やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 わが国は2007年に高齢化率(総人口に占める65歳以上の者の割合)が21%を超え,「超高齢社会」に突入し世界でも有数の長寿国となっている.一方,国民の口腔衛生に対する意識の高まり,そして歯科医療従事者の尽力もあり,高齢者の1人あたりの残存歯数は年々増加し,健康日本21で示された2010年までの目標である「8020達成者を20%以上に,6024達成者を50%以上にする」はすでに達成され,多くの高齢者に多くの歯が保存できたことになる.しかし,「平成28年歯科疾患実態調査」によると,4mm以上の歯周ポケットを有する者の割合は50歳以上では約半数を超えており,また60歳以降に急速に歯を失う傾向にあることから,口腔の健康を維持・増進させるためには,歯周病の予防と治療は不可欠と言っても過言ではない.また,歯周病は全身疾患と深く関わっていることが解明されつつあることから,歯周病の予防と治療を行うことは口腔だけでなく,全身の健康の維持・増進にもつながると確信している.
 歯周病の治療は,原因除去治療を主体とした歯周基本治療により,歯肉炎や軽度の歯周炎であれば健康を回復し,進行を停止することができる.しかし,中等度から重度の歯周炎,特に骨縁下欠損や根分岐部病変が認められる場合は歯周外科が必要となることが多く,わが国の現状を考えれば臨床家にとって必須の治療技術と言えるであろう.近年,歯周外科に関しては多くの治療法が紹介されており,なかには難易度が高くテクニックセンシティブなものもある.しかし,それら難易度の高い治療法を行う場合であっても,基本となる切開や縫合などが適切に行われなければ成功に導くことはできない.すなわち,基本技術の習得が必要不可欠である.
 そこで本別冊では,これまで歯周外科を行ってこなかった臨床家でも理解できるよう,術前の検査からメインテナンスまでを,図や写真を多く用い,一つひとつの技術を丁寧にわかりやすく解説した.また,歯周形成外科や歯周組織再生治療についても,豊富な症例ととも に術式や手順を解説し,基本技術から応用へと発展できるような構成となっている.本別冊を活用され,先生方の臨床を向上させるために,忘れてならないことは,歯周病の検査・診断,治療計画の立案,患者へのモチベーション,歯周基本治療,再評価があってこその歯周外科であり,その後,咬合・審美性の回復,メインテナンスへと進めることである.この基本を踏まえ,良質な歯周治療を行うことを通じて,口腔の健康のみならず全身の健康の維持,増進に寄与することを切に願っている.
 2017年11月
 和泉雄一
 序
 目次
 編集・執筆者一覧
Chapter1 歯周外科治療の基本概念および環境準備
 1.歯周外科の概要(和泉雄一・秋月達也)
 2−1.歯周治療における歯周外科の立ち位置(前川祥吾)
 2−2.適応症,禁忌症および避けたほうがよい症例と患者(菊池重成)
 2−3.歯周外科の成功のために術者が満たすべきこと(菊池重成)
 3.歯周外科で用いる器具・器材(井川貴博・矢野孝星・水谷幸嗣)
 COLUMN 歯周外科のマイクロサージェリー用器具(水谷幸嗣)
Chapter2 歯周外科手術の基本テクニック
 1.術前に行う必須検査・推奨検査(松浦孝典)
 2.歯周外科当日の術前準備と浸潤麻酔(伊藤幹太)
 3.メスの使い方から切開線のデザインまで(竹内康雄・芝 多佳彦)
 4.剥離・翻転・切離の手順・実際・注意事項(秋月達也)
 5.デブライドメントの知識・臨床・注意点(青木 章・谷口陽一)
 COLUMN デブライドメントにおけるEr:YAGレーザーの使用方法および利点(青木 章・谷口陽一)
 6.骨整形の必要性診断および方法(水谷幸嗣・武田浩平・城戸大輔・三上理沙子)
 7.歯周外科手術における縫合(池田裕一)
 8.術後の注意点・対応・経過観察(佐々木直樹・片桐さやか)
 9.歯周外科後のメインテナンス(小林宏明)
 10−1.歯周組織再生療法とは(和泉雄一・秋月達也)
 10−2.骨移植(小野 彌)
 10−3.GTR(小田 茂・秋月達也)
 10−4.エナメルマトリックスデリバティブ(EMD:エムドゲイン(R))(秋月達也)
 10−5.塩基性線維芽細胞成長因子(rhFGF−2:リグロス(R))(丸山起一)
 10−6.再生療法におけるフラップデザイン(長谷川嘉昭)
 11−1.歯周形成手術の種類(小田 茂・秋月達也)
 11−2.遊離歯肉移植術(菊池重成)
 11−3.結合組織移植術(星 嵩・秋月達也)
 11−4.歯冠長延長術(水谷幸嗣・三上理沙子)
Chapter3 Case Presentation
 広汎型侵襲性歯周炎にフラップ手術を行った一症例(佐藤博紀)
 遠心II度根分岐部病変を有する歯に歯周組織再生療法を行った一症例(永田 瑞)
Chapter4 歯周外科治療におけるQ&A
 1.C.D.E.実習コース「歯周治療,切った貼ったも必要だ!」 受講生からの質問および回答(峯岸大造・妻沼有香)
 2.オペカンファレンス よくある質問および回答(菊池重成)