やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

まえがき

 誰にでもルールは必要です.ルールは人生を生き抜く手段です.私たちを慎重にしてくれます.専門職の世界ではなくてはならない日常業務を助けてくれます.ルールはガイドラインにもなります.また倫理観のあるエキスパートにもしてくれます.
 仕事がうまく進行するか,早めに失敗してしまうかの分かれ目が,歯科衛生士としての専門業務のテクニックとともに,ルールによって決定されることがあります.たとえば,説明書の操作方法に従わなければ,小窩裂溝のシーラントはどれだけ長持ちすると思いますか.礼儀や親切のルールを無視すれば,患者さんはどこかよその医院で口腔ケアをしてもらうでしょう.
 研究が進むとともにルールは定期的に変わります.私たちは数年前に使っていたルールを振り返り,くすくす笑っています.笑いながらこう思います,「ほんとにあんなことやってたのかしら 」.人生における基本ルールは「いつでも変化に対応できるようにしておきなさい」です.
 この小さなルールブックには歯科衛生士の診療,患者さん,同僚,それに人間関係について書いてあります.たぶん,一回に読むのは2〜3個ずつでしょう.それでいいのです.急ぐことはありません.問題を解決するような方策も秘訣も書いてありません.
 中にはあなた自身のルールを蘇らせたり,補強したりするルールもあることと期待しています.このすぐうしろには宛名入りの書き込み用紙があって,新しいルールを思いついて送っていただいたら,次の版にそれを載せられるようになっています.
 この,機知と知恵と経験をちりばめた珠玉の名言集が面白くてためになるものであればと願っています.きっとこの本を楽しんでいただけるでしょうおそらく少しだけ考え込み,少しだけ学び,そして少しだけ笑っていただけることでしょう.
 最近の噂によれば,歯科衛生士という専門職は将来にわたってなくなりはしないだろうということです.だから初心を忘れないこと.楽しんで仕事をすること.そして何よりも,一人ぼっちにならないこと.
 歯科衛生士,歯科医師 エスター・ウィルキンス

訳者まえがき

 訳者ら(伊藤,夏野)が歯科衛生士教育機関に奉職して十余年になります.その間,必要な知識と技能を身につけた歯科衛生士諸君を世に送り続けたわけですが,臨床の現場ではとおりいっぺんの知識と技能だけで処しきれるものではないということを卒業生からよく耳にしています.
 何か指針となるものがないかと考えていたところ,ウィルキンス先生がとても可愛い本を出版されたことを知りました.そこには歯科衛生士に必要な心構え,チェアサイドでの注意,業務のテクニック,患者さんとの接し方,同僚との関係,さらに気晴らしの仕方までが実に簡潔に,ときにはユーモラスに,一つ一つ「ルール」として書かれています.多くの「ルール」はどこかで教わったはずのものでしょう.でも,新卒者にとってはそれを思い出す余裕をもつのは難しいでしょうし,ベテランは得てして初心を忘れがちになるものです.そんなときにページを開くと「ハッ」とさせられたり,「なるほど 」と思わせる「ルール」が書いてあるのです.
 著者のウィルキンス先生は周知のとおりアメリカ,いや世界の歯科衛生士界の重鎮で,読者は名著Clinical Practice of the Dental Hygienist(邦題「歯科衛生士ハンドブック」)などを通じておなじみだろうと思います.
 そんな先生の図書を訳出する機会を得ただけでも幸運なのに,この度は現在ボストンに在住し,ウィルキンス先生の教えを学生時代受けた加藤が翻訳チームに加わってくれ,正確な翻訳とともに現場の息吹を伝えてくれました.
 アメリカの制度,法律と日本のそれらとは違います.したがってわが国にそのまま摘要できない項目がいくつかあります.その場合は注釈を付けてお断りしました.日本では歯科医師の業務範囲に含まれるものが,ここでは歯科衛生士の業務として数々のアドバイスがなされています.その意味では歯科医師の先生方にも一読をお薦めします.
 訳出にあたっては日本歯科大学勤務の歯科医師,歯科衛生士の多くの方々に教えを受けました.ここに感謝の意を表します.
 なお,本文中の()内は原文のままで,〔 〕内は訳注です.
 訳者を代表して,夏野徹也