やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 デジタルテクノロジーの進歩は産業界のみならず,私たちの日常生活に浸透しています.医療においても,検査,診断,手術,投薬,患者管理,医療業務管理ほか,あらゆる領域にデジタルテクノロジーが利用され,医療の高度化ならびに医療安全に貢献しています.
 歯科医療では審美を含む口腔機能の回復に種々の補綴装置を多用してきた歴史があります.補綴装置作製には専門職としての歯科技工士の協働が必要であり,金属,セラミックス,および合成高分子に対して歯科界独自の成形加工技術,すなわち歯科技工技術を駆使して個別の患者にテーラーメードの装置を提供してきました.近年,補綴装置作製の技工作業に,CAD/CAMテクノロジーの導入が実用化され,ジルコニアやコンポジットレジン系に代表される新材料の適用が可能になりました.歯科技工士の匠の技にデジタルテクノロジーを併用することにより,高品質の装置作製が可能になり,歯科技工の分業化と専門化が進められてきました.
 このような状況下で,平成26年11月に『補綴臨床』別冊として「最新CAD/CAM歯冠修復治療」を上梓したところ,多くの読者を得て日常臨床に活用されてきたことは編集委員として望外の喜びでありました.
 その後,歯科におけるデジタルテクノロジーの進歩はとどまるところを知らず,世界的にデジタル関連機器の開発や対応する材料の開発が進められてきました.我が国では,歯科医療に使用する材料や機器は医薬品・医療機器等法(薬機法)で規制されていますが,管理医療機器の範疇にデジタル印象採得装置が明確に分類されました.これまで海外に比べて遅れていた口腔内スキャナーの臨床使用が可能になったことで,一般臨床におけるデジタルデンティストリー化に拍車がかかりました.
 いわば歯冠修復治療におけるデジタル化が,修復装置作製の技工作業におけるデジタル化(CAD/CAMテクノロジーの応用)から,口腔内スキャナーを利用した印象採得・咬合採得を出発点とする一連のデジタル化が利用できる環境が整ってきたと言えます.一方,保険収載のいわゆるCAD/CAM冠が大臼歯部へ適用拡大になり,従来の印象採得・咬合採得による模型を出発点としたCAD/CAM化ではあるものの,一般臨床現場へのCAD/CAMデジタルテクノロジーの波及効果が期待されています.
 今回の企画では,『補綴臨床』の読者を念頭に,現在のデジタルデンタルテクノロジーの進歩について,歯冠修復治療を中心に,新しい材料の特徴,システムの進歩,口腔内スキャナーの現状,CBCTの現状,材料の選択基準,支台歯形成ほかの臨床術式の留意点等について専門家に解説をお願いしました.さらに,一線でご活躍の先生がたに,各社の口腔内スキャナーと新材料を使用した臨床症例を紹介していただきました.
 現在のインプラント治療では検査,診断,治療計画の立案,手術支援,補綴装置作製の一連の流れにデジタルテクノロジーが活用され,安全で信頼性の高い治療が進められています.CBCTの普及に加えて,インプラント手術シミュレーションソフトの活用や手術ガイドの作製,さらにナビゲーション手術機器の導入や,新しいフレーム用材料の開発などにより,インプラント治療はデジタルテクノロジーの恩恵を受けています.
 また,従来の加工用機器はブロックからの切削・研削によるミリング機器が中心でしたが,各種の3Dプリンターが登場して,インプラント手術ガイド,修復装置の原型や義歯床そのものの製作に利用されています.本書では今後のさらなる実用化につなげるために,3Dプリンターについても最新情報を掲載しました.
 以上のように,本書では歯冠修復治療を中心に,現在のデジタルデンティストリーの現状と臨床応用の最前線を紹介します.本書が補綴臨床医の日々の臨床に活用されることを祈念します.
 平成30年4月
 編集委員
 一般社団法人日本デジタル歯科学会 理事長
 末瀬一彦
 一般社団法人日本デジタル歯科学会 前会長
 宮ア 隆
 序文
序章
 デジタル化はわれわれに何をもたらしたか?(末瀬一彦)
第1章 材料の進歩
 セラミック系材料(小峰 太)
 レジン系材料(小峰 太)
第2章 機器・システムの進歩
 システムのクローズド化,オープン化とは(堀田康弘)
 口腔内スキャナーの基本(上村江美 馬場一美)
 口腔内スキャナーシステムの進歩(近藤尚知)
 インプラントのデジタル化(佐藤博信 城戸寛史 横上 智 篠ア陽介 一志恒太)
 3Dプリンターによる補綴装置製作の現状(仲田豊生 新保秀仁 大久保力廣)
 CBCTの現状と今後の展望−Incidental findingを見逃さないCT画像診断の重要性−(金田 隆 月岡庸之)
第3章 臨床例
 臨床の選択基準(中村隆志 宮前守寛)
 CAD/CAM冠(疋田一洋)
 CERECシステム(草間幸夫)
 3Shape TRIOS(千葉豊和)
 3Mトゥルーデフィニション(夏堀礼二)
 トロフィー3DIプロα(村岡正弘)
 シリカ系セラミックブロックを用いたCAD/CAM前歯部修復・補綴治療(中村昇司)
 高透光性ジルコニア(山ア 治)
 臼歯部モノリシックジルコニア(岩田卓也)
 インプラント・ガイデッドサージェリーの有用性(水木信之)