序
人間が初めて金属に出会ったのは,いまから6000〜7000年くらい前の太古といわれている.そして,その金属の姿や質を変え(加工)“もの”を作ることで,いわゆる金属文明を形成したことにより,生活の質や利便性が高度に進歩したと考えられる.
その加工方法としては,材料を熱処理して延ばし鍛えて形を造る鍛冶,平板材を叩いて延ばし形を整える板金,加工機械を使い金属を削って形を造る機械加工,金属材料を溶解し鋳型に入れて形を造る鋳造,金属を必要な形に切断・接合し形を造る溶接,が挙げられる.また,金属工芸品の分野では,彫金,鍛金,鋳金と呼ばれる技法が用いられている.
歯科界においても,支台築造,インレー,クラウン,義歯床のパーツなど,失われた歯牙やその一部を修復する方法として,これらの技法が用いられてきた変遷がある.そのなかで,Martinから始まりTaggartによる金インレー鋳造法(ロストワックス法)が発表されてから,まもなく100年を迎えようとしている.そして,工業技術がさまざまな進歩を遂げるなか,歯科技工界においても,CAD/CAM,電鋳などの新技術が拡がりを見せている.にもかかわらず,100年の永きにわたり,ロストワックス法が脈々と受け継がれてきたことには,なんらかの理由があるはずである.それは,@ 歯科技工の世界で求められるミクロン単位の精密さの再現が可能であること,A 術者の得たい形が得られる操作性・再現性,B それらを可能とした材料,器具の進歩,などが,本法の優位性として挙げられるからだろう.
ロストワックス法における歯科技工物の製作において,模型製作から鋳造に至るまでの工程それぞれが重要であることはいうまでもないが,“ワックスアップ”が鋳造体の精度に影響を及ぼす重要な工程であり,精度の高いワックスパターンを製作することが,すなわち良質な補綴物の製作につながる.そのためには,補綴物の種類・形態・使用材料や器具,また歯周組織・対合歯との関係などの生体を把握したうえで,適切な作業を行っていくことが大前提である.
“ワックスアップ”については,1978年に『歯科技工』別冊『ワックス・アップ―クラウン・ブリッジを中心に―』が発行されているが,その後の歯科臨床および材料・機器・技術,ならびに補綴処置方法の変化などには著しいものがある.本書においては,それらを踏まえたうえで,コアからクラウン・ブリッジを中心に,またインプラントのケースなどについても網羅しながら,新しいワックスアップのスタンダードを確立し,ロストワックス法の重要性を再確認すべく,本書のテーマとして再び取り上げることにした.
今後,歯科における“ものづくり“の方法も,技術革新や求められる補綴物の種類などにより様変わりしていくことが十分に考えられるが,補綴物製作の基本となる“ワックスアップ”を熟知し,臨床応用することにより,歯科技工士として歯科臨床に貢献できることを期待するとともに,本書が読者諸兄の歯科技工作業の一助になれば幸いである
2003年12月
編集委員
齊木好太郎
ラボラトリー・オブ・プリンシピア
大畠 一成
デンタルラボア・グロース
安江 透
東京医科歯科大学歯学部附属歯科技工士学校
人間が初めて金属に出会ったのは,いまから6000〜7000年くらい前の太古といわれている.そして,その金属の姿や質を変え(加工)“もの”を作ることで,いわゆる金属文明を形成したことにより,生活の質や利便性が高度に進歩したと考えられる.
その加工方法としては,材料を熱処理して延ばし鍛えて形を造る鍛冶,平板材を叩いて延ばし形を整える板金,加工機械を使い金属を削って形を造る機械加工,金属材料を溶解し鋳型に入れて形を造る鋳造,金属を必要な形に切断・接合し形を造る溶接,が挙げられる.また,金属工芸品の分野では,彫金,鍛金,鋳金と呼ばれる技法が用いられている.
歯科界においても,支台築造,インレー,クラウン,義歯床のパーツなど,失われた歯牙やその一部を修復する方法として,これらの技法が用いられてきた変遷がある.そのなかで,Martinから始まりTaggartによる金インレー鋳造法(ロストワックス法)が発表されてから,まもなく100年を迎えようとしている.そして,工業技術がさまざまな進歩を遂げるなか,歯科技工界においても,CAD/CAM,電鋳などの新技術が拡がりを見せている.にもかかわらず,100年の永きにわたり,ロストワックス法が脈々と受け継がれてきたことには,なんらかの理由があるはずである.それは,@ 歯科技工の世界で求められるミクロン単位の精密さの再現が可能であること,A 術者の得たい形が得られる操作性・再現性,B それらを可能とした材料,器具の進歩,などが,本法の優位性として挙げられるからだろう.
ロストワックス法における歯科技工物の製作において,模型製作から鋳造に至るまでの工程それぞれが重要であることはいうまでもないが,“ワックスアップ”が鋳造体の精度に影響を及ぼす重要な工程であり,精度の高いワックスパターンを製作することが,すなわち良質な補綴物の製作につながる.そのためには,補綴物の種類・形態・使用材料や器具,また歯周組織・対合歯との関係などの生体を把握したうえで,適切な作業を行っていくことが大前提である.
“ワックスアップ”については,1978年に『歯科技工』別冊『ワックス・アップ―クラウン・ブリッジを中心に―』が発行されているが,その後の歯科臨床および材料・機器・技術,ならびに補綴処置方法の変化などには著しいものがある.本書においては,それらを踏まえたうえで,コアからクラウン・ブリッジを中心に,またインプラントのケースなどについても網羅しながら,新しいワックスアップのスタンダードを確立し,ロストワックス法の重要性を再確認すべく,本書のテーマとして再び取り上げることにした.
