科衛生士の方々等5,000人以上の人が教育にタッチされており,歯科教育関係者はますます増える傾向にあります.これらの関係者が「最新歯科衛生士教本」全冊を読むことは不可能です.本書はこうした関係者にも大変便利なハンドブックと言えましょう.
翻訳・編集・刊行までの過程で全衛協役員・委員の皆様,出版社の方々や多くの関係者の方々に多大なご理解とご協力をいただきましたことを,監修に名前を出させていただいた全衛協の責任者と致しまして,深甚なる敬意と感謝を申し上げます.
平成19年12月10日
全国歯科衛生士教育協議会
会長 櫻井善忠
序文
本書(Clinical Practice of the Dental Hygienist)の初版から45年,妥当な臨床業務の中身と,口腔疾患予防および健康増進における歯科衛生士の役割の意義は多くの変化を受けてきた.科学知識の拡大と技術革新の進展は,歯科衛生士の職業に多大な影響を及ぼしている.
歯科用バイオフィルムに関する新研究によれば,齲蝕や歯周病を感染症ないし伝染性疾患として扱う必要性は明らかである.患者の個人的危険因子,ならびに口の健康と全身状態の相互作用を重視していけば,ついにはその最前線で医歯学連携が必要になる.臨床実務における標準的感染対策の新たな要件は,患者と歯科医療従事者の安全に関する水準を引き上げている.歯周病の早期発見および治療,ならびに歯科衛生処置の予後および転帰の評価に関して,総合的な患者の口腔ケアにおける歯科衛生士の重要な役割が示唆される.
本書の目的
本書の初版の序文は,次のように始まっている.「本書の主たる目的は,歯科衛生ケアの原理と技術,および個々の患者の指導に関する全体像を歯科衛生士に提供することである.患者の口腔および全身の健康ニーズをより深く理解することにより,より完全かつ有効なサービスの提供が可能になると期待される.本書は学生の前臨床/臨床理論および実習課程の教科書として,歯科衛生士の業務に関する参考書ないし手引きとして,また業務への復帰を考えている休職中の歯科衛生士の復習教材として役立つと思われる.」
第9版が使用されるようになっても,本書の根本的な目的は変わっていない.もちろん,現代医療に求められる能力に到達するのに必要な知識や技能は非常に拡大している.根拠に基づく医療は,患者が各自のニーズを満たすために,可能な限り優れたサービスを受けられることを保障する.
新版について
多くの章が広範に改訂されたが,最小限の変更ですんだ章もある.
新たに,24章「齲蝕の予防とコントロールのプロトコル(臨床計画)」,46章「小児の口腔保健ケア:乳児から5歳児まで」,57章「家庭における虐待とネグレクト」,62章「呼吸器疾患の患者」の各章が加わった.
この他に,旧版の章が統合され,6章「記録とチャートの記載」と28章「矯正装置装着患者」が組まれた.また2つの章が分割され,21章「歯科衛生ケアの立案」と第22章「歯科衛生ケアプラン」,および26章「歯間部のケア」と27章「化学療法と局所配送システム」になった.
本書の構成
本書は7つの部分に分かれている.第I編は歯科衛生士という職業の概説であるが,歯科衛生ケアのプロセスが詳述されている.第II編から第VI編にかけては,アセスメント,歯科衛生診断,ケアの立案,実施,および評価など,歯科衛生ケアプロセスの基礎を学ぶ.第VII編では,年齢,全身の健康問題,障害などのために特殊なケアを必要とするさまざまな患者について述べる.
第I編:オリエンテーション
第II編:歯科衛生業務に就くための予備知識
第III編:アセスメント
第IV編:ケアプランニング
第V編:予防
第VI編:治療
第VII編:特に注意を要する患者
付録(Appendix)には,米国およびカナダの歯科衛生士会の倫理規定,ならびに「歯科保健ケアにおける感染予防のガイドライン―2003」(米国保健社会福祉省疾病管理予防センター)に基づく勧告が掲載されている.
