序
「審美歯科」という言葉が日本に導入されて30年以上という歳月が流れたにもかかわらず,現在なお,その言葉は歯科臨床の現場で金字塔のごとく輝き続けている.近年のトレンドと言えば,「日本歯科審美学会」が提唱したホワイトニングコーディネーター制度の成功や,ジルコニアに代表されるオールセラミックスの臨床現場での普及などが,審美歯科という大きなうねりの中から端を発したものと考えられる.ではなぜ,「審美歯科」という言葉がこれほど多くの歯科医療従事者たちを魅了してきたのか──それはやはり,アンチエイジングと呼ばれる抗加齢医学の流行からもわかるように,生涯を通じて健康で若々しくありたい,そして豊かに人生を全うしたいという人びとの心の表れであり,それを端的に表す言葉として「美」に集約されるからであろう.
しかしながら,これらのことを今一度考え直してみると,健康で若々しくということは,ただ美しいだけではなく,いわゆる機能的な部分での健全性が前提になければならず,健全な生活を営むのに不可欠な機能と自然の見た目が両立することにより,真の「審美性」が達成できるという考え方が必然的に生まれてくる.これを歯科,とりわけ歯科技工の立場で考えてみたとき,「審美歯科とは形態および色彩と機能が回復されたときに初めて達成されるもの」であり,逆の角度から見れば,形態および色彩と機能の調和を図ることが歯科における審美であるとも言えるであろう.
本書では,審美歯科を歯科技工士からのアプローチで考えた際に要求されるであろう「原理と原則」に焦点を絞り,今一度,総括を行ってみたいと思う.そこには,耳目を引くような斬新なテクニックや考え方はないかもしれないが,逆に,それらを実現するための基本となるエッセンスを集約してみた.歯科技工士が行う技工作業には多くの術式があるが,実はそれらの基本は同じであり,基本を知っていれば,例えばフルマウスのセラミックスワーク(PFM〔Porcelain Fuse to Metal〕でも,オールセラミックスでも)であっても,インプラントや総義歯であっても,臨機応変に対応することができる.また,こうした基本は,それらの技術習得を段階的に踏んでいくための糧ともなるであろう.そして,前述の事項を審美歯科と呼ぶのであれば,実は歯科技工士が行っている作業のほとんどが「審美歯科技工」であるとも言える.本書ではこれらの観点から,歯科技工士が知っておかなければならない「基本」が総括されている.
最後に,本書の各項目の執筆者はすべて,日本歯科審美学会の認定士(歯科技工士部門)である.認定士は臨床の現場はもちろんのこと,日々研鑽を重ね,日本における歯科技工分野での学術にも深く関わっているプロフェッショナルたちが多い.これら認定士の生き様をも文章の中から感じ取っていただき,特に若い歯科技工士には一つの指針にしていただきたいと願っている.
二〇〇九年 深秋
日本歯科審美学会歯科技工士部門認定士
石川功和 小田中康裕 中込敏夫 西村好美
巻頭言 「審美修復補綴装置は芸術作品であり,人口臓器でもある」
近年の日本においては,少子高齢社会の到来と高度な歯科医療技術・材料の開発に伴い,歯科医療に対する要求は高度化・多様化の一途をたどっている.われわれは歯科医療が果たすべき役割の重要性,歯科医療に対する国民からの期待の大きさについて改めて認識する必要があり,望まれるハイレベルな歯科医療を提供して患者に満足していただくためには,歯科医,歯科衛生士,歯科技工士がチームを結成し,タイアップしながらそれぞれの能力を最大限に発揮して診療に臨むことが必要である.そして,チームのメンバーにはそれぞれの能力をレベルアップさせるために,自己研鑽の努力を日々積み重ねることが求められている.
日本歯科審美学会は,歯科医療の現場でチームをまとめながら直接診療に携わる歯科医,患者とのコミュニケーションやスケーリング,ホワイトニング,口腔ケアなどをとおして良好で快適な口腔環境を提供し,さらにそれを維持していただくための保健指導やメインテナンス業務に携わる歯科衛生士,そして形態,色調,機能が調和し,さらに過酷な長期の使用に耐えうる審美修復補綴装置を製作・供給する歯科技工士などから会員構成されている数少ない学会の一つであり,歯科医療を担当するこれら会員が結束・協力しあって審美歯科の普及を図ることを目的としている.特に,歯科技工士が製作する補綴装置は人目に触れる美しい芸術作品であるとともに,人工臓器でもあり,これが口腔内に装着されることによって患者の口腔機能を回復することができる.そして,患者は全身の健康を享受し,快適な社会生活を送ることが可能となり,QOL(Quality of Life)が改善され,明るい笑顔の絶えない,食べることが楽しい人生を謳歌していただけるようになる.
