やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 いかによい機材を入手し,よい被写体に巡り合えたとしても,それだけでよい写真を得ることはできない.さりながら,本人の意図に反して,十分な撮影条件を整えられなかった……と思いながら撮影した写真が,期せずして素晴らしい出来栄えに仕上がることもある.写真とは,カメラとは,とても奥の深い世界である.ましてや趣味性の高いものであることから,ややもすると凝り固まった意見等が交わされることもあるほどに,感性が優先される分野でもある.すなわち写真とは,単に記録のみではなく,撮影者の感情すらも写し留めるものと言えるのではないだろうか.
 編者らの経験では,例え優れた言葉を持たなくとも,優れた記録および精密な記録がなされた写真があれば,多くの言辞を連ねるよりも大きな説得力を持つことが多くある.時間は誰にも平等に与えられるもので,素晴らしい写真を得るタイミングに遭遇するチャンスも,皆が等しく持っている.大げさに言えば,その人の生涯という時間の分だけ,そのタイミングに遭遇する機会がある.そこで得る,写真という記録がよりよいものであってほしいと望むのは編者らだけではないであろうし,ましてや何らかの情報やメッセージを観る者に伝える意図が写真の中にあるならば,その想いがより強くなるのは当然であろう.
 2013年に発刊された月刊歯科技工別冊『デジタル・デンタルフォトテクニックマスターブック』では,デジタル一眼レフカメラの基本的な使用法や,歯科において口腔内を撮影するために必要な器材(カメラボディ,レンズ,ストロボ等)の基本的な操作を解説し,それを実臨床(臨床技工)で実践するに際してのポイントを中心に,「日常の臨床記録を失敗のないものとするためのヒントになれば」との思いで紹介した.それに続く本書では,まずPart1において,デジタルカメラの初学者,初心者の読者にご覧いただくことを想定して,シンプルなカメラ(コンパクトデジタルカメラ)による歯科用写真の撮影がどこまで可能なのかを編者らで検証し,その現状について報告した.Part2では前回別冊の内容を踏襲しながらも,さらによい記録を得るためのアドバンスな内容とエッセンスをふんだんに盛り込んだ企画とするため,チェアサイド,ラボサイドの垣根を越えて多くの臨床家に協力を仰いだ.
 「読者諸氏が担当するその症例は,貴方にしか記録することができないのだ」という事実を受け止めて,それをどのように記録しておくかという課題に応える一冊として本書を上梓する.目の前にせっかく記録するものがあるのだから,貴方がせっかく担当歯科医師,歯科技工士,歯科衛生士として選ばれたのだから……,最善を尽くして治療を施し,その経過と成果を記録したいという切なる願いに本書が寄り添うことができれば望外の喜びである.
 2015年12月吉日
 山本尚吾(東京都新宿区/BeR)
 瓜坂達也(大阪市西区/LUCENT Dental Laboratory)
Opening Graph Dental Photo Square
Part1 コンパクトデジタルカメラで行う口腔内撮影Q&A
 Q 01.コンパクトデジタルカメラで歯科用写真は撮影できるの?
 Q 02.カメラの撮影設定ってどうすればいいの?
 Q 03.ホワイトバランスを調整したら何が変わるの?
 Q 04.シェードテイキングには使えるの?
 Q 05.規格写真も撮影できるの?
 Q 06.ブレない写真の撮り方ってないの?
 Q 07.ミラーレス一眼カメラでも撮影できるの?
Part2 デジタル一眼レフカメラで行うアドバンス撮影法
 01.より精密で魅せる口腔内写真を得るためのストロボ光の扱い方
 02.各種ディフューザー活用法(1) 模型上のセラミックス補綴物撮影時の仕上がりの変化
 03.各種ディフューザー活用法(2) 口腔内撮影時の仕上がりの変化
 04.口腔内撮影における偏光フィルター活用法
 05.インプラントブリッジの撮影法
 06.陶材築盛・補綴物のより効果的な撮影法
 07.より精密で魅せる模型の撮影法
 08.診査・診断,外科処置,保存用資料のより精密な撮影法
 09.より精密なラボコミュニケーションを図るためのシェード写真撮影法
 10.軟組織拡大像を含めたチェアサイドワークのより精密な撮影法
 11.ラボ器材のマクロ撮影法
 12.プレゼンテーションソフトを用いたカラーマネジメント法
 13.ポートレイトの撮影法