やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 ここに,「Q&A歯科のくすりがわかる本2008」をお送りいたします.2003年度に前刊が発行されてから,早くも5年の歳月が流れました.
 この間,たとえば抗菌薬の領域では,新たな抗菌薬の発売は限られ,画期的で斬新な製剤の導入はほとんどされていないという事実があります.そして,MRSA,VRE(バンコマイシン耐性腸球菌),あるいは多剤耐性緑膿菌などが病院感染の起因菌としてマスコミをにぎわせており,これらの細菌の出現には,抗菌薬の使用量や使用法との関係が疑われています.
 これまで,化学療法に関わる者は,数多くの新薬の情報をいかに整理して,的確に臨床医に伝えるかが使命とされていました.しかし現在では,いかにして既存の抗菌薬をうまく使用するのか,その使用の実際を伝えることがたいへん重要になってきています.つまり,臨床医一人ひとりの薬の使い方が問われているのです.
 以前から,日本での抗菌薬の使用には,「必要のない症例に使われることが多く,いざ使用される際には投与量がわずかで,十分な効果が得られていない」との指摘がなされています.その理由として,日本人の薬好きや,処方する側の安易な妥協や思い込み,漠然とした不安,責任の回避など,さまざまな要因があげられるでしょう.また,薬の適応外使用がなされることも散見されます.
 薬物療法に関しては,どのような薬物であれ,またいずれの投与法が選択されるにしても,必ず理論的なバックグラウンドがなければなりません.薬物自体にはそれぞれの攻撃点(受容体)があり,その効果には薬物の濃度や吸収,解毒,排泄が関与しています.さらに,飲み合わせ,副作用まで考慮すると,かなり複雑な方程式になる場合があります.これらの点を意識して薬物投与を行うか否かで,その臨床医の力量が判断されるといえるでしょう.
 しかし実際には,薬物の性質等を深く調べて納得するのは時間的にも制約があり,不可能なこともわかります.
 本別冊は,さまざまな素朴な疑問に対して簡潔に回答するという前刊からのスタイルを踏襲しています.そしてその内容には,必ず筆者のメッセージがこめられています.それぞれの臨床現場で,薬物に関する疑問が生じた際に本別冊を紐解くことで,薬物投与の理論的背景や周辺知識を整理し,実際の投与に自信をもってあたっていただければと思います.
 本別冊が,読者の皆様のお役に立つことを期待しています.限られた誌面ではすべての事項に触れることはできませんが,積み残した課題も含めて,忌憚のないご意見をいただければ幸いです.
 2007年10月 編者代表 坂本春生
 はじめに
 編者・執筆者一覧
第1章 いまこれだけは知っておこう!くすりの基礎知識と最新トピックス
 Q1 改正医療法でくすりの扱いはどのように変わったのですか?(一戸達也)
 Q2 くすりの適応外使用とは何ですか?(一戸達也)
 Q3 口腔領域に症状を現すくすりにはどのようなものがありますか?(一戸達也)
 Q4 薬剤による重篤な副作用とその治療にはどのようなものがありますか?(諏訪部寿子・川久保 洋)
 Q5 くすりの副作用,有害作用はどのようにして起こるのですか?(山根 明)
 Q6 くすりの相互作用はどのようにして起こるのですか?(山根 明)
 Q7 薬疹の診断(見分け方)はどのようにしますか?(諏訪部寿子・川久保 洋)
 Q8 歯科で漢方薬が有効なケースは?(笠原正貴)
第2章 抗菌薬 知識の整理と使用上のポイント
 Q1 抗菌薬が効果を現すためにはどのような条件が必要ですか?(坂本春生)
 Q2 抗菌薬はどれを使っても大きな違いがないという意見について,どう考えたらよいのでしょうか?(坂本春生)
 Q3 抗菌薬の分類はどのように考えたらわかりやすいのでしょうか?(坂本春生)
 Q4 抗菌薬投与の実際はどうしたらよいのでしょうか?(坂本春生)
 Q5 細菌の抗菌薬に対する耐性化とはどういうことですか?(坂本春生)
 Q6 熱型と抗菌薬使用について教えてください(坂本春生)
 Q7 抗菌薬の投与と耐性化には関係があるのですか?(坂本春生)
 Q8 経口投与と注射とでは何が違うのでしょうか?(坂本春生)
 Q9 下顎骨骨髄炎への抗菌薬投与について教えてください(坂本春生)
 Q10 外科手術時の抗菌薬投与の原則について教えてください(坂本春生)
 Q11 菌血症と抗菌薬投与について教えてください(坂本春生)
 Q12 PK/PD理論とは何ですか?(坂本春生)
 Q13 心内膜炎の予防的抗菌薬投与について教えてください(坂本春生)
 Q14 人工透析中の患者にも抗菌薬は投与できますか?(潮 るな)
 Q15 妊婦へ安全に投与できる抗菌薬はありますか?(相澤聡一)
 Q16 高齢者の抗菌薬投与ではどのようなことに気を付ければよいのですか?(潮 るな)
第3章 鎮痛薬 知識の整理と使用上のポイント
 Q1 鎮痛作用を現すくすりにはどのようなものがありますか?(一戸達也)
 Q2 歯科適応のあるNSAIDsにはどのようなものがありますか?(一戸達也)
 Q3 NSAIDsの副作用にはどのようなものがありますか?(一戸達也)
 Q4 NSAIDsと他の薬物との相互作用にはどのようなものがありますか?(一戸達也)
 Q5 小児・妊婦・高齢者への鎮痛薬の投与はどうすればよいですか?(一戸達也)
 Q6 先制鎮痛法とは何ですか?(一戸達也)
 Q7 治療が難しいと言われる神経因性疼痛とは何ですか?(一戸達也)
 Q8 筋性歯痛とは何ですか?筋性歯痛に有効なくすりにはどのようなものがありますか?(一戸達也)
 Q9 舌痛症に有効なくすりにはどのようなものがありますか?(笠原正貴・一戸達也)
 Q10 アスピリン喘息とは何ですか?(一戸達也)
第4章 局所麻酔薬 知識の整理と使用上のポイント
 Q1 表面麻酔用製剤や注射用製剤はどのように使い分ければよいですか?(一戸達也)
 