近年,日本歯科審美学会の目的に賛同し入会する会員が急増し,会員数は約3,500名にも達している.専門的知識および臨床技能・経験を有する歯科医,歯科技工士,歯科衛生士により,高度な歯科審美医療水準の維持・向上を図り,国民の保健福祉に貢献するためのプロフェショナルの養成を目指し,認定医ならびに認定士制度が制定されている.審美修復補綴装置製作のための高い歯科技工技能を習得していると認められた歯科技工士部門の認定士の数は現在28名と多くはないが,この中には歯科技工士の分野で国内外で活躍している著名な歯科技工士が多数含まれている.
最後に,編集委員としてこの企画に取り組んでこられた日本歯科審美学会認定士の先生がたに心からの敬意を表すとともに,本書を読まれた次世代を担う多くの歯科技工士の方がたが,日本歯科審美学会に入会し,誇り高い認定士称号の取得を目指されることを祈念したい.
二〇〇九年十一月
日本歯科審美学会会長
昭和大学歯学部歯科保存学講座教授
久光 久
「審美歯科」という言葉が日本に導入されて30年以上という歳月が流れたにもかかわらず,現在なお,その言葉は歯科臨床の現場で金字塔のごとく輝き続けている.近年のトレンドと言えば,「日本歯科審美学会」が提唱したホワイトニングコーディネーター制度の成功や,ジルコニアに代表されるオールセラミックスの臨床現場での普及などが,審美歯科という大きなうねりの中から端を発したものと考えられる.ではなぜ,「審美歯科」という言葉がこれほど多くの歯科医療従事者たちを魅了してきたのか──それはやはり,アンチエイジングと呼ばれる抗加齢医学の流行からもわかるように,生涯を通じて健康で若々しくありたい,そして豊かに人生を全うしたいという人びとの心の表れであり,それを端的に表す言葉として「美」に集約されるからであろう.
しかしながら,これらのことを今一度考え直してみると,健康で若々しくということは,ただ美しいだけではなく,いわゆる機能的な部分での健全性が前提になければならず,健全な生活を営むのに不可欠な機能と自然の見た目が両立することにより,真の「審美性」が達成できるという考え方が必然的に生まれてくる.これを歯科,とりわけ歯科技工の立場で考えてみたとき,「審美歯科とは形態および色彩と機能が回復されたときに初めて達成されるもの」であり,逆の角度から見れば,形態および色彩と機能の調和を図ることが歯科における審美であるとも言えるであろう.
本書では,審美歯科を歯科技工士からのアプローチで考えた際に要求されるであろう「原理と原則」に焦点を絞り,今一度,総括を行ってみたいと思う.そこには,耳目を引くような斬新なテクニックや考え方はないかもしれないが,逆に,それらを実現するための基本となるエッセンスを集約してみた.歯科技工士が行う技工作業には多くの術式があるが,実はそれらの基本は同じであり,基本を知っていれば,例えばフルマウスのセラミックスワーク(PFM〔Porcelain Fuse to Metal〕でも,オールセラミックスでも)であっても,インプラントや総義歯であっても,臨機応変に対応することができる.また,こうした基本は,それらの技術習得を段階的に踏んでいくための糧ともなるであろう.そして,前述の事項を審美歯科と呼ぶのであれば,実は歯科技工士が行っている作業のほとんどが「審美歯科技工」であるとも言える.本書ではこれらの観点から,歯科技工士が知っておかなければならない「基本」が総括されている.
最後に,本書の各項目の執筆者はすべて,日本歯科審美学会の認定士(歯科技工士部門)である.認定士は臨床の現場はもちろんのこと,日々研鑽を重ね,日本における歯科技工分野での学術にも深く関わっているプロフェッショナルたちが多い.これら認定士の生き様をも文章の中から感じ取っていただき,特に若い歯科技工士には一つの指針にしていただきたいと願っている.
