やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 「痛みの原因はなんなのか」「どんな治療をされるのか」「歯を抜かないといけないのでは」「先生が怖かったらどうしよう」「治療は痛いかな」――.このように歯科医院には日々,さまざまな不安を抱えた患者さんが来院されます.私たち歯科医療従事者は,それらの不安を“安心”に変えるための努力をしなくてはなりません.そのための礎となるのが本別冊のテーマとなる「患者さんの資料をしっかりと採得すること」であると考えています.
 資料採得には多少の時間や労力がかかりますが,その意義は多様であり,使い方もさまざまです.資料採得の第一の意義は「採得した資料を精査し,正確な診査・診断に活かすこと」で,患者固有のリスクや病態を診査し,治療計画の立案に役立てることに始まり,治療計画や方針に迷ったときなどには資料を基に先輩や後輩,スタディグループの仲間などとディスカッションするためのツールとしても活用できます(客観的評価).
 また,治療前と治療後の資料を比較(再評価)することで,目指していた治療結果が得られているかを確認することもできます(振り返り).採り溜めた資料は患者個人の経年的な変化の記録となり,「医院全体の経験」であり,「財産」となります.
 さらに,採得した資料を用いて口腔内の“現在の状況“や“将来の予測”などについて患者さんに話をすると,「こんなにくわしく説明を受けたことはなかった」と言われることも少なくありません.このような患者さんをみていて感じることは,患者さんは自身の口腔内について“知りたい”と思っていて,私たちはそれに応える必要があるということです.
 患者さんに指導・治療・処置・説明などをする際は一様に説明用ツールを用いるのではなく,患者さん自身の口腔内や顔貌写真,パノラマやデンタルX線写真,スタディモデルなどの資料を活用することで患者さんの安心感や納得が生まれ,われわれ歯科医療従事者,そして医院に対する信頼へと繋がるように感じます.
 これこそが,資料採得の第二の意義だと考えています.
 今回,医院の臨床のステップアップには欠かすことのできない「資料採得」について,当院で実際に行っている資料の種類や方法,効果的に使用するために押さえておきたいポイントなどについて,さまざまなご縁のなかで1冊の本にまとめる運びとなりました.本別冊を多くの歯科衛生士の方に手に取っていただき,臨床をより楽しめるような変化が生まれることとなれば,この上ない幸せです.
 2023年11月
 浅賀庸平
 はじめに
Part 1 資料採得をはじめよう!
Part 2 しっかり押さえておきたい ベーシック編
 1 顔貌写真
 2 口腔内写真
 3 X線写真
 4 デンタルX線写真
 5 パノラマX線写真
 6 歯周組織検査
 7 スタディモデル
Part 3 知っておきたい アドバンス編
 1 歯科用コーンビームCT(CBCT)
 2 口腔内スキャナー(IOS)
 3 セファログラム
 4 マイクロスコープ

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