序
歯冠修復の目的として,特に重要と考えられるのが「審美」と「機能」の回復である.これを成し遂げるためには,必要十分な知識とともにそれを具現化するための技量が要求され,これらによって天然歯を模倣した歯冠修復が可能となる.一方,“天然歯の模倣”という当然の到達目標ではあるものの,直接修復にせよ間接修復にせよ,とりわけ前歯部修復においては満足いく結果を得ることは容易ではない.そのような時に考えるのが,「基本に戻る」ということであろう.しかし,ここで問題となるのが,その「基本」をどこに求めるか,である.
本書は,前歯部における審美修復を行うにあたって,必要な基本的事項を科学的視点から掘り下げたものである.
第1章では,歯の解剖学的あるいは形態学的特徴について,学理的でありながらも臨床家の視点から詳述されている.すなわち,解剖学とは“人体の一般的な構造について研究する学問”であるのに対して,臨床の場では“個々の症例における特徴に注目する”ことが大切となる.前歯部修復において,その特徴をどこに求めればよいのかが改めて理解できよう.
第2章においては,歯の色をどのように見るかについて,色彩の科学的知識とともに色覚に関する基礎的事項について解説されている.特に,歯の観察において偏光モードを用いることの有用性について強調されているが,読者におかれては,この手法をぜひとも臨床に取り入れていただきたい.
そして第3章では,歯が有する光学的性質について,著者の驚異的ともいうべき博識をもって解き明かされている.これによって読者は,歯を観察する際の着目点を明確に理解できるはずである.
翻訳を行うにあたっては,単に異なる言語を日本語に置き換えるのではなく,その内容の意味するところを理解しやすくなるように心掛けた.したがって,その構成が原文とは異なるところがあり,冗長と思われる部分に関しては割愛し,逆に必要と考えられる部分には解説を補足している.また,学術用語に関しては可及的に正確を期すとともに,記述された内容との整合性を考慮して変更した用語もある.
訳者として本書に関わることができた日々は,大学で教鞭を執る 者としてはもちろんのこと,特に臨床に携わる歯科医師としても,大いに知的好奇心が刺激される経験であった.英文を読み,その内容を理解し,さらに再構築することによって日本語として著すという作業を通して,学ぶことの楽しみを味わうことができた.
本書が,前歯部歯冠修復処置における基本的事項を明確にすることによって臨床に資するとともに,読者諸氏が基本に戻るにあたっての指標となることを確信しつつ,擱筆する.
日本大学歯学部保存学教室修復学講座 教授
宮崎 真至
歯冠修復の目的として,特に重要と考えられるのが「審美」と「機能」の回復である.これを成し遂げるためには,必要十分な知識とともにそれを具現化するための技量が要求され,これらによって天然歯を模倣した歯冠修復が可能となる.一方,“天然歯の模倣”という当然の到達目標ではあるものの,直接修復にせよ間接修復にせよ,とりわけ前歯部修復においては満足いく結果を得ることは容易ではない.そのような時に考えるのが,「基本に戻る」ということであろう.しかし,ここで問題となるのが,その「基本」をどこに求めるか,である.
本書は,前歯部における審美修復を行うにあたって,必要な基本的事項を科学的視点から掘り下げたものである.
第1章では,歯の解剖学的あるいは形態学的特徴について,学理的でありながらも臨床家の視点から詳述されている.すなわち,解剖学とは“人体の一般的な構造について研究する学問”であるのに対して,臨床の場では“個々の症例における特徴に注目する”ことが大切となる.前歯部修復において,その特徴をどこに求めればよいのかが改めて理解できよう.
第2章においては,歯の色をどのように見るかについて,色彩の科学的知識とともに色覚に関する基礎的事項について解説されている.特に,歯の観察において偏光モードを用いることの有用性について強調されているが,読者におかれては,この手法をぜひとも臨床に取り入れていただきたい.
そして第3章では,歯が有する光学的性質について,著者の驚異的ともいうべき博識をもって解き明かされている.これによって読者は,歯を観察する際の着目点を明確に理解できるはずである.
翻訳を行うにあたっては,単に異なる言語を日本語に置き換えるのではなく,その内容の意味するところを理解しやすくなるように心掛けた.したがって,その構成が原文とは異なるところがあり,冗長と思われる部分に関しては割愛し,逆に必要と考えられる部分には解説を補足している.また,学術用語に関しては可及的に正確を期すとともに,記述された内容との整合性を考慮して変更した用語もある.
