はじめに
齲蝕学(カリオロジー)は,新たな時代の幕開けを迎えています.科学の進歩により齲蝕への理解が深まるにつれ,齲蝕治療は感染除去を目的とした「病変」に介入する時代から,病変の「活動性」に着目し,齲蝕をコントロールする(=カリエスコントロール)時代へと大きく舵をきりました.ルールが変われば,ゲームが変わる,ゲームが変われば,主役も変わります.
これまでどおり,歯科医師による「削る治療」も齲蝕治療の重要な役割を担います.しかし,歯周治療で「切らない治療(歯周基本治療)」なしにいきなり「切る治療(歯周外科治療)」をすることがないように,齲蝕治療においても初期治療である「削らない治療」がその土台と考えられるようになりました.「削らない治療」とは,個々の患者さんのリスクに応じて必要な知識を提供し,行動変容を促すことであり,この主役を担うのはまさに歯科衛生士の皆さんなのです.「齲窩は技術で治すもの,齲蝕は知識で治すもの」という考え方が,カリオロジーの新たな時代を象徴しています.
これまでカリオロジーの勉強はしたけれど,患者さんに伝えてもなかなかうまくいかないと悩む方もいらっしゃったと思います.そこで本別冊では,カリエスコントロールを成功に導くための筆者なりの秘訣を「レシピ」としてまとめました.患者さんを変えるためにもっとも大切なのは,まずは自分が変わること.そして,患者さんにわかりやすく説明するためには,自分自身がカリエスコントロールについて深く理解していることが大切です.
本別冊では,まずは「齲蝕とは何か?」「なぜ齲蝕を削るのか?」という根本的な問いを整理しながら,カリエスコントロールの重要性を説明していきます.続いて,齲蝕や酸蝕のリスク因子である,バイオフィルム(歯磨き),フッ化物,糖(飲食),酸,ドライマウス(唾液)の各要素について理解し,患者さんに情報提供するためのレシピをお教えします.
齲蝕はこれらの要素が掛け合わされて起こる多因子性疾患ですので,これらのどれか1つが欠けてもカリエスコントロールはうまくいきません.
カリエスコントロールは一生涯続く,長いプロセスです.そのため,いまは完璧でなくとも,小さな積み重ねを継続することが患者さんの健康を守る力となります.本物の技術は,壁にぶつかりながら築かれます.成功も大切ですが,失敗こそが成長の糧です.最初から完璧な方法を探すのではなく,まずは実践してみて,小さな気づきを積み重ねることでわかってくることがあるのです.
本別冊では,明日から個人やチームで導入できる実践的なカリエスコントロールの方法を紹介しています.また,これらの取り組みをスムーズに始められるよう,問診票や説明用媒体などの付録を多数用意しました(p.128参照).まずは本書の内容を真似ることから,カリエスコントロールの一歩を踏み出していただければと思います.
料理をおいしく作るコツは食べてくれる人への想いだと聞いたことがあります.カリエスコントロールもただの技術ではありません.それは患者さんとの信頼の積み重ねで可能となるプロセスであり,歯科衛生士の皆さんの仕事は患者さんの「あなたに診てもらえてよかった」という言葉につながる,尊い仕事です.歯科衛生士のみなさんには,本書のレシピを手に臨床に取り組むなかで,患者さんの健康を守るカリオロジーという学問を,そして多様で奥深いそれぞれの患者さんを,好きになっていただければと思います.
本別冊が日本各地でひたむきに努力を重ねている歯科衛生士の皆さんの力になり,あなたとその患者さんにとって,小さな希望となるよう祈っています.
さあ,新しいカリエスコントロールの時代を,いっしょに切り拓いていきましょう!
2025年4月
伊藤直人
齲蝕学(カリオロジー)は,新たな時代の幕開けを迎えています.科学の進歩により齲蝕への理解が深まるにつれ,齲蝕治療は感染除去を目的とした「病変」に介入する時代から,病変の「活動性」に着目し,齲蝕をコントロールする(=カリエスコントロール)時代へと大きく舵をきりました.ルールが変われば,ゲームが変わる,ゲームが変われば,主役も変わります.
これまでどおり,歯科医師による「削る治療」も齲蝕治療の重要な役割を担います.しかし,歯周治療で「切らない治療(歯周基本治療)」なしにいきなり「切る治療(歯周外科治療)」をすることがないように,齲蝕治療においても初期治療である「削らない治療」がその土台と考えられるようになりました.「削らない治療」とは,個々の患者さんのリスクに応じて必要な知識を提供し,行動変容を促すことであり,この主役を担うのはまさに歯科衛生士の皆さんなのです.「齲窩は技術で治すもの,齲蝕は知識で治すもの」という考え方が,カリオロジーの新たな時代を象徴しています.
