序
本書では,コバルトクロム合金を使用したコーヌスクローネ,通称「コバルトコーヌス」を補綴臨床の術式として取り入れる際に必要となる知識を,現時点で判明している情報を中心に解説した.筆者らが臨床現場の中で常々感じることは,どのような作業であってもルーティンワークを日常的に的確・正確に行うことの困難さである.さらに新しいものに挑戦をする,生み出すという作業には,この正確さを要するルーティンワークにさらに「プラスα」を加えることが常に求められるため,難易度が一層増すことになる.そのため,術前の治療チーム間での知識の擦り合わせが重要となり,また,その知識に正確さが要求されることになる.本書がその情報の起点となれば幸いである.また,基礎編を含めて本書の本文でも再三伝えているが,コバルトクロム合金の補綴装置への適用には多くの困難が付きまとう.本編と重複するが,改めてここで例を挙げてみる.
1.融点が高く,鋳造そのものに高い技術力および機器類が必要である
2.それに加えて,コバルトクロム合金は高酸化性金属であり,つまりは加熱による厚く除去が困難な酸化膜が生成されやすい
3.極めて硬度が高く,加工に多大な時間と技術を要する
4.連結等のろう付け技術にもさまざまな憶測があり,不確実であると考えている人が多い
5.コバルトクロム合金の生体への適応に関して,疑問視する風潮がある
しかしながら,下記の通り,利点も多くある.
1.強度が高く変形しずらいため,フレーム材としての適格性は抜群である
2.それと同様に,硬度が高いため,金属表面に傷が付きにくい
3.抗菌作用が高いため,プラーク等の付着を予防できる
4.質量が小さいため,補綴装置の軽量化が図れる
5.単価が低く,患者の経済的負担を軽減することができる
6.さまざまな補綴形態に対応可能で,口腔内の使用金属の同一化を図ることができる
7.1の理由から形状を簡略化でき(コネクター類の排除),患者の使用時の快適性を向上できる
これらの利点と欠点を今一度見て考えると,欠点の多くは,作業そのものに関する事項がほとんどで,補綴装置としてのありように対する事項ではないことに気づかされる.対して,利点のほぼ全てが,補綴装置そのものの向上につながるものばかりである.簡単に言えば,欠点は術者の観点に立った時の“都合の悪さ”を露呈しているものであり,補綴装置の質の向上を求めた時,また「補綴装置に求められるものは何か」という観点から鑑みた時,コバルトクロム合金を使用するという選択肢に大きな有意性が見出されるのではないだろうか.
これまでの歯科治療では「金や白金が最上級のもの」「セラミックスが最も良質な素材」「チタンは生体親和性が高く補綴装置製作において最も優れたもの」等々の,材料そのものの一部の特性のみが着目される風潮があったと思う.だからこそ今,「補綴装置が真に具備すべき材料特性とは何か」という原点に立ち返り,多くのものが散在している中から最適なものを見極めて拾い上げなければならない.補綴装置に対して「あるべき形状」と「使用するべき材料」を最優先に考えた時,症例によってはコバルトコーヌスが有力な選択肢の一つになるはずである.
コーヌスクローネそのものは,日本において過去に一度大きな失敗を経験している.つまり,1980年代に大きくその存在が知らしめられた時,多くの臨床家が無作為に飛びつき,少なく不確実な情報を元に臨床応用を始めて,さらには正確な検証を行わないまま置き去りにしてしまった結果,「コーヌスクローネはダメだ」という負の烙印が押されてしまった向きがある.大切なことは,同じ失敗を繰り返さないということである.正確な情報を取り入れ,術者が自らしっかりと再考し,無理のない形で慎重に臨床に取り入れていくべきであろう.また,前述の通り,技術的には極めて困難であるため,その研鑽も決して怠ってはならない.これは臨床家が重々肝に命じておくべきことであり,筆者らも自らを律せねばならない.
超高齢社会となった現在において,口腔内にはさまざまな問題が散見されるようになった.コバルトコーヌスがその問題解決の一助となり,基礎編と併せて,臨床編の本書がその手助けになれば幸いである.
CK.Party 一同
本書では,コバルトクロム合金を使用したコーヌスクローネ,通称「コバルトコーヌス」を補綴臨床の術式として取り入れる際に必要となる知識を,現時点で判明している情報を中心に解説した.筆者らが臨床現場の中で常々感じることは,どのような作業であってもルーティンワークを日常的に的確・正確に行うことの困難さである.さらに新しいものに挑戦をする,生み出すという作業には,この正確さを要するルーティンワークにさらに「プラスα」を加えることが常に求められるため,難易度が一層増すことになる.そのため,術前の治療チーム間での知識の擦り合わせが重要となり,また,その知識に正確さが要求されることになる.本書がその情報の起点となれば幸いである.また,基礎編を含めて本書の本文でも再三伝えているが,コバルトクロム合金の補綴装置への適用には多くの困難が付きまとう.本編と重複するが,改めてここで例を挙げてみる.