今後,歯科における“ものづくり“の方法も,技術革新や求められる補綴物の種類などにより様変わりしていくことが十分に考えられるが,補綴物製作の基本となる“ワックスアップ”を熟知し,臨床応用することにより,歯科技工士として歯科臨床に貢献できることを期待するとともに,本書が読者諸兄の歯科技工作業の一助になれば幸いである
2003年12月
編集委員
齊木好太郎
ラボラトリー・オブ・プリンシピア
大畠 一成
デンタルラボア・グロース
安江 透
東京医科歯科大学歯学部附属歯科技工士学校
序文
目次
Part 1 ワックスアップ概論
1 ワックスアップに必要な歯および歯列の解剖学 湯田雅士
2 ワックスアップに必要な口腔解剖学 坪井明人 渡辺 誠
3 ワックスアップに必要な咬合の知識 岩田健男 田村勝美
4 ワックスアップに必要な歯科理工学 宮崎 隆 玉置幸道
5 ワックスアップ法概論 湯田雅士
Part 2 ワックスアップの使用器材
1 ワックス 根〆まり
2 表面硬化剤,表面処理剤,セメントスペーサー,ワックス分離剤 西島本周二
3 ワックス形成器 加藤雅司
4 ワクサー 川端利明 古屋亜希
5 マイクロスコープ 川端利明 古屋亜希
6 その他の器材 川端利明 古屋亜希
Part 3 ワックスアップの基本テクニック
1 間接法とワックスアップ 安江 透 石綿 勝
2 各種ワックスアップ法
(1) 圧接法 佐野滋信 石綿 勝
(2) 盛り上げ法 矢作光昭 石綿 勝
(3) その他のワックスアップ法 土平和秀 石綿 勝
3 修復物別テクニック
(1) 築造(メタルコア) 潮木 陽
(2) インレー 潮木 陽
(3) 全部鋳造冠(クラウン,ブリッジ) 金井正行
(4) 前装冠(レジン) 菅野秀実 片平智博
(5) 前装冠(ポーセレン) 池本政直
(6) インプラント 大石幸男
Part 4 Case Presentation
1 臼歯部クラウンの機能的ワックスアップ法 粕谷有香 川崎従道
2 前歯部ブリッジにおける審美性の回復 渡邉一史
3 機能と審美性を追及する臼歯部ブリッジのワックスアップ 花輪容子 大畠一成
4 全顎補綴におけるプランニングとワックスアップ(フルマウスリハビリテーションおよびテレスコープデンチャー) 福山保則
5 インプラント治療におけるワックスアップ 小湊秀利
ワンポイント・アドバイス
窓開けの方法 川端利明
ワックス表面を滑沢にする方法 松原 恒 ダウエルピンを確実に固定するための工夫 松瀬雄三……119
ワックスパターン連結法 岡村昌弘
ワックスの厚みの確認法 牧絵 陽
付録
ワックスアップに必要な鑑別手順 湯田雅士
歯科鋳造の歴史 湯田雅士
目次
Part 1 ワックスアップ概論
1 ワックスアップに必要な歯および歯列の解剖学 湯田雅士
2 ワックスアップに必要な口腔解剖学 坪井明人 渡辺 誠
3 ワックスアップに必要な咬合の知識 岩田健男 田村勝美
4 ワックスアップに必要な歯科理工学 宮崎 隆 玉置幸道
5 ワックスアップ法概論 湯田雅士
Part 2 ワックスアップの使用器材
1 ワックス 根〆まり
2 表面硬化剤,表面処理剤,セメントスペーサー,ワックス分離剤 西島本周二
3 ワックス形成器 加藤雅司
4 ワクサー 川端利明 古屋亜希
5 マイクロスコープ 川端利明 古屋亜希
6 その他の器材 川端利明 古屋亜希
Part 3 ワックスアップの基本テクニック
1 間接法とワックスアップ 安江 透 石綿 勝
2 各種ワックスアップ法
(1) 圧接法 佐野滋信 石綿 勝
(2) 盛り上げ法 矢作光昭 石綿 勝
(3) その他のワックスアップ法 土平和秀 石綿 勝
3 修復物別テクニック
(1) 築造(メタルコア) 潮木 陽
(2) インレー 潮木 陽
(3) 全部鋳造冠(クラウン,ブリッジ) 金井正行
(4) 前装冠(レジン) 菅野秀実 片平智博
(5) 前装冠(ポーセレン) 池本政直
(6) インプラント 大石幸男
Part 4 Case Presentation
1 臼歯部クラウンの機能的ワックスアップ法 粕谷有香 川崎従道
2 前歯部ブリッジにおける審美性の回復 渡邉一史
3 機能と審美性を追及する臼歯部ブリッジのワックスアップ 花輪容子 大畠一成
4 全顎補綴におけるプランニングとワックスアップ(フルマウスリハビリテーションおよびテレスコープデンチャー) 福山保則
5 インプラント治療におけるワックスアップ 小湊秀利
ワンポイント・アドバイス
窓開けの方法 川端利明
ワックス表面を滑沢にする方法 松原 恒 ダウエルピンを確実に固定するための工夫 松瀬雄三……119
ワックスパターン連結法 岡村昌弘
ワックスの厚みの確認法 牧絵 陽
付録
ワックスアップに必要な鑑別手順 湯田雅士
歯科鋳造の歴史 湯田雅士