やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 デジタルソリューションへの転換の流れは,世界中の多くの分野で加速度的に進んでおり,歯科領域においても近年その波は押し寄せて来ている.歯科のデジタル技法の始まりは,世界的には1970年代に南カリフォルニア大学のFrancois Duretが歯科の分野にCAD/CAM技術の考えを持ち込み,1985年にチューリッヒ大学のWerner H.Mormann教授らがシーメンス社と共同で開発したCERECシステムが最初と考えられる.日本では1988年に藤田らが数値制御による補綴物製作として自動ミリングの臨床応用を報告してから,既に四半世紀近くが経過した.
 最近は切削ドリルによる加工法を応用した手法から,3Dプリンターをはじめとする付加造形法にもその展開は広がっており,有床義歯を含む補綴装置の製作まで歯科領域での応用範囲が期待されつつある.このようにデジタル化が進む中,工業界の進歩に伴ってハードウェアの開発は日々行われていくが,今後はそのハードに組み込まれる補綴装置デザイン用のソフトウェアの充実がキーポイントとなってくるのは自明の理である.
 ソフトウェアの充実とは何を意味するのであろうか.これまでは長年「こんな感じにしてください」という曖昧な表現によって歯科医師が歯科技工士に製作要件を伝えてきた.ところが,ソフトウェアは「ここを5mmに」「この角度を45°に」「この厚みは1mmに」と具体的な数字(客観データ)としてプログラムに書き込まなければ,加工を担うハードウェアは決して補綴装置を完成させることはできない.すなわち,客観的データとしてソフトウェアに情報を入力しなければならないということである.これは,治療に関わる情報を根拠あるデジタルデータへと変換しなければならないことを意味している.
 そこで,本誌では日常臨床において,診療術式及び技工術式において明確な客観的データをアナログ手技で評価しながら行っている先生がたに本誌の企画趣旨を理解していただき,日常臨床に応用している客観的データを存分に表現していただく内容とした.特に,今回は患者の顎口腔系という生体から得られた情報を,補綴装置や咬合付与に組み込むノウハウをわかりやすく表現していただいた.歯科臨床でのデジタルソリューション設定において,「患者の生体情報に基づくプログラム作成」は質の高い補綴装置製作の核心となることは間違いない.本書の内容が今後のデジタル歯科における設計・補綴製作の一助となることを期待する.
 2019年9月
 玉置勝司
 神奈川歯科大学大学院歯学研究科顎咬合機能回復補綴医学分野
 榊原功二
 榊原デンタルラボ
 佐藤幸司
 佐藤補綴研究室
Chapter 1 咬合不調和の原因とその対策
 1 補綴臨床における顎偏位とアンテリアガイダンスを考える(杉元敬弘)
 2 機 能運動・限界運動の違いと不随意運動の考え方(増田長次郎)
Chapter 2 理想咬合の各種基準を知る
 1 有歯顎理想咬合の歴史と臨床での要点(玉置勝司,榊原功二)
 2 骨格に基づく咬合平面設定の考え方(玉置勝司,榊原功二)
 3 有歯顎咬合面の形成と口腔内調整(玉置勝司,榊原功二)
 4 総義歯の咬合と咬合様式(佐藤幸司)
Chapter 3 臨床での対応を知る
 1 臨床におけるインプラント補綴装置の咬合(井出幹哉,山下正史,手老久信)
 2 限られた情報の中での前歯クラウンブリッジの補綴設計(大石庸二)
 3 生体の生理機能を回復した1 症例(小野浩太郎)
 4 ダブルスキャンを活用した最終補綴装置への形態付与(廣末将士)
 5 長期的に機能するインプラントオーバーデンチャーの考察(吉岡雅史,志賀文彦)
 6 左右で異なる咬合様式を与えた総義歯症例(萩野絵美)
 7 顔面からのセファロ分析を活用した咬合再構成(前川泰一)
Special Topics
 1 顆路角の変化に伴う補綴装置への影響(アナログとデジタルの接点)(三輪武人)
 2 ブラキシズム対応のエビデンス(山口泰彦)