歯科衛生倫理
第9版の目玉は,歯科衛生倫理に関するテーマが本文全体に導入されていることであり,この部分はDonna Homenkoによって作成された.本文は第I編の導入的内容に始まり,各部の序文へとつながっている.それぞれの歯科衛生プログラムが倫理学の完全な履修課程となり得ることを考えれば,その目的は,臨床の教科書と経験の統合を図ることにある.
各章には,章末近くに「倫理の観点」(Everyday Ethics)と題した事例が示してあり,倫理的問題ないしジレンマがその解決策を探る議論を導くための質問とともに紹介されている.
教師用ウェブサイト
本書に付属する初の教師用ウェブサイトは,Rhoda GladstoneとCheryl Westphalによって企画された.教科書にない新情報が含まれており,後になってさらに追加される場合もある.このウェブサイトでは,症例研究,クイズ問題,講義ノートとスライド画像を含むパワーポイント資料,そして能動的学習問題などが提供される.種々のウェブサイトへのリンク,および各章に用意されたリソースにより,関係資料を入手できる.根拠に基づく学習を利用して重要事項の理解を促す点が特長である.(http://connection.lww.com/go/wilkins)
謝辞
世界各地の多くの教員,学生,そして医師の方々からアイデアやご教示をいただいている.新たな章の追加,あるいは簡単な表現変更に関わらず,ご指摘はすべて参考にし,可能な限り反映させていく.旧版と同様,ご意見やご要望をこの新版にもお寄せくだされば幸いである.
最初に,新設または改訂された章に関してご協力いただいた皆様にお礼を申し上げる.新設の倫理テーマを寄稿されたDonna Homenko博士は,各章に適した「倫理の観点」を提示してくださり,そのご尽力は特筆に価する.
Charlotte Wycheには大いに感謝している.彼女は学生用ワークブックを通じ,本書の教育/学習可能性に新たな側面を加えてくれた.また,Rhoda GladstoneとCheryl Westphal,そして彼らの勤めるニューヨーク大学の教職員の方々には大変感謝している.教員用ウェブサイトは,世界中の献身的な教員に類のないコミュニケーション手段を提供するであろう.
この版とこの前の2つの版のイラストは,Newton Highlands(マサチューセッツ州)の優れたアーティストMarcia Williamsの作品である.新たな制作や,以前使用した特定の作品に色を加える作業において彼女の示してくれた関心や忍耐には,心より感謝している.Emily Williamsには本当に感謝している.多くの章の電子コピー化において,彼女の巧みな仕事により,出来上がったコピーはほとんど変更の必要がなかった.
初版において述べたように,本書が,歯科衛生士のみなさんが患者の口腔の健康ニーズを理解し,十分に満足させる助けとなれば,著者,ならびに寄稿者にとってこれに勝る喜びはない.
Esther M.Wilkins
『歯科衛生士の臨床』はClinical Practice of the Dental Hygienistの第9版を訳出して出版したものである.本書の最初の日本語版は,英語版の第4版を元として1986年に出版された.著者のウィルキンス先生は,現在も米国ボストンの大学と歯科衛生士学校で教育と研究に従事され,ご健在である.その間,このテキストは版を重ね,現在第9版が出版されているが,2000年の段階で第8版の英語版を入手し,目次に目を通したところ,歯科衛生士の業務を7つのステップに分つなど,第4版とは比較にならないほど歯科衛生士業務の充実した内容が網羅されていることが確認できた.それを監訳者の一人,松崎 晃先生に御覧に入れたところ,ぜひ日本語訳を世に送り出したいとのお話をされ,臨床に多忙な中,独自に第8版の翻訳を松崎先生のもとにおられた布施祐二先生と進めておられた.
その後,2005年に第9版が出版され,章立ての追加や新しい知見も盛り込んだ上に「倫理の観点」(“Everyday Ethics”)などの新企画も取り入れられ,最後の資料部分には米国疾病予防管理センター(CDC)による感染予防のガイドラインや米国・カナダの歯科衛生士会が作成した倫理規定の新訳も含めて,旧版の見直しも必要になったことから,全国歯科衛生士教育協議会のメンバーを中心に追加新訳と旧版の見直し作業を行い,漸く上梓するに至った.
