やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 最近,歯科衛生士や歯科医師向けに「摂食嚥下障害」の研修会が各地で盛んに開かれています.「講師の先生方のお話がとてもおもしろくて,時間が過ぎるのがあっという間でした」「歯科にこんな世界があるんだって,興味をもちました」とは言うものの,「でも,うちの患者さんにそんな人はいないから,ちょっと他人ごと……」と,参加者からはこんな声が聞こえます.でも,ちょっと待って! 本当に他人ごと? “診療室に来ている患者さんには関係ない話”なのでしょうか? ――「摂食嚥下障害」というと,ちょっと難しそうに聞こえるかも知れませんが,それでは「口腔機能の低下」といわれたら,どうでしょう? 歯のことばかりに気をとられずに「患者さんの口をみる」「患者さんの全身をみる」という視点をもてば,ちょっとした口腔機能の発達の問題や,口腔機能の低下した患者さんが実は皆さんの診療所にも多く訪れていることに気がつくはずです.
 子育て中のお母さんやお父さんは,わが子が日々成長している姿に驚き,喜んでいます.一方で,ほかのお子さんとの成長の違いや育児書への疑問などで,日々悩んでいたりもします.歯科衛生士がそんな悩みに答えてあげられたら,どれだけ多くの方が安心するでしょうか.また,ほぼすべての人において,70 歳を越したあたりから徐々に生活機能は低下していきます.そしてこの生活機能の低下に,口腔の機能が深く関与しています.口腔機能の低下は栄養障害の原因になりますし,なにより「おいしく食事ができない」「楽しくおしゃべりができない」といった状態は,高齢者の行動範囲を狭め,さらなる機能低下を招きます.いつも通ってくれている患者さんに対していつもどおりに対応するなかで,すこし視点を変えるとそんな方がたくさんみえてきます.そこから皆さんのちょっとしたかかわりの変化で,対応もでき,多くの患者さんやそのご家族をサポートすることができるのです.
 特に,歯科診療室から行う子育てのサポートと,介護予防における実践のための入門書として,ぜひ本書をご活用ください.

 2016 年3 月
 菊谷 武
 はじめに
 巻頭マンガ “診療室からはじめる! 口腔機能へのアプローチ”
Introduction なぜ,歯科診療室で口腔機能をみることが重要なのか?
 (菊谷 武・田村文誉)
Chapter 1 子どもの口腔機能の発達を知ろう
 (田村文誉・水上美樹・町田麗子・尾関麻衣子)
 わかる
  子どもの口腔機能の発達
 気づく
  子どもが診療室に来院したら,ここをチェックしよう!
 対応する
  (1) 子どもの口腔習癖へのアドバイス
  (2) 離乳食のつまずきへのアドバイス
  (3) 食べることの問題へのアドバイス
  (4) 子どもの栄養と食事・食形態へのアドバイス
Chapter 2 成人期以降(高齢者)の口腔機能を知ろう
 (菊谷 武・尾関麻衣子)
 わかる
  成人期以降(高齢者)の口腔機能の変化
 気づく
  (1) 高齢者が診療室に来院したら,ここをチェックしよう!
  (2) 口腔機能の評価の方法を知ろう
 対応する
  (1) 摂食嚥下リハビリテーションの基本
  (2) 高齢者の栄養と食事・食形態
  (3) 認知症と口腔機能〜歯科診療室でできる認知症ケア
  (4) 義歯と口腔機能
  (5)「フレイル」と「サルコペニア」
Chapter 3 いざ実践へ! 診療室で口腔機能をみるためのシミュレーションをしよう
 (菊谷 武・水上美樹)
 診療室で実際に口腔機能をみるための工夫
 実践その1 子どもの口腔機能の問題〜歯ブラシを噛んでしまう子どもの患者さん
 実践その2 高齢者の口腔機能の問題〜スケーリング中にむせ込んでしまう高齢の患者さん
Chapter 4 アドバンス編 診療室でのアプローチ例
 (1) 診療室で行う! 小児の口腔機能へのアドバイス〜実際の摂食指導に歯科衛生士がかかわる例(三輪直子・望月かおり・芳賀留美・芳賀 定)
 (2) 高齢者の口腔機能への取り組み〜口腔機能の評価から実際の訓練まで(橋若菜・栂安秀樹)

 付録 診療室で使える! 患者さんへの説明用媒体
 Column 「薬が飲みにくい」と言われたら〜薬は必ず“コップ一杯の水”で飲むもの?(菊谷 武)

 参考文献
 さくいん
 執筆者一覧