訳者として本書に関わることができた日々は,大学で教鞭を執る 者としてはもちろんのこと,特に臨床に携わる歯科医師としても,大いに知的好奇心が刺激される経験であった.英文を読み,その内容を理解し,さらに再構築することによって日本語として著すという作業を通して,学ぶことの楽しみを味わうことができた.
本書が,前歯部歯冠修復処置における基本的事項を明確にすることによって臨床に資するとともに,読者諸氏が基本に戻るにあたっての指標となることを確信しつつ,擱筆する.
日本大学歯学部保存学教室修復学講座 教授
宮崎 真至
序
巻頭グラフ ANTERIORES
第1章 上顎前歯の形態学
標準的形態と正常多型
歯の位置・方向および大きさ
歯冠の大きさ
歯冠長
歯冠幅径
歯冠の最大値と最小値
切歯の形態を理解する
切歯の基本的形態
線角と点角
鼓形空隙
セメント-エナメル質境の走行
外形
上顎中切歯
唇側面観
近・遠心面観
切縁面観
舌側面観
シャベル形態の歯
唇側面の隆線と溝
周波条
エナメル質異形成
唇側面隆線
アペックスライン
ダブルシャベル
上顎側切歯
歯の大きさ
退化傾向とさまざまな変異
唇側面隆線
近心唇側面溝
舌側面
犬歯
基本的歯冠形態
唇側面観
近遠心面観
尖頭面観
舌側面観
第2章 歯の色彩
光と色
光
昼光の色温度
光強度・照度
観察対象
色素が有する色彩
反射曲線
色の捉え方と進化
色の恒常性
同時対比
経時対比
ベゾルト-ブリュッケ現象
色覚
色覚の三属性
色空間
L*a*b*色空間(表色系)
VITAクラシカルシェードガイド
条件等色
シェードマップ-デジタルシェードテイキング
第3章 歯質の光学特性
歯の半透明性
反射
クベルカ-ムンク理論
半透明性パラメータ
分散(散乱)
エナメル質のオパール効果
インサイザルハロー
散乱媒質中における複数の散乱
エナメル質と水分
回折
光の屈折と屈折率
複屈折
導光効果
分極
拡散反射と正反射
表面粗さ
微細構造
表面構造
蛍光性
患者個々の特殊な個性
エナメル質の亀裂
本書のおわりに
参考文献
文献付録 数値で知る日本人の歯
巻頭グラフ ANTERIORES
第1章 上顎前歯の形態学
標準的形態と正常多型
歯の位置・方向および大きさ
歯冠の大きさ
歯冠長
歯冠幅径
歯冠の最大値と最小値
切歯の形態を理解する
切歯の基本的形態
線角と点角
鼓形空隙
セメント-エナメル質境の走行
外形
上顎中切歯
唇側面観
近・遠心面観
切縁面観
舌側面観
シャベル形態の歯
唇側面の隆線と溝
周波条
エナメル質異形成
唇側面隆線
アペックスライン
ダブルシャベル
上顎側切歯
歯の大きさ
退化傾向とさまざまな変異
唇側面隆線
近心唇側面溝
舌側面
犬歯
基本的歯冠形態
唇側面観
近遠心面観
尖頭面観
舌側面観
第2章 歯の色彩
光と色
光
昼光の色温度
光強度・照度
観察対象
色素が有する色彩
反射曲線
色の捉え方と進化
色の恒常性
同時対比
経時対比
ベゾルト-ブリュッケ現象
色覚
色覚の三属性
色空間
L*a*b*色空間(表色系)
VITAクラシカルシェードガイド
条件等色
シェードマップ-デジタルシェードテイキング
第3章 歯質の光学特性
歯の半透明性
反射
クベルカ-ムンク理論
半透明性パラメータ
分散(散乱)
エナメル質のオパール効果
インサイザルハロー
散乱媒質中における複数の散乱
エナメル質と水分
回折
光の屈折と屈折率
複屈折
導光効果
分極
拡散反射と正反射
表面粗さ
微細構造
表面構造
蛍光性
患者個々の特殊な個性
エナメル質の亀裂
本書のおわりに
参考文献
文献付録 数値で知る日本人の歯