日本語版初版の監訳者序にも記したところであるが,歯科衛生士業務の必要性・重要性などの認知が社会的に進む中,Dental Hygieneの考え方がさらに浸透し,よりよい口腔環境に基づく健康の維持に役立つ方向に向かうことが期待される.さらに本書の日本語版初版が出版された1986年は,わが国の歯科衛生士教育が2年制に統一移行される時期であったことと,今回の新訳出版が歯科衛生士教育の3年制移行の時期と重なるという,日本の歯科衛生士教育の大きな変革期に世に出ることを合わせて考えるといささか因縁めいた気がしてならない.
最後に,英語版第8版の翻訳作業を独自に進められた,松崎・布施の両先生に深く感謝申し上げるとともに,英語版第9版の追加訳および第8版の素訳見直しをしていただいた全国歯科衛生士教育協議会の関係各位に厚く御礼を申し上げます.さらに,本書の上梓に尽力を頂いた医歯薬出版株式会社をはじめとして本書の編集と出版に関係された方々に敬意を表したい.
平成19年12月10日
校閲にあたって
石川達也
監修のことば
Clinical Practice of the Dental Hygienistの日本語版は,昭和60年に石川達也先生と栗山純雄先生の監訳によって紹介され,当時の日本の歯科衛生士教育に大変影響が大きく反響も大きかったと聞いていました.当時就業年限は2年制になって間もない頃でした.一方,米国の教育もどんどん進歩変遷を見て,本書も原著は1959年が初版で,その後改定を重ね第9版まで出されており,次々にステップアップされていく内容はまさに充実していく今日の望ましい歯科衛生士業務そのものを表わしていると言えます.
この度,すでに第8版の翻訳を手がけられていた松崎 晃・布施祐二両先生のご了解のもとに,石川達也・松井恭平・眞木吉信先生の呼びかけにより,第9版の翻訳者に広く全国歯科衛生士教育協議会のスタッフを多数参加させ,前出の第8版分に加筆・追加・監修をさせていただき上梓するに至りました.
わが国の歯科衛生士の産みの親,育ての親として全衛協をつくられた榊原悠紀田郎先生は,今まですべての教育教本の編集を手がけられてこられた中で,常に看護師養成の教本を例にあげられ,歯科衛生士の教本も,もっとコンパクトにわかりやすい内容にしなければならないと自戒されておりましたが,ウィルキンスの本書はまさに,一冊で歯科臨床に携わる歯科衛生士に必要なすべての領域の知識と技術の解説を適確に表現されたハンドブックと言えます.
もともとわが国の歯科衛生士教育は,第二次世界大戦後に米国を範としてつくられ,昭和23年歯科衛生士法が制定され翌24年から養成が始まった経緯があるので,当初は米国流であったはずでしたが,わが国の諸事情と米国の違い,特に制度意識の差もあり,少しずつ誤差を生じるようになって来たように思われます.わが国でも教育年限が近年2年制から3年制に移行され,医療,保健,福祉の面での歯科界も疾病志向から予防志向に転換を求められる中,歯科衛生士への期待も幅広く求められて来ました.現在,私ども全国歯科衛生士教育協議会でも,最新教本の監修時には可能なかぎり社会環境に対応しうる教育内容を盛込もうと努力はしておりますが,それぞれの教科に分散されておりますので,同時に改定はしかねる悩みがあります.本書のように一冊で多岐にわたる分野を同時に表現出来ているものは,洋の東西で唯一と言ってよいと思っております.国際的に認められているウィルキンスの本書が,さらに重要性を帯びております.現在わが国の養成機関には800名ほどのインストラクターがおり,また臨床実習先の歯科衛生士の方々等5,000人以上の人が教育にタッチされており,歯科教育関係者はますます増える傾向にあります.これらの関係者が「最新歯科衛生士教本」全冊を読むことは不可能です.本書はこうした関係者にも大変便利なハンドブックと言えましょう.
