やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに 高齢の患者さんが来院したら……
 突然ですが,写真のような高齢の患者さんが「食事がうまくできないのでみてほしい」という主訴で来院されたら,あなたはどのようにしますか?
 おそらく多くの場合は,「歯科に来たので歯が悪いのだろう」というところ以外には疑問をもつことなく,「では口を開けてください」と,口腔内の診察に入ることになるでしょう.問診は若い方に行うよりも,観血的処置を行うにあたって把握すべき血圧,既往歴,アレルギー,服薬内容などの確認が,ていねいになされることと思います.それがすべての症例に対して不十分だというわけではありませんが,それ以外の視点をもつことが大切です.それによりその患者さんが本当に困っていることの原因がみえてくることがあります.また,主訴の原因は必ずしも口腔内の問題にとどまらないことは多くあります.
 そこでもう一度写真をみてください.よく顔や首をみてみると,かなり痩せていることがわかると思います.それに気がつくことができれば身長や体重を聞いてみることもできますし,その痩せが前からなのか急なのかによって考えるべき視点も違ってきます.また,多くの場合には観血的処置を行うにあたって問診を行いますが,そのときに服薬内容のなかで,食欲不振を起こすような薬剤の存在に気がつくことができれば,「薬を飲みはじめたタイミングと食事に問題が出たタイミングが同じだったか」を聞くこともできるでしょう.さらに,実際に食事の内容を聞いてみて,「食欲があまりないので,数カ月間ずっとうどんしか食べていない」としたら,バランスのよい栄養が摂れているとは考えづらいなと思うと思います.再診時以降に患者さんの様子をみて,「さらに元気がない」「さらに痩せてきた」などということがあれば,歯科だけで対応できない問題が潜在しているかもしれません.
 筆者も含めてですが,おそらく多くの読者の方は要介護状態にある方や障害のある方の“歯科治療”についての教育は受けたことはあっても,患者さんご本人の今後を考えるような臨床教育は受ける機会があまりなかったと思います.くわしい部分は専門書がたくさんありますのでそちらにお譲りすることにして,本別冊では一般の歯科医院に勤務されている歯科衛生士の方々が高齢の患者さんをみるときにどのようなところを気にしていくとよいのかをご紹介することができればと思っています.
 2020年11月 戸原 玄
 はじめに 高齢の患者さんが来院したら……
 Introduction “高齢者”ってどんな人?
Keyword 1 齲蝕
Keyword 2 歯周病
Keyword 3 フレイル
Keyword 4 オーラルフレイル
Keyword 5 摂食嚥下
Keyword 6 義歯
Keyword 7 インプラント
Keyword 8 栄養
Keyword 9 全身管理
Keyword 10 パーキンソン病
Keyword 11 脳血管障害
Keyword 12 認知症
Keyword 13 薬
Keyword 14 心
Keyword 15 居場所

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