やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 近年の歯科医学の発展や口腔健康への意識の高まりから,無歯顎患者の割合が減少していることは統計学的にも数多く報告されている.この傾向はわが国だけでなく世界中の多くの国でも同様である.そのため,全部床義歯に関する臨床や教育,さらには研究へのニーズにもさまざまな変化が生じている.たとえば,教育に関しては学部学生への講義,臨床実習の時間数は,増加することはなく減る一方であるし,研究分野でも全部床義歯に関する論文数は10年前に比べると驚くほど減少している.
 では,多くの歯科医師(特に若手歯科医師)はすでに全部床義歯臨床への興味を失ってしまっているかというと,決してそうではない.今でもさまざまな全部床義歯セミナーが存在し,その多くが満席となり,全部床義歯に関する多くの書籍が毎年上梓されている(もちろん,本書もそのなかの一冊になるわけだが).
 その理由がどこにあるのかを考察すると,まず多くの若手歯科医師は,学生時代に全部床義歯について十分に学べていないと感じているのではないだろうか.つまり,日常的に多くの全部床義歯患者を診療するわけではないものの,いざ無歯顎患者に対して義歯を製作する場合にみずからが困難に直面するであろうことを理解していると考えられる.もう1つの理由として,さまざまな欠損状態に対する部分床義歯や大規模補綴治療を成功へ導くためには,全部床義歯臨床に関する知識が非常に役立つと考えられることから,全部床義歯を学びたいという若手歯科医師が減ることがないのであろう.
 そこで,本書ではタイトルの通り,若手歯科医師が「はじめて」全部床義歯症例を担当する場面を想定し,基本的な内容をわかりやすく解説するように心がけている.さらに,これまでの多くの成書と異なる特徴として,特定の手法だけを解説するのではなく,日常臨床で役立つと考えられるさまざまな手法についてもできるだけ紹介している.たとえば,卒前の教育ではなかなかカバーできない簡易咬合採得の方法やろう堤付きトレーを用いた印象法など,有用性の高い手法についても具体的に解説している.また,執筆には全部床義歯を専門的に数多く手がけている若手臨床家に,学派を超えて加わっていただくことで,「はじめての全部床義歯臨床」にとって本当に重要なエッセンスを理解しやすいように構成している.
 本書を手にした読者が少しでも良い全部床義歯製作を手がけられるようになることを,心から願っている.
 編集委員一同
 序
Chapter 1 無歯顎患者の治療の特徴
Chapter 2 診療1日目:問診,診査診断,必要な検査
Chapter 3 診療1日目:概形印象
Chapter 4 技工1回目:研究用模型分析,個人トレー製作
Chapter 6 診療2日目:最終印象/ろう堤付きトレーを用いた方法
Chapter 5 診療2日目:最終印象/個人トレーを用いた方法
Chapter 7 技工2回目:作業用模型製作,リリーフ部位,咬合床製作
Chapter 8 診療3日目:咬合採得/垂直的顎間関係
Chapter 9 診療3日目:咬合採得/水平的顎間関係
Chapter 10 技工3回目:咬合器装着時の注意点,前歯部排列
Chapter 11 診療4日目:前歯部排列試適
Chapter 12 技工4回目:臼歯部排列位置の決定
Chapter 13 診療5日目:ろう義歯試適
Chapter 14 技工5回目:削合,重合,キャラクタライズ,研磨
Chapter 15 診療6日目:義歯装着
Chapter 16 診療7日目:調整,リコール
Chapter 17 術後:検査・評価

 Column
  1 簡易咬合採得について
  2 義歯に付与する咬合について
  3 治療用義歯について
  4 軟質裏装材について
  5 義歯洗浄剤と義歯安定剤について