翻訳・編集・刊行までの過程で全衛協役員・委員の皆様,出版社の方々や多くの関係者の方々に多大なご理解とご協力をいただきましたことを,監修に名前を出させていただいた全衛協の責任者と致しまして,深甚なる敬意と感謝を申し上げます.
平成19年12月10日
全国歯科衛生士教育協議会
会長 櫻井善忠
序文
本書(Clinical Practice of the Dental Hygienist)の初版から45年,妥当な臨床業務の中身と,口腔疾患予防および健康増進における歯科衛生士の役割の意義は多くの変化を受けてきた.科学知識の拡大と技術革新の進展は,歯科衛生士の職業に多大な影響を及ぼしている.
歯科用バイオフィルムに関する新研究によれば,齲蝕や歯周病を感染症ないし伝染性疾患として扱う必要性は明らかである.患者の個人的危険因子,ならびに口の健康と全身状態の相互作用を重視していけば,ついにはその最前線で医歯学連携が必要になる.臨床実務における標準的感染対策の新たな要件は,患者と歯科医療従事者の安全に関する水準を引き上げている.歯周病の早期発見および治療,ならびに歯科衛生処置の予後および転帰の評価に関して,総合的な患者の口腔ケアにおける歯科衛生士の重要な役割が示唆される.
本書の目的
本書の初版の序文は,次のように始まっている.「本書の主たる目的は,歯科衛生ケアの原理と技術,および個々の患者の指導に関する全体像を歯科衛生士に提供することである.患者の口腔および全身の健康ニーズをより深く理解することにより,より完全かつ有効なサービスの提供が可能になると期待される.本書は学生の前臨床/臨床理論および実習課程の教科書として,歯科衛生士の業務に関する参考書ないし手引きとして,また業務への復帰を考えている休職中の歯科衛生士の復習教材として役立つと思われる.」
第9版が使用されるようになっても,本書の根本的な目的は変わっていない.もちろん,現代医療に求められる能力に到達するのに必要な知識や技能は非常に拡大している.根拠に基づく医療は,患者が各自のニーズを満たすために,可能な限り優れたサービスを受けられることを保障する.
新版について
多くの章が広範に改訂されたが,最小限の変更ですんだ章もある.
新たに,24章「齲蝕の予防とコントロールのプロトコル(臨床計画)」,46章「小児の口腔保健ケア:乳児から5歳児まで」,57章「家庭における虐待とネグレクト」,62章「呼吸器疾患の患者」の各章が加わった.
この他に,旧版の章が統合され,6章「記録とチャートの記載」と28章「矯正装置装着患者」が組まれた.また2つの章が分割され,21章「歯科衛生ケアの立案」と第22章「歯科衛生ケアプラン」,および26章「歯間部のケア」と27章「化学療法と局所配送システム」になった.
本書の構成
本書は7つの部分に分かれている.第I編は歯科衛生士という職業の概説であるが,歯科衛生ケアのプロセスが詳述されている.第II編から第VI編にかけては,アセスメント,歯科衛生診断,ケアの立案,実施,および評価など,歯科衛生ケアプロセスの基礎を学ぶ.第VII編では,年齢,全身の健康問題,障害などのために特殊なケアを必要とするさまざまな患者について述べる.
第I編:オリエンテーション
第II編:歯科衛生業務に就くための予備知識
第III編:アセスメント
第IV編:ケアプランニング
第V編:予防
第VI編:治療
第VII編:特に注意を要する患者
付録(Appendix)には,米国およびカナダの歯科衛生士会の倫理規定,ならびに「歯科保健ケアにおける感染予防のガイドライン―2003」(米国保健社会福祉省疾病管理予防センター)に基づく勧告が掲載されている.
歯科衛生倫理
第9版の目玉は,歯科衛生倫理に関するテーマが本文全体に導入されていることであり,この部分はDonna Homenkoによって作成された.本文は第I編の導入的内容に始まり,各部の序文へとつながっている.それぞれの歯科衛生プログラムが倫理学の完全な履修課程となり得ることを考えれば,その目的は,臨床の教科書と経験の統合を図ることにある.