これまでカリオロジーの勉強はしたけれど,患者さんに伝えてもなかなかうまくいかないと悩む方もいらっしゃったと思います.そこで本別冊では,カリエスコントロールを成功に導くための筆者なりの秘訣を「レシピ」としてまとめました.患者さんを変えるためにもっとも大切なのは,まずは自分が変わること.そして,患者さんにわかりやすく説明するためには,自分自身がカリエスコントロールについて深く理解していることが大切です.
本別冊では,まずは「齲蝕とは何か?」「なぜ齲蝕を削るのか?」という根本的な問いを整理しながら,カリエスコントロールの重要性を説明していきます.続いて,齲蝕や酸蝕のリスク因子である,バイオフィルム(歯磨き),フッ化物,糖(飲食),酸,ドライマウス(唾液)の各要素について理解し,患者さんに情報提供するためのレシピをお教えします.
齲蝕はこれらの要素が掛け合わされて起こる多因子性疾患ですので,これらのどれか1つが欠けてもカリエスコントロールはうまくいきません.
カリエスコントロールは一生涯続く,長いプロセスです.そのため,いまは完璧でなくとも,小さな積み重ねを継続することが患者さんの健康を守る力となります.本物の技術は,壁にぶつかりながら築かれます.成功も大切ですが,失敗こそが成長の糧です.最初から完璧な方法を探すのではなく,まずは実践してみて,小さな気づきを積み重ねることでわかってくることがあるのです.
本別冊では,明日から個人やチームで導入できる実践的なカリエスコントロールの方法を紹介しています.また,これらの取り組みをスムーズに始められるよう,問診票や説明用媒体などの付録を多数用意しました(p.128参照).まずは本書の内容を真似ることから,カリエスコントロールの一歩を踏み出していただければと思います.
料理をおいしく作るコツは食べてくれる人への想いだと聞いたことがあります.カリエスコントロールもただの技術ではありません.それは患者さんとの信頼の積み重ねで可能となるプロセスであり,歯科衛生士の皆さんの仕事は患者さんの「あなたに診てもらえてよかった」という言葉につながる,尊い仕事です.歯科衛生士のみなさんには,本書のレシピを手に臨床に取り組むなかで,患者さんの健康を守るカリオロジーという学問を,そして多様で奥深いそれぞれの患者さんを,好きになっていただければと思います.
本別冊が日本各地でひたむきに努力を重ねている歯科衛生士の皆さんの力になり,あなたとその患者さんにとって,小さな希望となるよう祈っています.
さあ,新しいカリエスコントロールの時代を,いっしょに切り拓いていきましょう!
2025年4月
伊藤直人
はじめに
第1章 Recipe 0 「カリエスコントロール」を知る
齲蝕と齲窩を分けて考えてみよう
齲蝕の活動性の見分け方
活動性をみる〜視覚触覚検査の実際
齲蝕は生涯にわたってコントロールする!
齲蝕治療の流れは歯周治療と同じ?
「削らない治療」が齲蝕治療の柱になったワケ
カリエスコントロールに必要な患者さん個別の齲蝕のリスク因子を知り,対応するには?
カリエス劇場第1幕 齲蝕治療の変遷
カリエスコントロール Q&A
齲蝕は他人にうつりますか? 子どもと食具を共有してもよいですか?
細菌検査は行ったほうがよいでしょうか?
第2章 カリエスコントロールの5つのレシピ
Recipe 1 バイオフィルム(歯磨き)
なぜ歯磨きをするのかを理解してもらおう
バイオフィルムの下に齲蝕ができるまで
バイオフィルムが成熟すると?
1日何回,いつ磨けばいい?
Recipe1 バイオフィルム(歯磨き)
カリエス劇場第2幕 バイオフィルムの下で歯が溶けるまで
バイオフィルム(歯磨き)Q&A
まったく歯磨きをしないのに齲蝕にならない人がいるのはなぜ?
デンタルフロスで齲蝕は予防できますか?
PMTC(Professional Mechanical Tooth Cleaning)は齲蝕予防に効果的ですか?
Recipe 2 フッ化物
フッ化物って効果があるの?
フッ化物(フッ素)とは?
なぜフッ化物で齲蝕が予防できるの?〜フッ化物についての考え方のパラダイムシフト
フッ化物を効果的に効かせるにはどうすればいいの?
