やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

インプラント治療コンセプトの変化と即時インプラント
〜時代は補綴主導型から患者主導型のインプラント治療へ〜
 1970年代,インプラントは可撤性有床義歯を嫌う患者に対し,固定性義歯を可能にする特殊な治療手段であった.1980年代のインプラント治療は,埋入部位に十分な骨があることが絶対的条件であった.すなわち外科主導型のインプラント治療である.ところが,1989年,動物実験においてゴアテックス膜などのバリア膜を用いた骨造成(GBR ; Guided Bone Regeneration)の可能性が示され,ヒトへの臨床応用がさかんに行われるようになり,さらに,サイナスリフトもさまざまな術式の改良により予知性も向上し,骨量の不足に対する治療手段が格段に進歩した.また,適切な軟組織のマネージメントと審美的治療を可能にするアバットメントシステムの開発により,審美的インプラント補綴が可能となった.いわゆる補綴主導型インプラント治療がグローバルスタンダードとして位置づけられた.
 その後1998年,カナダのトロントで学際的なインプラント治療の国際コンセンサス会議が開かれ新しい潮流が示された.すなわち,術者だけでなく患者側からの満足度,すなわちQOLの向上こそがインプラント治療の主要なゴールであるという考え方の提唱であり,もう一つは,根拠に基づいたインプラント治療,すなわちEBM(Evidence-Based Medicine)の導入であった.トロント会議におけるこれらの提言を踏まえ,インプラント治療は21世紀に入ってさらなる革新を遂げようとしている.この流れを,あえて一言で表すと『患者主導型』のインプラント治療であり,その中心をなすトレンドが,患者のQOLを考慮した治療期間の短縮(早期荷重・即時荷重)といえる.しかし,EBMの立場から考えると,特に即時荷重に関しては,科学的な根拠となりうるような長期にわたる前向きの臨床研究がいまだ報告されておらず,エビデンスが決定的に不足していることを認めざるをえない.
 そこで本別冊では,時代の先端的要請に応え,インプラントの即時荷重についてエビデンスが不足していることは承知のうえで,現状を基礎研究から臨床術式まであらゆる方向からまとめて提示することを試みた.患者の多くは「待つ」ことを嫌い,「すぐに歯が入る」ことを望んでいる.したがってわれわれ医療者は,この望みを高いレベルで安全に確実に達成することを目指す必要がある.
 本書に示された多くの内容,特に多くの成功症例は即時荷重の術式の明るい未来を示唆するものである.しかし,即時荷重の術式はリスクもあり,一歩まちがえば大きな社会問題に発展しかねない.ようやくインプラント治療が社会に認知されはじめ,多くの患者がインプラントを選択しはじめた現在,われわれはさらに一歩先に踏み出そうとしているのだが,その一歩はきわめて慎重でなければならない.本別冊の企画趣旨は,安易に即時荷重を勧めるものではなく,即時荷重の現状を理解し,明日の臨床の方向性を示すものと受けとっていただければ幸いである.

2005年11月
編集委員/細川隆司・市川哲雄
 ・序文

Part 1 即時荷重の overview
 即時荷重インプラントの過去・現在・未来(細川隆司・竹中めぐみ・正木千尋)
 即時荷重インプラントの定義(塩田 真・米田 哲)
 即時荷重インプラントの文献的レビュー(是竹克紀・赤川安正)
 即時荷重インプラントにおけるオッセオインテグレーション(渡邉 恵・友竹偉則・市川哲雄)
 即時インプラント治療時のCT画像診断(誉田栄一・前田直樹・吉田みどり)
 即時荷重インプラントにおける臨床検査法(萩原芳幸)
 口腔外科の視点からみた即時荷重インプラント(宮本洋二・藤澤健司・山内英嗣)
 補綴の視点からみた即時荷重インプラント(市川哲雄・友竹偉則・長尾大輔)
 力学的視点からみた即時荷重インプラント(梅原一浩)
 歯周の視点からみた即時荷重インプラント(西堀雅一・武内謙典)
 即時埋入・即時荷重インプラントのナビゲーション(前田芳信・十河基文)
Part 2 即時荷重のpractice
 All-on-4コンセプト開発者Dr.Maloに聞く/All-on-4誕生のドキュメントストーリー(Paulo Malo・細川隆司)
 即時荷重の適応と今後の展望/All-on-4・All-on-6(中村社綱)
 Replace Select Taperdを用いた上顎無歯顎への即時荷重(堀内克啓)
 Br系emark Systemを用いた即時荷重のプロトコール(中平 宏)
 Straumann(ITI)インプラントによる即時荷重のエビデンスと治療術式(添島義和)
 Straumann(ITI)TEインプラントによる上顎無歯顎症例への即時荷重(正木千尋・細川隆司)
 磁性アタッチメントを応用した即時荷重インプラント法(小宮山彌太郎)
 磁性アタッチメントの即時荷重インプラントへの有効な応用:おもにバーアタッチメントとしての応用(大栗孝文・友竹偉則・市川哲雄)
 Replace Select Taperdを使った上顎6前歯欠損への抜歯即時埋入・即時荷重(森本啓三・山田泰寛)
 新しい1回法ワンピースインプラント(Nobel Direct)(水木信之)
 Straumann(ITI)インプラントを用いた即時荷重(飯島俊一)
 CAMLOGインプラントを用いた即時荷重インプラントの臨床(渡邉文彦)
 即時荷重インプラントの術後管理(梅原一浩)

 ・略歴
 ・索引