各章には,章末近くに「倫理の観点」(Everyday Ethics)と題した事例が示してあり,倫理的問題ないしジレンマがその解決策を探る議論を導くための質問とともに紹介されている.
教師用ウェブサイト
本書に付属する初の教師用ウェブサイトは,Rhoda GladstoneとCheryl Westphalによって企画された.教科書にない新情報が含まれており,後になってさらに追加される場合もある.このウェブサイトでは,症例研究,クイズ問題,講義ノートとスライド画像を含むパワーポイント資料,そして能動的学習問題などが提供される.種々のウェブサイトへのリンク,および各章に用意されたリソースにより,関係資料を入手できる.根拠に基づく学習を利用して重要事項の理解を促す点が特長である.(http://connection.lww.com/go/wilkins)
謝辞
世界各地の多くの教員,学生,そして医師の方々からアイデアやご教示をいただいている.新たな章の追加,あるいは簡単な表現変更に関わらず,ご指摘はすべて参考にし,可能な限り反映させていく.旧版と同様,ご意見やご要望をこの新版にもお寄せくだされば幸いである.
最初に,新設または改訂された章に関してご協力いただいた皆様にお礼を申し上げる.新設の倫理テーマを寄稿されたDonna Homenko博士は,各章に適した「倫理の観点」を提示してくださり,そのご尽力は特筆に価する.
Charlotte Wycheには大いに感謝している.彼女は学生用ワークブックを通じ,本書の教育/学習可能性に新たな側面を加えてくれた.また,Rhoda GladstoneとCheryl Westphal,そして彼らの勤めるニューヨーク大学の教職員の方々には大変感謝している.教員用ウェブサイトは,世界中の献身的な教員に類のないコミュニケーション手段を提供するであろう.
この版とこの前の2つの版のイラストは,Newton Highlands(マサチューセッツ州)の優れたアーティストMarcia Williamsの作品である.新たな制作や,以前使用した特定の作品に色を加える作業において彼女の示してくれた関心や忍耐には,心より感謝している.Emily Williamsには本当に感謝している.多くの章の電子コピー化において,彼女の巧みな仕事により,出来上がったコピーはほとんど変更の必要がなかった.
初版において述べたように,本書が,歯科衛生士のみなさんが患者の口腔の健康ニーズを理解し,十分に満足させる助けとなれば,著者,ならびに寄稿者にとってこれに勝る喜びはない.
Esther M.Wilkins
第I編 オリエンテーション
1.専門職としての歯科衛生士
第II編 歯科衛生業務に就くための予備知識
2.感染予防:伝播性疾患
3.感染予防:患者と術者のための防護
4.感染予防:臨床における手順
5.患者への応対とポジショニング
第III編 アセスメント
6.記録とチャートの記載
7.個人的・歯科的・医科的既往歴
8.バイタルサイン
9.歯科エックス線写真
10.口腔内外の診査
11.スタディモデル
12.歯肉
13.診査方法
14.疾患の進展とその原因となる要因
15.歯
16.咬合
17.デンタルバイオフィルムと他の軟性沈着物
18.歯石
19.歯への色素沈着と変色
20.指数とスコアリングの方法
第IV編 ケアプランニング
21.歯科衛生ケアの立案
22.歯科衛生ケアプラン
第V編 予防
23.健康増進と疾病予防
24.齲蝕の予防とコントロールのプロトコル(臨床計画)
25.口腔疾患の管理:歯ブラシとブラッシング
26.歯間部のケア
27.化学療法と局所配送システム
28.矯正装置装着患者
29.補綴物のケア
30.口腔機能の回復とインプラントを必要とする患者
31.タバコを使用する患者
32.食物と食事分析
33.フッ化物
34.シーラント
第VI編 治療
35.不安と疼痛の抑制
