序
　現在の歯科医療を支える歯冠レストレーションは，新しい材料と成形加工法の導入，そしてそれを使いこなす歯科技工士のノウハウにより進化してきた歴史がある．金属の精密鋳造法と陶材の築盛焼成法，そして金属への陶材焼付技術が確立され，適合性，耐久性および審美性を兼ね備えた陶材焼付鋳造レストレーションが日常臨床に定着している．その一方で，患者の審美に対する高度な要求，金属アレルギーに対する懸念，そしてインプラント上部構造に必要な高度な適合性と審美への要求などにより，金属を使用しないオールセラミックスレストレーションへの期待が高まり，これまで新しい材料と成形加工法の導入が検討されてきた．ただ，いずれも適応症や耐久性に限界があり，歯科技工現場での設備や操作性などの問題で，現在の陶材焼付鋳造レストレーションを凌駕するには至らなかった．
　そんななか，破壊靱性の大きいファインセラミックスであるジルコニア系セラミックスが開発され，一般産業界にて実用化が進められるとともに，歯科におけるオールセラミックスレストレーションのフレーム材料としても期待されるようになった．一方，一般産業界の業態を一変させたコンピュータを利用した成形加工法であるCAD/CAMが歯科技工にも応用され，ネットワークと専用の加工センターを利用した新しいタイプの歯科技工の業態が登場している．ジルコニア高密度焼結体の利用は従来の歯科技工所の設備では困難であったが，CAD/CAMの導入によりそれが可能になり，適合性，耐久性，審美性に優れたオールセラミックスレストレーション用ジルコニアフレームの製作が可能になったのである．
　ジルコニアの歯科医療への応用は国際的には2002年から実用化の段階に入り，CAD/CAM装置の発展とともに急速に普及が進められた．わが国では薬事承認が遅れていたが，2005年に承認が下り，現在は欧米の主要なシステムを含めて多くの企業がジルコニアに参入し，インプラント上部構造を中心に臨床現場でも広く定着しつつある．しかし，各メーカー主導で普及が進められ，多くのシステムが導入されているため，歯科技工の現場ではジルコニアフレーム（コーピング）の適応症，設計基準，設計方法およびブロックの色調選択，発注するシステムの選択基準，さらには最終レストレーション完成までの陶材選択やプレスオンテクニックなどの技工操作を巡って，通法の確立が求められている．
　本書においては，現場の歯科技工士のために，各種ジルコニアブロックの材料学的性質などの基礎的情報を第103章にて整理したうえで，フレーム設計や技工操作上の臨床的な注意点を具体的に解説した．現状では最終レストレーションの完成までに，ジルコニアフレームに対する前装部への技工操作において，粉末築盛，プレスおよびCAD/CAMなどの多様な成形加工技術が利用され，さらにジルコニア単独のレストレーションも欧米では利用されるようになってきている．そこで，第4章では同じ作業用模型（サンプル模型）を用意し，気鋭の歯科技工士にそれぞれの修復法を用いたインプラントブリッジ製作のプロセスを呈示していただき，多様なジルコニアレストレーションの製作法をわかりやすく解説した．さらに，第5章では前歯部・臼歯部などの部位別，ブリッジ・インプラントなどの補綴手法別などの12症例を示し，臨床応用の実際をわかりやすく供覧している．
　本書が現場の歯科技工士，さらには歯科医師にとって，新材料・ジルコニアを使いこなし，高品質なレストレーションを国民に提供する一助となることを期待している．
　2010年12月
　昭和大学歯学部歯科理工学講座
　宮�ｱ　隆
　東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科摂食機能保存学分野
　三浦宏之
　協和デンタルラボラトリー（千葉県松戸市）
　木村　健二