 Q2 局所麻酔薬に添加されている血管収縮薬にはどのような違いがありますか?(一戸達也)
 Q3 局所麻酔薬カートリッジの取り扱い上の注意点は何ですか?(一戸達也)
 Q4 添付文書に書いてある「原則禁忌」とは何ですか?(一戸達也)
 Q5 小児・妊婦・高齢者への局所麻酔薬の投与はどうすればよいですか?(一戸達也)
 Q6 局所麻酔が効かない患者への対応はどうすればよいですか?(一戸達也)
 Q7 局所麻酔薬アレルギーの患者への対応はどうすればよいですか?(一戸達也)
 Q8 インプラント手術に有用な局所麻酔薬はありますか?(一戸達也)
 Q9 上昇性歯髄炎の抜髄はなぜ局所麻酔が効きにくいのですか?(一戸達也)
 Q10 局所麻酔後の刺入点部潰瘍は局所麻酔薬が原因ですか?(一戸達也)
第5章 歯科臨床で汎用する薬剤
 インプラント
  Q1 全身的な疾患による常用薬でインプラント治療に影響を与える薬剤はありますか?(矢島安朝)
  Q2 ソケットリフト予定部位に上顎洞粘膜の肥厚がみられます.これを改善し,インプラント埋入を可能にするためにはどのような抗菌薬がよいですか?(矢島安朝)
  Q3 インプラント埋入手術後,術後感染予防の目的で使用する含嗽剤は何がよいでしょうか?(矢島安朝)
  Q4 インプラント埋入後,オトガイ神経領域の皮膚に知覚麻痺が出現しました.どのような投薬が必要でしょうか?(矢島安朝)
 口腔乾燥症
  Q1 口腔乾燥症に使用できる内服薬にはどのようなものがありますか?(長島弘征・中川洋一)
  Q2 口腔乾燥を引き起こす薬剤はどれくらいありますか?(長島弘征・中川洋一)
  Q3 味覚障害の原因は何でしょうか?(山近重生・中川洋一)
  Q4 シェーグレン症候群の口腔乾燥にステロイド薬は使えますか?(山近重生・中川洋一)
  Q5 ドライマウスで「痛み」を訴えるときの対処は?(中川洋一)
 顎関節症
  Q1 顎関節部に痛みがある場合にはどのようなくすりを使いますか?(小林 馨・五十嵐千浪)
  Q2 筋肉に痛みがある場合にはどのようなくすりを使いますか?(五十嵐千浪・小林 馨)
  Q3 処方されたくすりが合わず服用を途中でやめてしまった場合,服用しても症状が改善されない場合はどうすればよいですか?(五十嵐千浪・小林 馨)
 3DS
  Q1 3DS(Dental Drug Delivery System)の除菌効果はどのくらい持続するのですか?またそれを規定する要素にはどのようなものがありますか?(武内博朗・戸田すま子・早川浩生・花田信弘)
  Q2 除菌に用いる薬剤にはどのようなものがありますか?また殺菌消毒薬を生体に用いるうえでの注意を教えてください(武内博朗・戸田すま子・早川浩生・花田信弘)
  Q3 3DSの物理的バイオフィルム除去,減量の方法と化学療法への移行時期を判定する要素を教えてください(武内博朗・戸田すま子・早川浩生・花田信弘)
  Q4 3DSのための細菌検査に関する注意事項と,除菌を行う基準値と除菌終了の判定基準を教えてください(武内博朗・戸田すま子・早川浩生・花田信弘)
  Q5 ドラッグ・リテーナーの正しい作製法と具備すべき条件を教えてください(武内博朗・戸田すま子・早川浩生・花田信弘)
 口腔粘膜病変
  Q1 扁平苔癬の治療はどのように考えたらよいでしょうか?(近藤壽郎)
  Q2 再発性アフタ(アフタ性口内炎)の治療法を教えてください(近藤壽郎)
 コラム
  くすりの正しい保管・管理方法(山根 明)
  歯周病治療における抗菌薬の位置について(坂本春生)
  アセトアミノフェンはほんとうに安全か?(山根 明)
  問診時にくすりに関して必要な項目(山根 明)

   主な歯科適応薬剤一覧(斎藤義夫)
   歯科で使用する主な漢方薬一覧(笠原正貴)
   薬剤名索引

   編集後記