やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 「プロケアとは何ですか?」と尋ねたら,「PMTCのことですよね」あるいは「要介護者へ口腔ケアをすることですね」という答えが返ってくるかもしれません.「プロケア」すなわち「プロフェッショナルケア」の考え方については,すこし整理が必要といえますね.
 「PMTC(Professional Mechanical Tooth Cleaning)」とは,1970年代はじめにスウェーデンのアクセルソン先生とリンデ先生の指揮のもとで始まった疫学研究で取り入れられた,齲蝕および歯周病予防のためのデンタルヘルスプログラムにおける「専門家による歯面清掃」のことです.すなわち,テクニックのことを指しています.そして,わが国では,1998年に内山 茂氏が月刊「歯界展望」MOOK『PMTC』(医歯薬出版)を出版し,「PMTC」という言葉は歯科医師・歯科衛生士の間に急速に浸透しました.内山氏は,PMTCは単なる歯面清掃のテクニックではなく,継続的なメインテナンスを基調とするケア型医療(プロケアシステム)を定着させるための有効なツールであることを提唱しています.一方,「ケア」とは,疾病を治す「キュア」とは異なり,患者さんに寄り添い,思いやる医療をいいます.つまりプロケアは,患者さんのセルフケアの足りないところを技術的に,そして情緒的に支援する,歯科医師・歯科衛生士が行う専門的ケアといえます.プロケアとPMTCは別のものですが,こうした経緯で強く関連づけられたのかもしれません.
 わが国は超高齢社会を迎え,口腔内のセルフケアが十分にできない患者さんが増えています.またさまざまなリスクや機能的問題を抱えている患者さんに対しては,プラーク(細菌)に対するケアに加えて口腔の機能面を支援する積極的なプロケアが必要とされています.同じプロケアでも,患者さんによってその目的と手法が異なることを理解しておく必要があります.
 現在,日本の歯科保険診療ではSPTやかかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所制度が取り入れられており,積極的に定期的にプロケアを行っている歯科診療所も多いと思います.しかしながら,マニュアル化されたプロケアをどの患者さんにも毎回繰り返し行うと,ある患者さんには過剰,別の患者さんには過小といった事態に陥る可能性があります.皆さんも,振り返ってみてください.「ケアの本質」,すなわち一人ひとりの患者さんに寄り添うことを忘れてしまってはいませんか?
 本書では,プロケアについての基本的な知識,実践的なテクニックを解説し,目的別,症例別に具体例を示します.読者の皆さんが一人ひとりの患者さんに寄り添うプロケアについて,あらためて考えるきっかけとなればと思っています.
 2017年10月
 執筆者代表 新田 浩
 はじめに
Chapter 1 なぜ,プロケアが必要なのか?
 1 プロケアとは?
 2 プロケアの意義
 3 バイオフィルムを知ろう
  Column 1 良好なプラークスコアの維持に大切なこと
 4 シームレスなプロケア
  Column 2 周術期のプロケア
Chapter 2 一人ひとりに合わせたプロケアのために
 1 患者さんをみる
 2 リスクをみる
Chapter 3 プラークをターゲットとしたプロケア
 1 PMTCの手順
 2 PMTCに使用する器材
 3 PMTCのテクニック
 4 プロケアに使用する薬剤
  Column 3 歯面(エナメル質・象牙質)へのダメージ
 5 エアーポリッシング
  Column 4 ステインへの対応
 6 SPTにおける超音波スケーラーの応用
 7 セルフケア用品の活用
Chapter 4 目的をもったプロケア
 1 齲蝕予防のために
 2 歯周治療のために
 3 小児の成長発育異常と口腔習癖への対応
 4 成人の口腔習癖への対応
 5 要介護高齢者への介入
Chapter 5 症例に合わせたプロケア
 1 カリエスリスクが高い人
 2 矯正治療中の場合
 3 クラウン・ブリッジがある口腔内
  Column 5 補綴物とPMTCの関係
 4 義歯を装着している場合
 5 インプラントが埋入された口腔内

 さくいん
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