やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに

 まず最初にお断わりしておきたいのですが,本別冊の書名『オーラル・サポーティブ・プログラム』は編者らの造語です.したがって,どこの,どの辞書を見てもこの言葉は見あたりません.
 “リコール“というと,2000年7月に運輸省により,三菱自動車工業が車の欠陥を隠してリコールの届け出を怠っていたことが明らかにされ,8月に道路運送車両法違反容疑で告発されたことが脳裏に浮かぶように,よいイメージがありません.また,“メインテナンス”も,自動車の3カ月,6カ月点検など,機械的なイメージが先行してしまいます.そこで企画当初に,編集部と検討した結果,多少の抵抗を感じるもののこの題名に決めました.
 現在の健康保険のなかで,リコール,メインテナンスについては,『歯科点数表の解釈』(平成12年4月版,社会保険研究会)の歯周病の診断と治療のガイドラインのなかで,「メインテナンスと治癒判定後の再発予防として,1カ月,3カ月,6カ月リコールの間隔は適宜増減する」と述べられているにすぎません.そして,齲蝕予防についてはどちらについても記述はありません.
 しかし本来,齲蝕,歯周病,欠損補綴のリコール,メインテナンスは分けて考えるべきものではなく,いかに健康な口腔に育て,維持していくかという視点で行われることが大切です.そこで『オーラル・サポーティブ・プログラム』と銘打ったわけですが,英文にすれば“Supportive Oral Therapy(S.O.T)”が正しいのでしょう.
 本書は,大きくは4章により構成されています.
 1章では,現在の歯科医療のあり方に影響を与えている環境的変化,すなわち,(1)少子高齢化,(2)住民の意識の変化,(3)構造的な経済危機をふまえ,再来医療の必要性,疾病構造の変化を説明していただき,また,リコール,メインテナンスに対する反応とその結果を日米で比較していただきました.さらに,予防型歯科医院にすると,受診者の意識がどう変化し,そこで歯科衛生士はどうすべきなのかについて述べていただきました.
 2章では,定期検診を成立させるためには何が必要か,どう行うかを解説し,その効用を医院の実績に加えて文献からも整理を行い,さらには定期検診ハガキの作成を院長から依頼されたときの具体例も示しています.そして,今回は『デンタルハイジーン』としては初の試みとして,定期検診ハガキの実例ソフトとしてCD-ROMを希望者に配布することを企画しました.
 リコール,メインテナンスを行うにあたっては,医院がおかれている環境によってもその実際は異なるので,3章の都市型,郊外型,中都市型,農村型で開業する7歯科医院の事例を参考にしてほしいと思いますし,各ライフステージにおける対応については4章をご覧いただくと参考になるかと思います.
 健康な口腔に育て,維持をしていく歯科医療の主役は歯科衛生士です.院長とともに本書を手にしていただいて,スタッフ間で活発な意見交換を行い,新しい一歩を踏みだしていただくことを願っています.
 2001年11月 中尾勝彦・眞田浩一
はじめに

1章 定期再来を診療所の根幹に
 (1)これからの再来医療 中尾勝彦
 (2)疾病構造の変化と歯科医療の変遷 石井拓男
 (3)定期検診のコスト・ベネフィット 川渕孝一
 (4)予防管理型歯科診療の現状と将来展望―いまなぜ歯科衛生士が期待されるのか― 寺岡加代
2章 定期検診の効用
 (1)呼ぶのか・それとも自発性か 中尾勝彦
 (2)定期検診で大切なこと・行うべきこと 中尾勝彦・片山 昇・小川元子
 (3)データでみる定期検診の効用 北川原 健
 (4)定期検診の価値と歯の喪失の抑制効果―文献から― 金子 淳・眞田浩一
 (5)楽しい定期検診用ハガキ 玉井美江・小田信子・眞田浩一
3章 7つの歯科医院の取り組み
 (1)患者さんの利益となるメインテナンスシステム―その理論的背景― 伊藤 中・銅野 忍・福田準子・本橋由似子・清野秋子・村上敬子
 (2)患者さんの自主性を大切に 野中哲雄・山本 静
 (3)自己管理の手助けとしての定期検診 松岡 晃
 (4)病態からメインテナンスのあり方を考える 松田光正・永田裕之・有馬厚子・池田眞理子・井手和子・岩本幸子・森田江梨子・吉田真紀
 (5)治療介入の時期を探るための定期検診 鷹岡竜一・南 真弓
 (6)当院における定期検診の現状と問題点 木村英生・生塩美香
 (7)小児の定期検診で何を見て何を変えるか 丸山文孝
4章 ライフステージとサポーティブ・プログラム
 (1)ライフステージと歯科疾患 片山 昇・中尾勝彦・井川栄子
 (2)乳幼児期から歯列完成期の定期検診―齲蝕予防,歯列完成までのサポート― 大野秀夫・浜田晶子・小田裕子・杉岡千津
 (3)歯列完成期以降の若年成人の定期検診―心の自立,暮らしの自立のなかでの健康観― 藤木省三
 (4)妊婦へのサポート―垂直感染の予防と教育― 武内博朗・今野由利恵・冨澤利予
 (5)30〜40代・カリエス型の患者さんへの対応―ここでのかかわり方が大切― 森本達也・中村雅代
 (6)ペリオ型の患者さんへの対応―侵襲性歯周炎と慢性歯周炎― 眞田浩一・玉井美江・真柄和美
 (7)女性の40代,男性の50代―リスキーな時期への対応― 宮地建夫・長房裕美・齋藤さゆり
 (8)後期高齢者への対応 長畑 光・周藤里織
 (9)矯正患者さんへの対応 伊藤智恵・針生純代・長山祐子
 (10)全顎補綴(含インプラント)の場合 秋本 健・秋本枇登未・峰 亜由子
 (11)医科合併症をもつ患者さんへの取り組み,および禁煙指導について 豊島義博・深川優子

執筆者一覧
編集後記