セルフケアでのフッ化物の応用
プロフェッショナルケアでのフッ化物の応用
セルフケアではどんなフッ化物を使用すればいいの?
どのようにフッ化物配合歯磨剤を使うと効果的?
歯科医院でのプロフェッショナルケア(歯面塗布)ではどんなフッ化物を使えばいいの?
Recipe2 フッ化物
カリエス劇場第3幕 フッ化物による再石灰化促進のメカニズム
フッ化物 Q&A
齲蝕予防効果が高いフッ化物の組み合わせは?
フッ化物の急性中毒と歯のフッ素症について教えてください
フッ化物応用に反対されている保護者の方への説明のポイントを教えてください
Recipe 3 糖(飲食)
砂糖だけが齲蝕の原因ではない!?
どの糖が齲蝕になるの?
糖を摂るとなぜ齲蝕になるの?
どんなものに糖が入っているの?
カリエスリスクを高めるのは糖の量? 摂取回数?
1日何回までだったら糖を摂取してもいいの?
糖について患者さんにどう伝えればいいの?
Recipe3 糖(飲食)
1コマカリエス劇場 細菌もつらいよ
糖(飲食) Q&A
母乳や牛乳は齲蝕になるのですか?
特に注意した方がよい,齲蝕になりやすい飲食物はありますか?
齲蝕にならない飲食物には何がありますか?
運動をするためスポーツドリンクを摂取されている方や,味見が必要な職業の方にはどのようなアドバイスをしていますか?
Recipe 4 酸
酸蝕症とは?〜注意すべきは齲蝕だけではない!
酸蝕症の原因となる飲食物は?
酸蝕症を引き起こさない飲食物・引き起こす飲食物
酸蝕と齲蝕の関係
酸蝕症は防げる? 歯磨きは時間を空けて行うべき?
酸蝕症の対応で重要なのは原因の改善
Recipe4 酸
カリエス劇場第4幕 齲蝕と酸蝕の歯の溶け方の違い
Recipe 5 ドライマウス(唾液)
65歳以上の高齢者の30%はドライマウス
唾液の役割
唾液の種類と出る場所
唾液量をはかろう
ドライマウスの原因
ドライマウスへの対応
Recipe5 ドライマウス(唾液)
カリエス劇場第5幕 唾液のおもな3つの働き
ドライマウス(唾液)Q&A
患者さんから「口の乾燥が気になるのであめをなめたい」と言われました.どんなものを勧めるべき?
がんの放射線治療などで唾液が出ない方にはどのようなアドバイスをすればよいでしょうか?
第3章 クリニックで行うカリエスコントロールの実際
初診(初期診査・診断・治療計画立案)
来院2回目(初期治療・削らない治療・非外科治療)
初期治療(初期治療・削らない治療・非外科治療)
再診査・再評価1・治療計画立案
修正療法(削らない治療・削る治療)
再評価2
メインテナンス(SPT・SCT)
カリエスコントロールのためのMust Buyリスト
10Questions活用のポイント
カリエスコントロールの5つのレシピ〜齲蝕の削らない治療法「NICCS」説明ポイント
おわりに
付録 カリエスコントロールお助けレシピ
(1)カリエスリスクを把握する「10Questions」
(2)齲蝕の削らない治療法「NICCS」患者説明用媒体(表),飲食物のpH(裏)
(3)齲蝕治療についての説明用媒体
(4)酸性の飲食物で歯が溶けることの説明用媒体
(5)酸蝕の患者さんへの説明用媒体
(6)齲蝕精密検査表(成人)
(7)齲蝕精密検査表(小児)
(8)カリエスコントロールの流れ(成人)
(9)カリエスコントロールの流れ(小児)
第1章 Recipe 0 「カリエスコントロール」を知る
齲蝕と齲窩を分けて考えてみよう
齲蝕の活動性の見分け方
活動性をみる〜視覚触覚検査の実際
齲蝕は生涯にわたってコントロールする!
齲蝕治療の流れは歯周治療と同じ?
「削らない治療」が齲蝕治療の柱になったワケ
カリエスコントロールに必要な患者さん個別の齲蝕のリスク因子を知り,対応するには?
カリエス劇場第1幕 齲蝕治療の変遷
カリエスコントロール Q&A
齲蝕は他人にうつりますか? 子どもと食具を共有してもよいですか?
細菌検査は行ったほうがよいでしょうか?
第2章 カリエスコントロールの5つのレシピ
Recipe 1 バイオフィルム(歯磨き)
なぜ歯磨きをするのかを理解してもらおう
バイオフィルムの下に齲蝕ができるまで
バイオフィルムが成熟すると?
