やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社



 「Necessary」……歯科における撮影画像では,何が必要になるであろうか.

 歯科医療従事者は,日常の治療や技工作業において,それぞれのステップ確認や経過観察,歯の色調の伝達などを目的として,さまざまなシーンにおいて記録画像を撮影する.その記録画像の質は,正確な情報伝達や適切な説明を行ううえで大きな影響を及ぼす.
 また,それぞれの症例を撮影,記録するということは,その時間の記録であり,やり直しのきかない作業である.それはすなわち,ノンフィクションのドキュメントである.このような性質を帯びる記録画像の失敗を避けたいと考えるのは,歯科医療従事者であれば誰しも当然のことであろう.記録したいと考える情報を的確に撮影できず,その際の対処法も知り得ないとなると,歯科治療,特に審美補綴治療においてはその後の工程を正確に,スムーズに進めることが困難になってしまう.とはいえ,歯科医療従事者はあくまで歯科治療における個々の分野でのプロフェッショナルであり,専門家としてのフォトグラファーではない.ゆえに,写真撮影における十分な知識や経験を身に付けているわけではなく,その修練に費やすことのできる時間も限られているのが現実である.
 そこで本書では,歯科医師,歯科技工士,そして歯科衛生士が日常のワーキングステップや必要な資料を保存しておくための画像を「精密に」「正確に」記録するために必要な知識と手法( 必要な機材の操作法,撮影時に必要なカメラの設定,環境光の影響への配慮など)をビジュアルに示し,わかりやすく,読者諸氏のモチベーションを刺激するような一冊となることを目指した.また,シェードテイキング時の撮影設定の参考としていただくべく,採光条件の異なる歯科医院の診療室での口腔内写真の撮影結果の提示と考察を行い,歯科医療従事者が日々接する各種被写体ごとの撮影のポイントも解説した.
 本書が臨床に携わるすべての歯科医療従事者の参考になり,よりよい記録画像を得るための一助となれば幸いである.

 虚像は日常にあふれているために,目にすることが多い.しかし真実は見ようとしなければ見ることはできない.
 (ゲーテ『雑詩集』より)

 大河雅之( 東京都渋谷区/代官山アドレス歯科クリニック)
 山ア 治( 東京都渋谷区/原宿デンタルオフィス)
 山本尚吾( 東京都新宿区/ B e R)
Part1 Precise Dental Photograph Gallery
Part2 デジタルカメラの基礎知識
 01.歯科におけるワーキングディスタンス
 02.カメラの撮影設定にまつわる基礎知識
 03.歯科における口腔内のマクロ撮影
 04.適切なホワイトバランスの設定
 05.口腔内撮影に効果的なストロボの設定
 06.口腔内撮影に影響を及ぼす環境光の考察
 07.シェードテイキングの実際
Part3 実践! 院内での正確・精密なシェードテイキング
 01.北側の採光窓から天然光が差し込む環境での撮影
 02.周囲を高層ビルに囲まれ,ブラインドを常時閉めている環境での撮影
 03.北側が全面窓となっており天然光を取り込みやすい環境での撮影
 04.採光窓がなく,壁面に反射鏡のある環境での撮影
Part4 論文・講演発表,資料保存に役立つ! 各種被写体撮影のヒント
 01.顔貌,口唇の撮影
 02.口腔内規格写真の撮影
 03.セラミックス補綴物と築盛作業の撮影
 04.石膏模型の撮影
 05.咬合器とワックスアップの撮影
 06.金属床と人工歯,排列作業の撮影
 07.インプラントとミリング作業の撮影
 08.各種インスツルメントや軟組織拡大像の撮影