やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 インプラント治療の第一義は欠損補綴であることに議論の余地はない.しかしながらその治療過程において,従来の補綴法には縁が薄かった,粘膜剥離,骨切削,縫合という外科処置を伴うことから,如何にインプラントを埋入するかに注目が集まってきたのは当然のことである.さらにサイナスリフトや骨移植などの骨増生法,軟組織のマネージメントなど,インプラント前には一般歯科医があまり手を付けることがなかった処置が,眼前の症例の要求とともに,多くの歯科医の向学心と前向きなチャレンジをかきたて,一層の関心を集めている.それとともにそこから培われた様々なオプションは,術者のみならず患者のインプラント治療に対する満足度のハードルを引き上げている.すなわち機能回復を達成することだけではよしとはされず,現時点ではより美しく,そして長期間に渡って機能を維持し,トラブルの少ないインプラント補綴が求められている.
 しばしば耳にすることであるが,補綴とは,生体機能を代替しそして調和する「生物学的ファクター」,それとともに長期間の咬合圧,機能圧に耐える「力学(工学)的ファクター」,さらに外貌に大きな影響・貢献 をもたらし,自然な美しさを回復し維持するという観点から「アート」との融合が求められる.インプラント補綴においては,かかる機能圧に対する,上部構造の材料と設計,そして骨内に埋入され上部構造を支持するフィクスチャーの本数,長さ,角度,全てが我々の手に委ねられ,ひいてはオッセオインテグレーションにより生体へと伝搬される.周知の通りインプラントには,ある意味のショックアブソーバー,もしくは 我々のテクニカルな誤差を寛容してくれる歯根膜を欠如することから,非常に厳密な補綴設計と,リスクマネージメントが求められている.本書では,インプラントの原点,そして最終目的は欠損補綴であるということに立ち返り,補綴的視点から現在のインプラント治療の到達点を再認識し,あらためてインプラントの補綴術式を検証することにしたい.長期的に安定したインプラント補綴を実践するための一つの指針,ノウハウとして,本書が多くの先生方の日常臨床にお役に立てれば幸いである.
 田中秀樹
 福岡県福岡市・田中ひでき歯科クリニック
 澤瀬 隆
 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 口腔インプラント学/教授
 序文
Part1 インプラントシステム
 各種インプラントシステムの特徴(澤瀬 隆)
Part2 補綴の診査・診断
 審美領域(上顎前歯部)の診査・診断(田中秀樹)
 審美領域(下顎前歯部)の診査・診断(田中秀樹)
 上顎臼歯部の診査・診断(徳永哲彦)
 下顎臼歯部の診査・診断(徳永哲彦)
 無歯顎の診査・診断(細川隆司・中本哲自・正木千尋)
Part3 上部構造の分類
 有歯顎における上部構造の分類(竹田博文)
 無歯顎における上部構造の分類(飯島俊一)
Part4 プロビジョナルレストレーション
 プロビジョナルレストレーションの意義,製作方法(日高豊彦)
 プロビジョナルレストレーションによる咬合付与の実際(松下恭之)
Part5 上部構造の製作
 有歯顎における上部構造の製作(竹田博文)
 無歯顎における上部構造の製作(飯島俊一)
 印象採得のポイント(小野大輔・神保 良・澤瀬 隆)
 顎位の診断(佐藤博信・新田 悟・片渕三千綱・松浦尚志・松永興昌)
 咬合採得(欠損に応じた咬合採得)(佐藤博信・新田 悟・徳富健太郎・松浦尚志・松永興昌)
 インプラントの咬合(渡邉 恵・友竹偉則・市川哲雄)
Part6 補綴のメインテナンス
 補綴のメインテナンスとインフォームドコンセント(田中秀樹)
 エイジングにあわせた補綴のメインテナンス(金城清一郎)
 リペアー(平 曜輔・澤瀬 隆)
 補綴のメインテナンスとトラブル(安東俊夫・田中秀樹)