1日何回,いつ磨けばいい?
Recipe1 バイオフィルム(歯磨き)
カリエス劇場第2幕 バイオフィルムの下で歯が溶けるまで
バイオフィルム(歯磨き)Q&A
まったく歯磨きをしないのに齲蝕にならない人がいるのはなぜ?
デンタルフロスで齲蝕は予防できますか?
PMTC(Professional Mechanical Tooth Cleaning)は齲蝕予防に効果的ですか?
Recipe 2 フッ化物
フッ化物って効果があるの?
フッ化物(フッ素)とは?
なぜフッ化物で齲蝕が予防できるの?〜フッ化物についての考え方のパラダイムシフト
フッ化物を効果的に効かせるにはどうすればいいの?
セルフケアでのフッ化物の応用
プロフェッショナルケアでのフッ化物の応用
セルフケアではどんなフッ化物を使用すればいいの?
どのようにフッ化物配合歯磨剤を使うと効果的?
歯科医院でのプロフェッショナルケア(歯面塗布)ではどんなフッ化物を使えばいいの?
Recipe2 フッ化物
カリエス劇場第3幕 フッ化物による再石灰化促進のメカニズム
フッ化物 Q&A
齲蝕予防効果が高いフッ化物の組み合わせは?
フッ化物の急性中毒と歯のフッ素症について教えてください
フッ化物応用に反対されている保護者の方への説明のポイントを教えてください
Recipe 3 糖(飲食)
砂糖だけが齲蝕の原因ではない!?
どの糖が齲蝕になるの?
糖を摂るとなぜ齲蝕になるの?
どんなものに糖が入っているの?
カリエスリスクを高めるのは糖の量? 摂取回数?
1日何回までだったら糖を摂取してもいいの?
糖について患者さんにどう伝えればいいの?
Recipe3 糖(飲食)
1コマカリエス劇場 細菌もつらいよ
糖(飲食) Q&A
母乳や牛乳は齲蝕になるのですか?
特に注意した方がよい,齲蝕になりやすい飲食物はありますか?
齲蝕にならない飲食物には何がありますか?
運動をするためスポーツドリンクを摂取されている方や,味見が必要な職業の方にはどのようなアドバイスをしていますか?
Recipe 4 酸
酸蝕症とは?〜注意すべきは齲蝕だけではない!
酸蝕症の原因となる飲食物は?
酸蝕症を引き起こさない飲食物・引き起こす飲食物
酸蝕と齲蝕の関係
酸蝕症は防げる? 歯磨きは時間を空けて行うべき?
酸蝕症の対応で重要なのは原因の改善
Recipe4 酸
カリエス劇場第4幕 齲蝕と酸蝕の歯の溶け方の違い
Recipe 5 ドライマウス(唾液)
65歳以上の高齢者の30%はドライマウス
唾液の役割
唾液の種類と出る場所
唾液量をはかろう
ドライマウスの原因
ドライマウスへの対応
Recipe5 ドライマウス(唾液)
カリエス劇場第5幕 唾液のおもな3つの働き
ドライマウス(唾液)Q&A
患者さんから「口の乾燥が気になるのであめをなめたい」と言われました.どんなものを勧めるべき?
がんの放射線治療などで唾液が出ない方にはどのようなアドバイスをすればよいでしょうか?
第3章 クリニックで行うカリエスコントロールの実際
初診(初期診査・診断・治療計画立案)
来院2回目(初期治療・削らない治療・非外科治療)
初期治療(初期治療・削らない治療・非外科治療)
再診査・再評価1・治療計画立案
修正療法(削らない治療・削る治療)
再評価2
メインテナンス(SPT・SCT)
カリエスコントロールのためのMust Buyリスト
10Questions活用のポイント
カリエスコントロールの5つのレシピ〜齲蝕の削らない治療法「NICCS」説明ポイント
おわりに
付録 カリエスコントロールお助けレシピ
(1)カリエスリスクを把握する「10Questions」
(2)齲蝕の削らない治療法「NICCS」患者説明用媒体(表),飲食物のpH(裏)
(3)齲蝕治療についての説明用媒体
(4)酸性の飲食物で歯が溶けることの説明用媒体
(5)酸蝕の患者さんへの説明用媒体
(6)齲蝕精密検査表(成人)
(7)齲蝕精密検査表(小児)
(8)カリエスコントロールの流れ(成人)
(9)カリエスコントロールの流れ(小児)














