やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 歯科用ジルコニアは,技術革新と材料の改良によって進化してきた.
 1990年代後半から2000年代初頭にかけて,ジルコニアを使用した歯科用製品が市場に登場した.この時期のジルコニアは,3 mol% のイットリアを含有した酸化ジルコニウム(YTZP:Yttria-stabilized Tetragonal Zirconia Polycrystal)として知られるもので,強度と耐久性に優れていた.
 2000年代に入り,CAD-CAM* 技術の進展によりジルコニアの加工精度が飛躍的に向上し,ジルコニアを用いたクラウンやブリッジの製作がより正確かつ迅速に行えるようになり,使用が拡大した.従来のジルコニアは不透明で審美的に劣るため,陶材の前装を必要としていたが,2010年代には,透光性の高いジルコニアが開発され,ジルコニア単一構造(モノリシック)で天然歯に近い見た目を再現できるようになった.これにより前歯を含む高い審美性が求められる部位にも使用が拡大している.
 現在もジルコニアの進化は続いており,色調の異なる複数の層をもつグラデーション構造のジルコニアの登場により,天然歯の自然な色調や透明感をより精密に再現することが可能になった.このように,歯科用ジルコニアはその特性と技術の進歩によって大きく進化し,成熟した材料となった.
 ジルコニアに陶材を築盛せず単体で用いることは,歯質削除量の削減や製作時間の短縮だけではなく,デジタル機器を用いることによりプロビジョナルレストレーションの形態を直接最終補綴装置へ反映させることができるなど,陶材前装のジルコニアとは異なる利点がある.
 本書では,これからの日本の歯科臨床で利用価値の高いモノリシックジルコニアレストレーションについて,その有用性とエビデンスから実際の臨床でのポイントまで網羅した.なかでもモノリシックジルコニアレストレーションを安全に使用するための重要な要素である「材料選択」と「表面仕上げ法」について特に詳しく解説し,読者の日常臨床に役立つような構成を心掛けた.本書の提供する最新の内容を,多くの実践の場で活用していただければ嬉しく思う.
 編集委員一同

 * Academy of Prosthodonticsより2023年10月に公開された『The Glossary of Prosthodontic Terms2023 Tenth Edition』(GPT-10)の表記に従う.
 序
巻頭座談会 モノリシックジルコニアのいま
Chapter 01 ジルコニアレストレーションの臨床エビデンス
Chapter 02 歯科用ジルコニアの変遷
Chapter 03 臨床でジルコニアを用いるKey point
Chapter 04 ジルコニアクラウンを審美的に成功に導くKey pointージルコニアの色調ー
Chapter 05 ジルコニア技工のKey point
Chapter 06 ジルコニアの審美性を高めるKey point
Chapter 07 ジルコニア接着のKey point
Chapter 08 ジルコニアパーシャルベニアの臨床例
Chapter 09 ジルコニアクラウンブリッジの臨床例
Chapter 10 ジルコニアインプラント上部構造の臨床例
Chapter 11 ジルコニアレストレーション装着後の対応