やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 臼歯への歯冠色材料を用いたオクルーザルべニアが文献的に初めて見られたのは,酸蝕症に対する修復処置のケースレポート1)であったと記憶している.その文献は1988年とかなり古く,築盛用陶材を用いた非常に繊細な臨床であったと推測される.それ以降,オクルーザルべニアは,歯冠色材料を用いた部分被覆冠として,多くの臨床で使用されてきたが,破折や脱離する症例も多く認められた.歯冠色材料が築盛用陶材から分散強化型セラミックへと進化しても,臼歯部部分被覆冠への利用は少なく,全部被覆冠への応用が一般的であった.日本から間接修復用歯冠色材料としてハイブリッド型レジンが発売されたときは,セラミックと比較して高い縁端強度と破壊靭性を有することと,接着術式の発達とが合わさって,臼歯部の部分被覆冠で多く利用され,良好な経過が観察されていた.しかしながら,長期的な経過観察から,艶の低下が多く散見され,審美的には課題を有していた.その後,適切な被着面処理と接着システムが確立されたことから,オクルーザルべニアの優位性が開花し,Magneら2)やEdelhoffら3)によるさまざまな研究成果を経て,臨床での信頼性が構築された.
 歯科のデジタル化はいよいよチェアサイドまで及んでおり,口腔内スキャナーによるデジタルインプレッションが身近な存在となってきている.当初は疑問視されていたデジタルインプレッションの印象精度であるが,単冠から少数歯欠損程度であれば,非常に高い印象精度を有することが明らかとなっている.しかしながら,隣接面の光の届きづらいところや,歯肉縁下に及ぶフィニッシュラインなど,直接撮影が難しいところなどでは,印象精度の低下が懸念される.このデジタル化への潮流に合わせて,信頼性の確立が得られつつあるオクルーザルべニアは,今までの歯冠修復で常識とされてきた支台歯形成の定義から脱却するとともに,デジタルインプレッションにも親和性の高い,まさにこれからの歯冠修復法の主流となると感じている.
 本書では,これからの日本の歯科臨床で利用価値の高いオクルーザルべニアについて,その有用性とエビデンスから実際の臨床でのポイントまで網羅した.そのなかでも,オクルーザルべニアを安全に使用するための最も重要な要素として,「支台歯形成」と「接着術式」については特に詳しく説明している.オクルーザルべニアの材料はレジン系材料から二ケイ酸リチウムやジルコニアなどのセラミックスまでもが対象となるので,それらの接着理論に関しても深く掘り下げ,読者諸賢の日常臨床にも役立つようになっている.
 まだ,多くの歯科医師には特別な歯冠修復法と感じられているオクルーザルべニアであるが,その有用性は本当に高く,一度その“味”を経験してしまうと,なかなか今までの常識であったクラウンを選択しづらくなる.臨床術式も簡便で,トラブルに対するリカバリーも容易,そして何より歯を削らない歯冠修復は,患者に寄り添ったすべての歯科医師に利益をもたらす術式であるので,本書から学んだ内容を多くの臨床で実践していただきたい.
 編集委員一同

 1)Rawlinson A,Winstanley RB.The management of severe dental erosion using posterior occlusal porcelain veneers and an anterior overdenture.Restorative Dent.1988; 4(1): 10,14-16.
 2)Magne P,Schlichting LH,Maia HP,Baratieri LN.In vitro fatigue resistance of CAD/CAM composite resin and ceramic posterior occlusal veneers.J Prosthet Dent.2010; 104(3): 149-157.
 3)Edelhoff D,Guth JF,Erdelt K,Brix O,Liebermann A.Clinical performance of occlusal onlays made of lithium disilicate ceramic in patients with severe tooth wear up to11years.Dent Mater.2019; 35(9): 1319-1330.
 序
巻頭座談会 オクルーザルベニアとは!?
Chapter 1 歯冠修復の新潮流
Chapter 2 オクルーザルベニアの臨床エビデンス
Chapter 3 シリカ系セラミックスへの接着
Chapter 4 ノンシリカ系セラミックス(ジルコニア)への接着
Chapter 5 コンポジットレジンブロックへの接着
Chapter 6 セメントの選択基準と審美性への配慮
Chapter 7 接着阻害因子の除去〜間接法を成功させるための知恵〜
Chapter 8 歯質への接着
Chapter 9 デジタル印象に適した支台歯形態の模索〜高精度のデジタル印象を行うために〜
Chapter 10 セラミックオクルーザルベニアの臨床〜チェアサイドからの考察〜

 Column 1 オクルーザルべニアを成功に導く支台歯形成
 Column 2 ワンランク上のメインテナンスへ
 Column 3 CAD/CAM技術および歯冠補綴材料の進歩がもたらしたもの
 Column 4 自己接着性直接充填用コンポジットレジンはまだか?!
 Column 5 「いつかはクラウン」ではない!! 接着の神様の微笑みと歯科衛生士さんの逆鱗