序 新しい視点で「抜歯」を見直す一助に
医科歯科連携という言葉が叫ばれて久しい昨今ですが,果たして「医師はどこまで歯科の世界を気にかけているか」と考えたことはありますでしょうか.歯学の周りを医学が回っているのだと,天動説ならない医動説さながらに,歯科治療が如何に全身に重要であるかをひたむきな思いで医師に訴える歯科医師は,表向き「なるほど,歯科は素晴らしいですね」と受け入れる医師の姿に「ホントに歯科をわかって言ってるのかなあ?」と思われたことはないでしょうか.
ガリレオの時代にも,ほんとは地動説だろうと思っても口に出さなかった人がいたかもしれません.それと同じように,この医動説に真っ向から疑問を抱いて,歯動説を信じて歯学をある意味で飛び出してしまった人間たちがおります.それが,医師の資格を有するダブルライセンスの歯科医師たちです.一度,歯学から医学の世界に入ってみると,歯学の世界は腑に落ちないところが多いとわかるのですが,それと同時に,歯科医師も医師も共に全く気づいていない点も見えてきます.そんな医学と歯学の違いを理解して,医師でも歯科医師でも納得するものを作ろうという精神で,『補綴臨床』誌上で連載「歯科医院のための内科学講座」の企画・執筆を十年ほど前から続けておりますが,今回この流れのなかで編集部から,医学と歯学の世界が最も接している「抜歯」について増刊号を出さないかとお声をかけていただきました.「歯科医院のための内科学講座」のスピンアウト作品であることから,その基本精神である“視点の転換”を忘れることなく,歯科医院のための内科学講座執筆チームで抜歯の臨床に役立つ本を作ろうということとなりました.
すでに世の中に上梓されている多くの抜歯に関する良書の「こうやればうまく行く」という上級者がリードする視点から一転して,初期研修医など初級者が多く冒す失敗を見ながら,「あれ〜,どうしてこうなってしまうの?」という初心者目線をカバーする方針をベースに据え,第1章で「抜歯のための基礎知識」として解剖学的事項を押さえたうえで,第2章「抜歯の基本技術」において,抜歯において術者が“ハマりやすい”ツボと初心者でも安全・安心に抜歯ができる方法を網羅する形をとりました.そして,第3章では,さて,いざ抜歯をしようと思っても患者さんが「何か病気を持っていそうでこわいぞ」と思わず腰が引けてしまう歯科医師のために「抜歯の際の生体側からの問題」を取り上げ,とりわけ抜歯において困るのは出血ということで,血液内科の専門家のサポートも得ながら解説しています.また,最後の第4章「抜歯のコツ〜私の抜歯法」では,上記の第1〜3章を受ける形で,では実際のところ歯科医師たちはどんな方法で抜歯しているのか.女性歯科医師の執筆による「パワー抜歯にならないための工夫」,全身麻酔の埋伏智歯だけでも年間300例をこなすベテラン歯科医師による「フレキシブルラリンジアルマスクによる全麻抜歯」,さらには古き良き時代(!?)を生き抜いてきたダブルライセンスによる「術者一人での水平埋伏智歯抜歯」という特徴的な事例をお伝えします.
本書は,「抜歯がコワい」という後ろ向きな歯科医師の方々へそっとサポートの手を差し伸べるイメージで,「歯科医院のための内科学講座」チームの総力を結集して作った一冊です.まだまだ改善の余地の多い未完の書ながら,読者の皆様に新たな視点から抜歯を捉えていただだき,抜歯に不安を抱える多くの歯科医師の先生方のお役に立てることを祈念しつつ,本書の序文とさせていただきます.
柳川 徹(歯科医師・医師)
筑波大学医学医療系 顎口腔外科学 教授
筑波大学附属病院 茨城県地域臨床教育センター
長谷川 雄一(医師)
筑波大学医学医療系 血液内科学 教授
筑波大学附属病院 茨城県地域臨床教育センター
医科歯科連携という言葉が叫ばれて久しい昨今ですが,果たして「医師はどこまで歯科の世界を気にかけているか」と考えたことはありますでしょうか.歯学の周りを医学が回っているのだと,天動説ならない医動説さながらに,歯科治療が如何に全身に重要であるかをひたむきな思いで医師に訴える歯科医師は,表向き「なるほど,歯科は素晴らしいですね」と受け入れる医師の姿に「ホントに歯科をわかって言ってるのかなあ?」と思われたことはないでしょうか.
ガリレオの時代にも,ほんとは地動説だろうと思っても口に出さなかった人がいたかもしれません.それと同じように,この医動説に真っ向から疑問を抱いて,歯動説を信じて歯学をある意味で飛び出してしまった人間たちがおります.それが,医師の資格を有するダブルライセンスの歯科医師たちです.一度,歯学から医学の世界に入ってみると,歯学の世界は腑に落ちないところが多いとわかるのですが,それと同時に,歯科医師も医師も共に全く気づいていない点も見えてきます.そんな医学と歯学の違いを理解して,医師でも歯科医師でも納得するものを作ろうという精神で,『補綴臨床』誌上で連載「歯科医院のための内科学講座」の企画・執筆を十年ほど前から続けておりますが,今回この流れのなかで編集部から,医学と歯学の世界が最も接している「抜歯」について増刊号を出さないかとお声をかけていただきました.「歯科医院のための内科学講座」のスピンアウト作品であることから,その基本精神である“視点の転換”を忘れることなく,歯科医院のための内科学講座執筆チームで抜歯の臨床に役立つ本を作ろうということとなりました.