36.インスツルメンテーションに用いる器具とその原則
37.非外科的歯周治療に用いられるインスツルメンテーション
38.非外科的歯周治療:補足的ケアの手段
39.急性の歯周疾患
40.縫合と歯周包帯
41.象牙質知覚過敏症
42.外因性色素沈着の除去
43.歯冠修復物のケア
44.健康な口腔のためのメインテナンス:継続的な歯科衛生ケア
第VII編 特に注意を要する患者
45.妊娠している患者
46.小児の口腔保健ケア:乳児から5歳児まで
47.唇裂・口蓋裂のある患者
48.思春期から更年期の患者
49.老年歯科患者
50.無歯顎の患者
51.口腔・顎顔面外科の患者
52.癌の患者
53.障害のある患者のケア
54.閉じこもりや寝たきりの患者
55.身体障害のある患者
56.感覚障害のある患者
57.家庭における虐待とネグレクト
58.てんかんのある患者
59.知的障害のある患者
60.精神障害のある患者
61.アルコール関連障害の患者
62.呼吸器疾患の患者
63.心血管系疾患の患者
64.血液疾患の患者
65.糖尿病の患者
66.救急処置
付録I 歯科衛生士のための米国歯科衛生士会の倫理規定
付録II カナダ歯科衛生士会の倫理規定
付録III 歯科保健ケアにおける感染予防のガイドライン―2003
付録IV ヒトの歯の平均サイズ
索引
1.専門職としての歯科衛生士
第II編 歯科衛生業務に就くための予備知識
2.感染予防:伝播性疾患
3.感染予防:患者と術者のための防護
4.感染予防:臨床における手順
5.患者への応対とポジショニング
第III編 アセスメント
6.記録とチャートの記載
7.個人的・歯科的・医科的既往歴
8.バイタルサイン
9.歯科エックス線写真
10.口腔内外の診査
11.スタディモデル
12.歯肉
13.診査方法
14.疾患の進展とその原因となる要因
15.歯
16.咬合
17.デンタルバイオフィルムと他の軟性沈着物
18.歯石
19.歯への色素沈着と変色
20.指数とスコアリングの方法
第IV編 ケアプランニング
21.歯科衛生ケアの立案
22.歯科衛生ケアプラン
第V編 予防
23.健康増進と疾病予防
24.齲蝕の予防とコントロールのプロトコル(臨床計画)
25.口腔疾患の管理:歯ブラシとブラッシング
26.歯間部のケア
27.化学療法と局所配送システム
28.矯正装置装着患者
29.補綴物のケア
30.口腔機能の回復とインプラントを必要とする患者
31.タバコを使用する患者
32.食物と食事分析
33.フッ化物
34.シーラント
第VI編 治療
35.不安と疼痛の抑制
36.インスツルメンテーションに用いる器具とその原則
37.非外科的歯周治療に用いられるインスツルメンテーション
38.非外科的歯周治療:補足的ケアの手段
39.急性の歯周疾患
40.縫合と歯周包帯
41.象牙質知覚過敏症
42.外因性色素沈着の除去
43.歯冠修復物のケア
44.健康な口腔のためのメインテナンス:継続的な歯科衛生ケア
第VII編 特に注意を要する患者
45.妊娠している患者
46.小児の口腔保健ケア:乳児から5歳児まで
47.唇裂・口蓋裂のある患者
48.思春期から更年期の患者
49.老年歯科患者
50.無歯顎の患者
51.口腔・顎顔面外科の患者
52.癌の患者
53.障害のある患者のケア
54.閉じこもりや寝たきりの患者
55.身体障害のある患者
56.感覚障害のある患者
57.家庭における虐待とネグレクト
58.てんかんのある患者
59.知的障害のある患者
60.精神障害のある患者
61.アルコール関連障害の患者
62.呼吸器疾患の患者
63.心血管系疾患の患者
64.血液疾患の患者
65.糖尿病の患者
66.救急処置
付録I 歯科衛生士のための米国歯科衛生士会の倫理規定
付録II カナダ歯科衛生士会の倫理規定
付録III 歯科保健ケアにおける感染予防のガイドライン―2003
付録IV ヒトの歯の平均サイズ
索引