1.融点が高く,鋳造そのものに高い技術力および機器類が必要である
2.それに加えて,コバルトクロム合金は高酸化性金属であり,つまりは加熱による厚く除去が困難な酸化膜が生成されやすい
3.極めて硬度が高く,加工に多大な時間と技術を要する
4.連結等のろう付け技術にもさまざまな憶測があり,不確実であると考えている人が多い
5.コバルトクロム合金の生体への適応に関して,疑問視する風潮がある
しかしながら,下記の通り,利点も多くある.
1.強度が高く変形しずらいため,フレーム材としての適格性は抜群である
2.それと同様に,硬度が高いため,金属表面に傷が付きにくい
3.抗菌作用が高いため,プラーク等の付着を予防できる
4.質量が小さいため,補綴装置の軽量化が図れる
5.単価が低く,患者の経済的負担を軽減することができる
6.さまざまな補綴形態に対応可能で,口腔内の使用金属の同一化を図ることができる
7.1の理由から形状を簡略化でき(コネクター類の排除),患者の使用時の快適性を向上できる
これらの利点と欠点を今一度見て考えると,欠点の多くは,作業そのものに関する事項がほとんどで,補綴装置としてのありように対する事項ではないことに気づかされる.対して,利点のほぼ全てが,補綴装置そのものの向上につながるものばかりである.簡単に言えば,欠点は術者の観点に立った時の“都合の悪さ”を露呈しているものであり,補綴装置の質の向上を求めた時,また「補綴装置に求められるものは何か」という観点から鑑みた時,コバルトクロム合金を使用するという選択肢に大きな有意性が見出されるのではないだろうか.
これまでの歯科治療では「金や白金が最上級のもの」「セラミックスが最も良質な素材」「チタンは生体親和性が高く補綴装置製作において最も優れたもの」等々の,材料そのものの一部の特性のみが着目される風潮があったと思う.だからこそ今,「補綴装置が真に具備すべき材料特性とは何か」という原点に立ち返り,多くのものが散在している中から最適なものを見極めて拾い上げなければならない.補綴装置に対して「あるべき形状」と「使用するべき材料」を最優先に考えた時,症例によってはコバルトコーヌスが有力な選択肢の一つになるはずである.
コーヌスクローネそのものは,日本において過去に一度大きな失敗を経験している.つまり,1980年代に大きくその存在が知らしめられた時,多くの臨床家が無作為に飛びつき,少なく不確実な情報を元に臨床応用を始めて,さらには正確な検証を行わないまま置き去りにしてしまった結果,「コーヌスクローネはダメだ」という負の烙印が押されてしまった向きがある.大切なことは,同じ失敗を繰り返さないということである.正確な情報を取り入れ,術者が自らしっかりと再考し,無理のない形で慎重に臨床に取り入れていくべきであろう.また,前述の通り,技術的には極めて困難であるため,その研鑽も決して怠ってはならない.これは臨床家が重々肝に命じておくべきことであり,筆者らも自らを律せねばならない.
超高齢社会となった現在において,口腔内にはさまざまな問題が散見されるようになった.コバルトコーヌスがその問題解決の一助となり,基礎編と併せて,臨床編の本書がその手助けになれば幸いである.
CK.Party 一同
序章 患者さんとの治療前のコミュニケーション コバルトコーヌス治療を説明する際の「承諾書・同意書」のあり方
第1章 プロビジョナルレストレーションの技法
第2章 ダウエルコアの再考
第3章 リバース・リンガル・ショルダー
第4章 咬合採得の方法
第5章 内冠の装着〜接着技法を理解する
第6章 外冠フレームの連結作業
第7章 アルタードキャスト技法〜義歯床適合の要
第8章 インプラント上部構造の考え方と応用〜上部構造体としての一つの答え
第9章 口腔内装着後の維持力の調整
第10章 抜歯等による設計変更の術式
附章 歯科衛生士の視点から見たコーヌスクローネ治療の流れと準備〜アシスタントワークを中心に
第1章 プロビジョナルレストレーションの技法
第2章 ダウエルコアの再考
第3章 リバース・リンガル・ショルダー
第4章 咬合採得の方法
第5章 内冠の装着〜接着技法を理解する
第6章 外冠フレームの連結作業
第7章 アルタードキャスト技法〜義歯床適合の要
第8章 インプラント上部構造の考え方と応用〜上部構造体としての一つの答え
第9章 口腔内装着後の維持力の調整
第10章 抜歯等による設計変更の術式
附章 歯科衛生士の視点から見たコーヌスクローネ治療の流れと準備〜アシスタントワークを中心に














