やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
“なぜそうなっているのか”を考えながら歯肉を読み解こう
 “歯肉”は,口腔内を観察するうえでの入口であり,そこには口腔内の疾患の徴候だけではなく,全身疾患や加齢変化,患者さんの生活環境や生活習慣など,あらゆる情報が詰め込まれています.
 歯科衛生士には,歯肉の状態を単に感覚的に読みとるのではなく,“なぜそのような状態になっているのか““その原因は何か”,その根拠や原因を考えながら読み解き,患者さんへの指導力を高めてほしいと思います.
 本別冊では,歯科衛生士が歯肉から読みとるべき徴候を,臨床例を中心に,臨床・病理の両面から解説し,歯肉をより深く,細かく読み解くための情報を提供したいと考えました.写真・図表を用いてビジュアルに,また可能な限り平易な表現にする,の2点に配慮し,以下を基本方針としてまとめました.
 1章では,10代から90代までの年代ごとの,“臨床的に健康な歯肉”を考える
  それぞれの年代の,患者さんそれぞれの個性に応じた“健康な歯肉”について解説
 2章では,特徴的な病態ごとに,その原因・対応・経過から“歯肉”を考える
  1)臨床上,歯科衛生士が注意してみなければならない歯肉の所見を呈示,その原因・対応・経過を解説
  2)上記の各所見に病理学的な解説を加え,“根拠”をもって病態を説明できる知識を養う
 3章(実例編)では,長期経過症例を通して目標とする“歯肉”の治癒像を考える
  2章で取り上げた病態が組み合わさった臨床例において,病態が安定し,維持されているなかでの変化や加齢による変化について,歯科衛生士の対応とその後の歯肉の変化を解説
 現在,歯科医療の潮流は治療から予防へとシフトしており,歯科衛生士が活躍する場は広がりつつあります.経験が浅い歯科衛生士にとっては臨床のヒントとなるような,また,経験を積んだ歯科衛生士にとっては新たな発見に満ちた内容にしたいと考えました.本書が,歯科臨床に真剣に携わる歯科衛生士の皆様の臨床の一助となればこのうえない幸せです.
 本書を出版するにあたって,診療後や休診日にもかかわらず熱心に準備をしてくれた当院の歯科衛生士・松本絹子さん,吉田エミさん,伊藤美穂さん,足掛け3年間にわたり本書の企画・編集でお世話になった『デンタルハイジーン』編集部の山ア聡子さん,その他本書にかかわってくれた方々に,この場をお借りして心から感謝申しあげます.
 2014年2月 信濃大町の自宅にて 金子 至
 はじめに
1章 臨床的に健康な歯肉とは?
 臨床的に健康な歯肉とは?
  病理の視点(1) 正常な歯肉と健康な歯肉
2章 歯肉の表情を読みとろう!〜原因・対応・経過から考える
 (1)歯肉の形態の変化
  1)擦過傷
  2)フェストゥーン
  3)クレフト(歯肉の裂開)
   病理の視点(2) フェストゥーンやクレフトが起こる理由
  4)歯肉退縮とクリーピングアタッチメント
  5)歯間乳頭の変化
   病理の視点(3) クリーピングはなぜ起こるの?
 (2)歯肉の色の変化
  1)根面の汚染による炎症
  2)歯肉の急性炎症と歯の移動
  3)生物学的幅径を侵したことによる歯肉の炎症
   病理の視点(4) 生物学的幅径を侵すことでなぜ炎症が起こるの?
   病理の視点(5) なぜ歯肉は赤くなったり腫れたりするの?
  4)禁煙によるメラニン沈着の改善
  5)薬剤による歯肉のメラニン沈着の改善
   病理の視点(6) 喫煙による歯肉の角化とメラニン沈着のメカニズム
   病理の視点(7) もう一つの歯肉の色の変化〜メタルタトゥの組織像〜
 (3)歯肉の性状による違い
  1)薄く弱々しい歯肉
  2)軟らかい歯肉(炎症初期の浮腫性の歯肉)
  3)線維化した硬い歯肉
   病理の視点(8) 軟らかい歯肉・硬い歯肉の病理学的な違いとは?
 (4)全身疾患・生活習慣による歯肉への影響
  1)糖尿病・高血圧症
   病理の視点(9) カルシウム拮抗薬による歯肉増殖のしくみ
  2)口腔乾燥症
   病理の視点(10) 口腔乾燥症が起こるメカニズム
  3)更年期における歯肉の変化
  4)甘味の多量摂取
   病理の視点(11) 甘味摂取による歯肉炎症の原因
  5)不規則な生活による歯肉の変化
 (5)インプラント周囲粘膜
  1)健康なインプラント周囲粘膜
  2)インプラント周囲粘膜炎
  3)インプラント周囲炎
   病理の視点(12) インプラント周囲組織の脆弱性
 (6)咬合力の影響と歯肉〜セメント質?離から考える〜
  セメント質?離による歯肉の炎症
   病理の視点(13) セメント質?離
  もっとくわしく! 歯と歯肉はどのようにできるのか?〜発生・成熟・加齢〜
3章 実例編 経過からみる歯肉
  3章のはじめに〜当院の診療姿勢
  Case1 患者さん自身が歯肉の変化に気づく力を!
  Case2 通院継続が何より大切
  Case3 “セルフケアの習慣が身についている”と思っていたら

 金子歯科医院で使用している器材一覧
 参考文献
 編著者・執筆者一覧
 おわりに
 索引