やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに「テクニックと熱意」
 プラークコントロールが歯科治療や口腔内の健康維持のベースであることは,論を待たず,かなり以前から言われていることです.
 にもかかわらず,話題になり続けているのはなぜでしょうか?ブラッシングテクニックにもいろいろな方法があって不思議な感じがしますし,動機づけや指導法に関しては人それぞれ,似ているようですべて異なっているようでもあります.ちょうど「これだ!」という決定的な歯ブラシがないのと似ています.
 おそらく,プラークコントロール,特に歯肉縁上のプラークコントロールの中心となるセルフケアが私たち歯科医療側がやることではなく,患者さん自身がやることであるために,この難しさや多様性があるのでしょう.とはいえ,プラークコントロールの有用性を考えると,プラークを落とせる確かなテクニックと用具に関しての知識・技術を,私たちは身につけておく必要があります.
 あとは,一人ひとり違った患者さんにどんな熱意・情熱をもって向き合っているかが問題になるのではないでしょうか.その熱意や情熱は指導者一人のものなのか,各診療室でのプラークコントロールの位置づけなど診療室全体のものなのか,いろいろあると思います.
 また,最近,歯肉縁上のプラークコントロールに関しては,従来のブラッシングを中心としたセルフケアのみでなく,PMTCのようなプロフェッショナルケアや,患者さんの抵抗力を高めることを目的にしたフィジオセラピーや食生活,食べ方などと幅が広がり,さらにある程度明確になってきたように思います.この幅の広がりのなかに新たな可能性も感じられ,「歯科医療が全身に対してどうかかわれるか」そんな方向性が含まれているような気がします.新たなおもしろさが生まれています.
 以上のことを考えながら,本書では歯肉縁上のプラークコントロールで私たちができること,なすべきことを整理してみたいと思います.
 患者さん中心の歯科医療が叫ばれて久しい現在,患者側の要求も多様になり,変わってきています.患者さんのセルフケアをどうサポートしていくか,プロフェッショナルケアでどうかかわっていくか,私たちの意識改革も求められているなか,当然患者さんとのかかわり方も多様になり個別的になってきています.応用問題の連続で,さまざまな知恵を働かせ,考え,工夫していかなければなりません.そして,その結果,患者さんに感謝されたとき,なんとも言えない達成感を味わえることでしょう.
 「難しいけれど,おもしろい……」そんな歯科医療を続けていきたいものです.
 2004年10月
 三上直一郎・波多野映子・島田昌子
デンタルハイジーン別冊 歯肉縁上のプラークコントロール――セルフケアをサポートする――
The Journal of Dental Hygiene.Extra Issue/ Supragingival Plaque Control

はじめに「テクニックと熱意」
執筆者一覧
●1章 歯肉縁上のプラークコントロール
 (1)プラークコントロールの最終目標は……?(三上直一郎)
 (2)ケア型医療の立場から(内山 茂)
 (3)セルフケアの内容は症例によってすべて異なる(小西昭彦)
 (4)患者さんに求める歯肉縁上プラークコントロール(新田 浩)
●2章 道具を知る―適切な選び方・使い方を知ろう
 (1)道具を知ろう(高柳篤史)
 (2)歯間ブラシ(島田昌子)
 (3)ワンタフトブラシ(平井由紀子)
 (4)デンタルフロス―小児・成人への指導―(松本絹子)
 (5)ガーゼひも(松本絹子)
 (6)電動歯ブラシ(茂木美保)
 (7)歯磨剤(島田昌子)
 (8)フッ化物(島田昌子)
 (9)洗口剤(島田昌子)
 (10)プラーク染色剤と手鏡(飯田しのぶ)
●3章 ブラッシング指導の実際・ここを攻める!
 (1)ブラッシング指導の実際(丸森英史)
 (2)大臼歯部隅角部(奥田英子・村上恵子)
 (3)叢生歯列のブラッシング(村上恵子)
 (4)孤立歯のブラッシング(平井由紀子)
 (5)急性炎症を起こしているとき(今村幸恵)
 (6)外科手術後(茂木美保)
 (7)前歯部根面が露出しているとき(波多野映子)
 (8)根分岐部が露出しているとき(波多野映子)
 (9)頬がのびない患者さん,唇が緊張する患者さんへの対応(関 律子)
 (10)ブラッシング圧が強すぎる場合―歯質,歯肉のトラブルへの対応―(関 律子)
 (11)歯間ブラシの誤用(飯田しのぶ)
 (12)ブラッシングしすぎる患者さん(飯田しのぶ)
●4章 各医院での対応―こんな患者さんにはどうする?
 (1)ブラッシング圧の強い患者さん―ミカミ歯科医院の場合―(三田野香世・三上直一郎)
 (2)プロケアに頼りすぎる患者さん―ウチヤマ歯科医院の場合―(波多野映子・内山 茂)
 (3)同じところにプラークが残る患者さん―小西歯科医院の場合―(小西昭彦・小西かず代)
 (4)磨いていても磨けていない患者さん―野中歯科医院の場合―(野中哲雄・山本 静)
 (5)パーソナリティの強い患者さん(茂木美保)
 (6)聴く耳をもってくれない患者さん―奥沢歯科医院の場合―(奥沢康彦・椛沢真利子)
 (7)自分の歯ブラシを替えたがらない患者さん―吉田歯科医院の場合―(谷口ゆかり・吉田秀人)
 (8)不器用な患者さん―村上歯科医院の場合―(村上恵子・村上 充)
 (9)矯正歯科治療中のプラークコントロール―伊藤矯正歯科クリニックの場合―(伊藤智恵・小林美知子・諸 靖子・針生純代)
 (10)反応の薄い中高生の患者さん―景山歯科医院の場合―(景山正登・飯田しのぶ)
 (11)加齢によりホームケアを継続できない患者さん―金子歯科医院の場合―(松本絹子・金子 至)
〔コラム〕
 ・道具選び―まずは自分で使ってみよう(小西かず代)
 ・TBI時に使う歯ブラシ(蛯谷明希)
 ・メーカーにおける歯ブラシの研究開発(山岸 敦)
 ・とっておきの一言(木部美栄)
 ・患者さん主体のブラッシング指導(平井由紀子)
 ・転ばぬ先のつえ(谷口ゆかり)
 ・初診時・このチャンスを活かそう!(松本絹子)