二〇〇九年 深秋
日本歯科審美学会歯科技工士部門認定士
石川功和 小田中康裕 中込敏夫 西村好美
巻頭言 「審美修復補綴装置は芸術作品であり,人口臓器でもある」
近年の日本においては,少子高齢社会の到来と高度な歯科医療技術・材料の開発に伴い,歯科医療に対する要求は高度化・多様化の一途をたどっている.われわれは歯科医療が果たすべき役割の重要性,歯科医療に対する国民からの期待の大きさについて改めて認識する必要があり,望まれるハイレベルな歯科医療を提供して患者に満足していただくためには,歯科医,歯科衛生士,歯科技工士がチームを結成し,タイアップしながらそれぞれの能力を最大限に発揮して診療に臨むことが必要である.そして,チームのメンバーにはそれぞれの能力をレベルアップさせるために,自己研鑽の努力を日々積み重ねることが求められている.
日本歯科審美学会は,歯科医療の現場でチームをまとめながら直接診療に携わる歯科医,患者とのコミュニケーションやスケーリング,ホワイトニング,口腔ケアなどをとおして良好で快適な口腔環境を提供し,さらにそれを維持していただくための保健指導やメインテナンス業務に携わる歯科衛生士,そして形態,色調,機能が調和し,さらに過酷な長期の使用に耐えうる審美修復補綴装置を製作・供給する歯科技工士などから会員構成されている数少ない学会の一つであり,歯科医療を担当するこれら会員が結束・協力しあって審美歯科の普及を図ることを目的としている.特に,歯科技工士が製作する補綴装置は人目に触れる美しい芸術作品であるとともに,人工臓器でもあり,これが口腔内に装着されることによって患者の口腔機能を回復することができる.そして,患者は全身の健康を享受し,快適な社会生活を送ることが可能となり,QOL(Quality of Life)が改善され,明るい笑顔の絶えない,食べることが楽しい人生を謳歌していただけるようになる.
近年,日本歯科審美学会の目的に賛同し入会する会員が急増し,会員数は約3,500名にも達している.専門的知識および臨床技能・経験を有する歯科医,歯科技工士,歯科衛生士により,高度な歯科審美医療水準の維持・向上を図り,国民の保健福祉に貢献するためのプロフェショナルの養成を目指し,認定医ならびに認定士制度が制定されている.審美修復補綴装置製作のための高い歯科技工技能を習得していると認められた歯科技工士部門の認定士の数は現在28名と多くはないが,この中には歯科技工士の分野で国内外で活躍している著名な歯科技工士が多数含まれている.
最後に,編集委員としてこの企画に取り組んでこられた日本歯科審美学会認定士の先生がたに心からの敬意を表すとともに,本書を読まれた次世代を担う多くの歯科技工士の方がたが,日本歯科審美学会に入会し,誇り高い認定士称号の取得を目指されることを祈念したい.
二〇〇九年十一月
日本歯科審美学会会長
昭和大学歯学部歯科保存学講座教授
久光 久
序
巻頭言(久光 久)
Part.1 序論
1.審美歯科と歯科技工(齊木好太郎)
2.審美歯科技工の世界(齊木好太郎)
Part.2 形態
1.天然歯の形態(西村好美)
2.歯列の形(中込敏夫)
3.排列(石川功和)
Part.3 色彩
1.天然歯の色彩(小田中康裕)
2.セラミックスの色彩(山本尚吾)
3.ハイブリッドレジンの色彩(小野寺保夫)
Part.4 機能
1.接触と運動(内藤孝雄)
2.適合(岡野京二)
3.咬合器(大畠一成)
4.補綴装置に働く力(増田長次郎)
Part.5 情報伝達
1.情報(遊亀裕一)
2.プレゼンテーション(山口佳男)
巻末言(桑田正博)
索引
編著者・執筆者一覧
巻頭言(久光 久)
Part.1 序論
1.審美歯科と歯科技工(齊木好太郎)
2.審美歯科技工の世界(齊木好太郎)
Part.2 形態
1.天然歯の形態(西村好美)
2.歯列の形(中込敏夫)
3.排列(石川功和)
Part.3 色彩
1.天然歯の色彩(小田中康裕)
2.セラミックスの色彩(山本尚吾)
3.ハイブリッドレジンの色彩(小野寺保夫)
Part.4 機能
1.接触と運動(内藤孝雄)
2.適合(岡野京二)
3.咬合器(大畠一成)
4.補綴装置に働く力(増田長次郎)
Part.5 情報伝達
1.情報(遊亀裕一)
2.プレゼンテーション(山口佳男)
巻末言(桑田正博)
索引
編著者・執筆者一覧








