やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 日常の歯科臨床に局所麻酔が必要不可欠なことは論をまちません.わが国で1年間に使用されている局所麻酔薬カートリッジが約6,000万本といわれていることからも,頻繁に行われている医療行為といえます.
 一方,麻酔は処置に伴う痛みを一時的に止めるのが目的で,歯科を受療して利益を受ける患者にとっては,手段にすぎません.たとえば,インプラントを埋入するための浸潤麻酔,抜髄をするための伝達麻酔,抜歯をするための歯根膜内麻酔であり,麻酔自体が患者に利益をもたらすわけではないのです.したがって,患者・医療者両サイドともに,麻酔についてはあまり関心をもっていないのが現状でしょう.
 しかし,麻酔なしには歯科医療が成立しないこともまた事実であり,そのために筆者のような麻酔を専門にしている医療者が存在し,全国29歯科大学・歯学部に麻酔を専門とする診療科・講座が設置されています.私どもは安全で確実な局所麻酔薬や局所麻酔法を教育・研究するのが大きな業務の一つですが,実際に局所麻酔注射を行っているのは,われわれ歯科麻酔を専門にする者よりも一般歯科医師あるいは各診療科の専門医です.
 そこで,『歯界展望』2013年3,4月号(121巻3,4号)には,歯科処置をする際にどのような局所麻酔の工夫をすればトラブルに陥らないかを,各分野に特化して診療をされている先生方にご寄稿いただき,一般歯科医師が使える手法を紹介しました.2号にわたる特集に対して,幸いなことに,読者諸氏から「通り一遍の教科書的な内容ではなく,臨床的なヒントを得られた」との高い評価を得ることができました.そこで,各分野の専門家4名の泰斗に加え,保存・補綴領域の専門家,小児歯科を専門とする先達の計6名に依頼して,現在の歯科治療時にどのような局所麻酔を行っているのか,行うべきかを実践的に論じていただき,別冊として提供することを企画しました.さらに,局所麻酔薬とその機器材,局所麻酔に関連する局所的ならびに全身的な偶発症について解説を加えることとしました.
 実践的な内容を目指したので,それぞれの処置を始める直前に各専門家の方法を本書で眺めてから開始すれば,患者には痛くなく確実な局所麻酔が行えると期待できます.
 2014年10月
 深山治久
 はじめに(深山治久)

第1章 局所麻酔法の基本
 (深山治久)
 局所麻酔を始める前に
 表面麻酔は必要か
 良い器材があるか
 薬剤はどれを使うか
 薬剤を調整して使う
第2章 処置別のポイント
 歯内療法(澤田則宏)
 歯周治療(伊藤幹太)
 抜歯(山本英雄)
 インプラント(黒田真司)
 保存・補綴(加藤正治)
 小児(三輪全三)
第3章 トラブルとその対処
 (深山治久)
 局所麻酔に起因する局所のトラブル
 局所麻酔に起因する全身のトラブル
 おわりに(深山治久)

 索引