やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 過去,2回の人工知能(Artificial Intelligence:AI)の“冬の時代“が過ぎ去り,2006年頃にはいわゆる第3次AIブームが始まった.特に,コンピュータが自ら学習(特徴やルールを学ぶ)する「機械学習」法の一種である『ディープラーニング』(和訳名:深層学習)技術の出現により,画像認識の精度が人間の精度を超えるレベルに達している.AIが人智を超える“シンギュラリティ(特異点)”は,2045年と推測される.将棋や囲碁のようなゲームの世界では,すでにシンギュラリティは訪れている.
 医療分野におけるAIの開発・導入も急激に進んでいる.2017年7月に,厚生労働省の懇話会は,AIを利用した病気の診断や医薬品開発の支援に関する報告書を公表し,特に開発を進める重点領域として,「ゲノム医療」「画像診断支援」「診断・治療支援」「医薬品開発」の4領域を挙げている.また.2022年5月には,第二期医用機器基本計画が閣議決定され,重点5分野として,(1)ヘルスケアアプリ,(2)予後改善・早期発見,(3)個別化医療・診断と治療,(4)高齢者等の身体機能補完,(5)医療従事者の業務効率化 を示しているが,これにはAIの活用が欠かせない(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_25953.html).
 医用画像の自動診断や支援診断をめざした研究が始まって半世紀余りが過ぎている.米国のR2 Technology社(現Hologic社)が開発した世界初の商用のコンピュータ支援診断システム(computeraided diagnosis:CAD)が,「マンモグラフィ(乳房X線写真)における乳がんの検出支援装置」としてFDA(Food and Drug Administration:アメリカ食品医薬品局)の認可を得たのは1998年である.この年は“CAD元年”と位置づけられている.これらのCADの開発には,AIの技術が元来用いられていたが,昨今の第3次AIブームを牽引する「ディープラーニング技術」により,従来型CADは,いま新生AI-CADとして大きく飛躍しようとしている.そして,CADの利用形態にも大きな変化・多様化・高度化が見られる.2018年4月には,FDAの認可を得て,ついに糖尿病網膜症をスクリーニングする眼底写真のための専門医でなくても利用可能なAIソフトウェアの商用化も始まり,これは「AIドクター」と称せられることもある.現在,国内外でAIを利用した各種医療向けあるいは一般向けのAI商品が多く見られるようになっている.
 このような状況の中で,『補綴臨床』誌ではAIに関する解説記事が3号にわたり掲載された(下記文献参照).今回の増刊号は,これらを元に内容をさらに拡張・充実させ,AIの基礎から医療への応用の現状を最初に俯瞰し,続いてその推進力となる注目の技術であるディープラーニングの基礎を説明し,医用画像診断領域におけるAI導入の現状と課題,将来展望などについて,著名な学術研究者らや企業の技術者らの執筆による歯科領域への事例を含めて一冊にまとめたものである.歯科医療AI領域に焦点が当てられたこのような規模の冊子は,国内外で初めての試みであろう.
 本増刊号が歯科医療AI入門への一助となれば,編者・執筆者一同,望外の幸せである.
 編者・執筆者を代表して
 藤田広志(岐阜大学特任教授/名誉教授)

 参考文献
 1)藤田広志:基礎編:AI技術の最新動向と医用画像診断領域への応用.補綴臨床,54(5):484-508,2021.
 2)藤田広志:臨床応用編(1):医科における画像診断領域へのAI応用.補綴臨床,54(6):637-650,2021.
 3)藤田広志:臨床応用編(2):歯科における画像診断領域へのAI応用.補綴臨床,55(1):7-22,2022.
 序
 はじめに Introduction
Chapter 1 AIの基礎知識
 01.AIとディープラーニングについて学ぼう
 02.歯科AI診療と歯科医師の関係
Chapter 2 医療分野での先行事例を知ろう
 01.医療AI新時代〜ヒントンスピーチから6年〜
 02.眼底疾患領域
 03.乳腺疾患領域
 04.胸部疾患領域
 05.商用化の現状
 06.医療分野におけるAIの問題点と今後の展望
Chapter 3 歯科医療AIの最新事例
 01.歯科医療AIの研究と商用化の現在地
 02.歯科画像AIへの応用領域の分析と研究開発事例
 03.歯科パノラマX線画像におけるディープラーニングを用いた歯と歯科補綴物の認識
 04.パノラマX線画像におけるインプラントの同定
 05.パノラマX線画像を用いたAIによる骨粗鬆症のスクリーニング
 06.深層学習を用いた小児歯科領域の画像生成
 07.口腔内写真における補綴装置と修復物のディープラーニングによる自動検出
 08.機械学習を用いたインプラント周囲炎の発症予測モデル解析
 09.口腔粘膜疾患診断支援AIの研究開発
 10.ディープラーニングを用いた誤嚥の画像分類
 11.U-Netモデルを利用した医用画像自動変換モデルの構築
 12.口腔病理組織診断へのAIの応用
 13.口腔内スキャナーデータのAI分析と災害時身元識別
 14.ソーシャル・スマートデンタルホスピタル構想〜5年間をふりかえって〜
Chapter 4 歯科医療AIの企業動向
 01.スマートフォンを用いた歯周病発見AIアプリケーションの開発〔株式会社NTTドコモ/東北大学大学院歯学研究科〕
 02.口内法X線画像を用いた歯槽骨の骨密度計測AIの開発と展望〔メディア株式会社/アイテック株式会社〕
 03.歯科パノラマX線向けAI診断ソリューション『Dental AI D-Fast』〔メディホーム株式会社〕

 おわりに Epilogue