やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 歯科治療の成否を大きく左右する補綴装置は,個々の患者によって形状が異なるため全てオーダーメイドによる手作業で製作されていました.まさしく,アナログ技術の頂点に位置する高精度な歯科技工は洗練された匠の技により成し遂げられてきたわけです.もちろん,現在においてもほとんどの補綴装置は「アナログ技工」,すなわちハンドメイドで製作されているわけですが,1970年代にCAD/CAMの原理が歯科に伝承されて以来,少しずつですが「デジタル技工」に関心が向けられるようになりました.特に1985年にセレックシステムが登場してからは身近な加工技術となり,ジルコニアの商品化に加え,約20年前からはインプラント上部構造のフレームワークに切削加工(ミリング)が導入されました.それまではロングスパンのフレームワークは鋳造によるいくつかのピースを鑞着あるいはレーザー溶接により一体化していたのに対して,高精度なワンピースフレームワークの製作が可能になったのです.まさに歯科技工におけるCAD/CAM製作の夜明けとも言えるのではないでしょうか.しかし,それらは全て切削加工によるものでした.
 切削加工から遅れはしましたが,この10年間で歯科にも3Dプリントが導入されるようになりました.3DプリントとはCADの設計データ(STLデータ)をもとに2次元の層を積み重ねていくことにより3次元的モデルを製作する加工技術であり,積層造形あるいは付加造形(Additive Manufacturing[AM])とも呼称されています.日本人による特許出願から始まったこの加工技術は,除去加工(マイナス加工)や成形加工(変形加工)に次いで,3番目の加工法(プラス加工)とも言われています.2013年,オバマ大統領が一般教書演説の中で3Dプリンターに言及し,これからは積層造形に焦点を当てると宣言してからは,あらゆる生産現場に浸透,普及するようになりました.切削加工に比較して,(1)切削屑がない,(2)複雑な形態,アンダーカット,中空構造も造形可,(3)比較的コストが低い,等の利点があることから,切削加工に変わるこれからの加工技術として,歯科技工の分野でも少しずつ導入されるようになってきたわけです.
 現在,歯科領域においては,3Dプリントはインプラント埋入手術に有用なサージカルガイドや作業用模型,鋳造用のパターン,個人トレー,義歯床,フレームワーク,矯正用アライナー等の製作に応用されています.今後はAM機器の進歩,改善だけでなく,樹脂インクや金属パウダーの薬事認証が進展すれば,ますます発展していくことは間違いないでしょう.
 そこで,本書では3Dプリントを対象とした歯科領域の最前線でご活躍されている歯科技工士や臨床家,研究者の方々に,歯科用3Dプリントの現状と今後の展望についてご執筆いただきました.本書により,導入時や使用時の注意事項,実際の技工作業における勘所等を参考にしていただき,「デジタル技工」導入の促進にお役立ていただければ幸いです.
 2022年11月
 鶴見大学歯学部有床義歯補綴学講座 教授
 大久保力廣
 有限会社協和デンタル・ラボラトリー 会長
 木村健二
 序文
 巻頭対談 3Dプリンターの現在,そして未来(大久保力廣,木村健二)
第1章 3Dプリンターの基礎
 3Dプリンターの歴史,加工法の分類(樋口鎮央)
 各種義歯床用レジンの特徴と物性の文献的概括(三田 稔,枡 澪那,馬場一美)
 造形角度が適合精度に及ぼす影響(高市敦士)
 3Dプリンティングで製作された全部床義歯の臨床研究(新保秀仁,大久保力廣)
 耐摩耗性 3Dプリンティング人工歯材料の開発(武山丈徹,新保秀仁,大久保力廣)
第2章 各種3Dプリンターの紹介
 アシガ MAX UV,アシガ PRO 4K 80UV
 NextDent 5100
 Perfactory VIDA,SmaPri Sonic 4K LL
 プランメカ Creo(R) C5
 rapidshape
 TRS 3Dプリンター XL 4K
 Zenith L2
 カーラ プリント 4.0 プロ
第3章 3Dプリンターの臨床
 3Dプリント義歯-拡大造形・圧接重合の効果(藤原芳生)
 全部床義歯の製作(中村修啓)
 個人トレーの製作 (1)(木村義明)
 個人トレーの製作 (2)(目黒智也)
 クラウン用パターンの製作(時田純兒)
 デンチャー用鋳造パターンの製作(木村義明)
 フレームワークの製作(原田直彦)
 インプラントサージカルガイドの製作(米持 崇,石澤亮一)
 3D石膏顎骨モデルの製作(庄 慶彦)
 3Dレジン模型の製作(三輪武人,浅野真吾,上鵜瀬美奈)
 スプリントの製作(加藤 明,石澤亮一)
 3Dプリンター用粉末材料を用いた造形物製作のワークフローと注意点(吉次範博)
 矯正歯科治療用アプライアンスの製作(友成 博,及川 崇,宮本 豊,阿曽敏正,白濱伸悟)
第4章 3Dプリンターの今後の展望
 セラミック材料の 3Dプリントについて(高田宏起,小峰 太)
 3Dプリントデンチャーの現在と未来(羽田多麻木,岩城麻衣子,金澤 学)
 医療現場におけるIoTやインダストリー4.0への3Dプリンターの活用(堀田康弘)
 3Dプリンターの海外の動向(末瀬一彦)