やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

まえがき
 いまから遡ること18年前の1996年3月,日本歯科医師会と日本歯周病学会が「歯周病の診断と治療のガイドライン」を作成し,現在の歯周治療体系が確立されました.そこには,「初診時の検査結果に基づき立案した治療計画に沿って,歯周基本治療から治療を開始し,再評価で治療計画を修正しながら,最終目標である歯周病の治癒または病状安定を図る」という道筋が,明確に示されています.
 しかし,厚生労働省の平成23年歯科疾患実態調査をみても,いまだ歯周病の症状をもつ人は成人の8割程度存在し,この状況は2001年のギネスブックに「歯周病は全世界でもっとも患者さんが多い病気.人類史上もっとも感染者の多い感染症」などと非常に不名誉な形で収載されたときとあまり変化していません.
 ではなぜ,歯科医師,歯科衛生士がタッグを組んでこれほどまでに努力をしてきているのに,大きく状況を変えることができないのでしょうか? なぜ歯周病の予防・治療が効果を上げていないのでしょうか?
 やはりその鍵は歯周治療の基本,「プラークコントロール」そして「スケーリング・ルートプレーニング(SRP)」の効果的実践にあると思います.
 歯周病に罹患しないようにするには,歯周組織に対する病原菌感染を防ぐこと,すなわちプラークコントロールが必須であることはいうまでもありません.また,歯周病に罹ってしまった後には,その原因を除去する意味で再びプラークコントロール,そして本書のメインテーマであるSRPがこの病気に立ち向かう最大の武器となります.
 SRPはそのスキルを必ず身につけるよう,学生時代から教育されるとても大切な手技です.しかし,「スケーリングで歯石を除去する」「ルートプレーニングで歯根表面を平滑化する」,この目的を達成する難しさは,皆さんも臨床でつねに感じられていることと思います.
 本当に「歯周病を治す」ことにつながるSRPとは? これが本書のテーマです.(1)歯周病の病因論から考えたSRPの真の目的,(2)歯石が付着する歯の解剖学的特徴の読み方,(3)正確かつ規格性のある検査テクニック,(4)歯周組織の検査値の読み方と治療計画への活かし方,(5)ハンド(手用)スケーラーとパワースケーラーの基本構造や臨床での使い分け,(6)各手技の基本操作とさまざまな臨床例,以上がそれぞれの第一線の方々の手により,ていねいに提示・解説されています.
 著者一同,これらの流れのなかで皆さまがSRPをもう一度検証し,「治すSRP」の概念とテクニックを掴みとっていただくことを,強く願っています.
 歯科衛生士の方々の力が,歯周病有病率8割の現状を大きく変える,大いなる可能性を秘めているのです.
 2014年10月
 執筆者代表
 日本歯科大学 生命歯学部 歯周病学講座 沼部幸博
 まえがき

Chapter 1 “治すSRP”と“治せないSRP”
 (沼部幸博)
 (1)なぜ歯石を取るのか?“歯周病を治す”とは?
 (2)SRPとは何か?どこまでSRPすべきか?
 (3)“治すSRP”と“治せないSRP”とでは,何が違うのか?
Chapter 2 SRPに必要な歯の解剖学的特徴
 (阿部伸一・松永 智・山本将仁)
 歯の解剖学的特徴を理解しよう!
Chapter 3 歯周治療の進め方とチャートの記載方法・読み方
 (関野 愉)
Chapter 4 ハンドスケーラーとパワー(超音波・エア)スケーラーを使い分けるための基本知識
 (鈴木允文・新田 浩)
 (1)ハンドスケーラーとパワー(超音波・エア)スケーラーの種類と特徴
 (2)スケーラーの使い分けのポイント?エビデンスに基づいて比較してみよう?
Chapter 5 プロービングとエキスプローリング
 (貴島佐和子)
 (1)プロービング
 (2)エキスプローリング
 (3)インスツルメントの把持
 (4)実像をイメージする!
Chapter 6 ハンドスケーラーの基本操作
 (貴島佐和子)
 (1)基本のスキルを正しく身につけよう!
 (2)ポジショニングと各歯面へのアプローチ
 (3)ハンドスケーラーの管理
Chapter 7 超音波スケーラーの基本操作
 (土屋和子)
 (1)超音波スケーラーの準備と取り扱い
 (2)チップの選択
 (3)状況に合わせた超音波スケーラーの施術
 (4)超音波スケーラーの管理
Chapter 8 SRPの実践
 (鍵和田優佳里)
 (1)歯周ポケットの形態や根面の状態を読みとろう!
 (2)歯肉の性状によるアプローチの違い
 (3)叢生歯へのアプローチ
 (4)補綴物の入った口腔内への対応
 (5)動揺歯へのインスツルメンテーション
 (6)複根歯(根分岐部)へのアプローチ

 さくいん
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