やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 歯科医療の発展や国民の口腔衛生意識の高まりなどから,高齢者の平均残存歯数は年々増加しつつあり,無歯顎者の割合も低下していることは周知の事実である.そして,平均寿命も延伸するため,欠損を有する患者がより高齢化しつつあり,有床義歯臨床の考え方にも変化が生じている.特に,無歯顎者の平均年齢は以前よりずっと高齢となり,いわゆる難症例が増加しているといわれている.しかしながら,卒前の大学教育では徐々に有床義歯学に関する講義時間数や臨床実習での自験症例数が減少しつつあると報告されている.そのような状況から,全部床義歯臨床は徐々により専門的な分野へと移行しつつあるのではないかとも考えられる.
 一方で,部分床義歯臨床では少し状況が異なるのではないだろうか.平成28年度歯科疾患実態調査によると,喪失歯所有者率は55〜59歳で72.8%,75〜79歳では90.9%となっている.つまり,ほとんどの高齢者がなんらかの欠損を有していることがわかる.欠損補綴には義歯治療以外の選択肢もあるとはいえ,一般的な治療としてそのニーズは依然として高く,多くの歯科医師にとって日常臨床のなかで必ず必要な分野だといえる.
 そうであるにも関わらず,部分床義歯臨床は,多くの若手歯科医師が悩みを抱えている分野の1つである.そこで本書では,タイトルのとおり「はじめて部分床義歯症例を担当する際に,何を知っておくべきか?」をメインテーマとした.
 多くの方がご存知のように,義歯臨床には流派ともいえるさまざまな考え方が存在しているが,本書では,東西問わず大学の補綴科で義歯臨床を学んだ若手臨床家を集め,義歯臨床を成功させるために共通して重要だと考えられるポイントを収載した.
 本書を手にした若手歯科医師が,少しでも部分床義歯臨床に対する悩みを減らし,適切な部分床義歯を患者に提供できるような学びの機会を得られることを切に願う.
 編集委員一同
 序
Chapter 1 はじめに:部分床義歯臨床の特徴,義歯の必要性の判断
Chapter 2 問診,診査,診断,必要な検査,コンサルテーション,症例の難易度
Chapter 3 概形印象採得
Chapter 4 研究用模型分析,サベイング
Chapter 5 部分床義歯の設計原則
Chapter 6 義歯の構成要素
Chapter 7 前処置
Chapter 8 最終印象:個人トレーの必要性,選択的加圧印象とは,印象手技について
Chapter 9 咬合採得(1) 総論(残存歯の咬合の有無による分類,咬合平面,咬合高径)
Chapter 10 咬合採得(2) 水平的顎間関係記録時の注意点
Chapter 11 人工歯排列,咬合様式
Chapter 12 ろう義歯試適(前歯試適,臼歯試適)
Chapter 13 装着・調整
Chapter 14 リコール
Chapter 15 メインテナンス中のトラブルへの対応

 Column
  01 部分床義歯のトップダウントリートメント
  02 こんなに便利! 暫間義歯のススメ
  03 残存組織をいかに守るか?〜緩圧とリジッドサポートの違い
  04 部分床義歯と発語障害
  05 アタッチメントの使い分け
  06 部分床義歯にインプラントは必要なのか?
  07 部分床義歯による咬合再構成〜特に咬合挙上を行う場合,どう対応するか?
  08 部分床義歯の装着によって対合歯の挺出は防げるのか?
  09 義歯の支台歯の予後は本当に悪いのか?
  10 人工歯の咬耗,摩耗
  11 顎欠損と部分床義歯