すでに世の中に上梓されている多くの抜歯に関する良書の「こうやればうまく行く」という上級者がリードする視点から一転して,初期研修医など初級者が多く冒す失敗を見ながら,「あれ〜,どうしてこうなってしまうの?」という初心者目線をカバーする方針をベースに据え,第1章で「抜歯のための基礎知識」として解剖学的事項を押さえたうえで,第2章「抜歯の基本技術」において,抜歯において術者が“ハマりやすい”ツボと初心者でも安全・安心に抜歯ができる方法を網羅する形をとりました.そして,第3章では,さて,いざ抜歯をしようと思っても患者さんが「何か病気を持っていそうでこわいぞ」と思わず腰が引けてしまう歯科医師のために「抜歯の際の生体側からの問題」を取り上げ,とりわけ抜歯において困るのは出血ということで,血液内科の専門家のサポートも得ながら解説しています.また,最後の第4章「抜歯のコツ〜私の抜歯法」では,上記の第1〜3章を受ける形で,では実際のところ歯科医師たちはどんな方法で抜歯しているのか.女性歯科医師の執筆による「パワー抜歯にならないための工夫」,全身麻酔の埋伏智歯だけでも年間300例をこなすベテラン歯科医師による「フレキシブルラリンジアルマスクによる全麻抜歯」,さらには古き良き時代(!?)を生き抜いてきたダブルライセンスによる「術者一人での水平埋伏智歯抜歯」という特徴的な事例をお伝えします.
本書は,「抜歯がコワい」という後ろ向きな歯科医師の方々へそっとサポートの手を差し伸べるイメージで,「歯科医院のための内科学講座」チームの総力を結集して作った一冊です.まだまだ改善の余地の多い未完の書ながら,読者の皆様に新たな視点から抜歯を捉えていただだき,抜歯に不安を抱える多くの歯科医師の先生方のお役に立てることを祈念しつつ,本書の序文とさせていただきます.
柳川 徹(歯科医師・医師)
筑波大学医学医療系 顎口腔外科学 教授
筑波大学附属病院 茨城県地域臨床教育センター
長谷川 雄一(医師)
筑波大学医学医療系 血液内科学 教授
筑波大学附属病院 茨城県地域臨床教育センター
第1章 抜歯のための基礎知識
1.抜歯前に解剖学的特徴を考える
2.永久歯列完成前の抜歯に必要な解剖学的特徴
3.抜歯の難易度を考えるヒント〜下顎埋伏歯の分類〜
第2章 抜歯の基本技術
1.普通抜歯の方法
2.難抜歯の方法
3.下顎水平埋伏智歯の抜歯法;ストレートバーを用いる方法
4.下顎水平埋伏智歯の抜歯法;5倍速エンジンを用いる方法
5.上顎埋伏智歯の抜歯法
6.正中過剰埋伏歯の抜歯法
7.抜歯に使用する道具
8.抜歯が困難なときの対応;下顎水平埋伏智歯
9.抜歯が困難なときの対応;上顎埋伏智歯
10.抜歯を撤退する判断と方法
11.抜歯後の局所止血の方法
12.抜歯の合併症
13.事故の実際と対応
第3章 抜歯の際の生体側からの問題
1.抜歯の可否の判断〜医科から対診があった際の対応を含めて〜
2.MRONJのリスクのある患者の抜歯
3.放射線照射前後の抜歯
4.術後の抗菌薬使用についての考え方
5.局所麻酔の量はどこまでか
6.妊娠中の患者の抜歯の注意点
7.腎機能が低下している患者の抜歯時の薬用量
8.心疾患のある患者の抜歯はどうするか
9.抗血小板薬・抗凝固薬を服用する患者の抜歯
10.ステロイド投与中の患者の抜歯
11.HIV感染症患者の抜歯
12.ショック時(患者が倒れた時)の対応
13.抜歯の際に注意すべき全身疾患
第4章 抜歯のコツ〜私の抜歯法
1.“パワー抜歯”にならないための工夫
2.フレキシブルラリンジアルマスクによる全麻抜歯
3.術者一人での水平埋伏智歯抜歯
1.抜歯前に解剖学的特徴を考える
2.永久歯列完成前の抜歯に必要な解剖学的特徴
3.抜歯の難易度を考えるヒント〜下顎埋伏歯の分類〜
第2章 抜歯の基本技術
1.普通抜歯の方法
2.難抜歯の方法
3.下顎水平埋伏智歯の抜歯法;ストレートバーを用いる方法
4.下顎水平埋伏智歯の抜歯法;5倍速エンジンを用いる方法
5.上顎埋伏智歯の抜歯法
6.正中過剰埋伏歯の抜歯法
7.抜歯に使用する道具
8.抜歯が困難なときの対応;下顎水平埋伏智歯
9.抜歯が困難なときの対応;上顎埋伏智歯
10.抜歯を撤退する判断と方法
11.抜歯後の局所止血の方法
12.抜歯の合併症
13.事故の実際と対応
第3章 抜歯の際の生体側からの問題
1.抜歯の可否の判断〜医科から対診があった際の対応を含めて〜
2.MRONJのリスクのある患者の抜歯
3.放射線照射前後の抜歯
4.術後の抗菌薬使用についての考え方
5.局所麻酔の量はどこまでか
6.妊娠中の患者の抜歯の注意点
7.腎機能が低下している患者の抜歯時の薬用量
8.心疾患のある患者の抜歯はどうするか
9.抗血小板薬・抗凝固薬を服用する患者の抜歯
10.ステロイド投与中の患者の抜歯
11.HIV感染症患者の抜歯
12.ショック時(患者が倒れた時)の対応
13.抜歯の際に注意すべき全身疾患
第4章 抜歯のコツ〜私の抜歯法
1.“パワー抜歯”にならないための工夫
2.フレキシブルラリンジアルマスクによる全麻抜歯
3.術者一人での水平埋伏智歯抜歯














