やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 “顕微鏡歯科“とは聞き慣れない言葉だと思います.2004年12月,歯科治療における手術用顕微鏡*の有効性を広めることを目的に,日本顕微鏡歯科学会が発足しました.それと同時に,われわれ学会員は,手術用顕微鏡下で行われる歯科治療を“顕微鏡歯科”と呼ぶことを提案いたしました.
 約10年前,根管治療から始まった手術用顕微鏡の歯科治療への応用は,当時の日本歯科界から“拒絶”とも言える反応を受けました.その有効性を議論する前に,手術用顕微鏡の価格と保険診療報酬の格差ばかりがクローズアップされ,手術用顕微鏡を使った根管治療など趣味の治療だと揶揄されたものでした.
 もし,手術用顕微鏡を使用する治療が“Hobby“ならば,手探りやカンに頼っていた治療は“Joke”でしかありません.なぜならば,われわれは見えないものは治療できないからです.
 確かな数字ではありませんが,手術用顕微鏡を使用している日本の歯科医は,まだ1%未満だと言われています.しかし,手術用顕微鏡の販売台数は毎年約20%ずつ増えてきているとのことです.今後も保険診療報酬に顕微鏡加算など期待できないにもかかわらず,着実に普及してきているのはなぜでしょうか.さらにその応用も修復,補綴,歯周治療など,ほとんどの歯科治療に広がりつつあるのはなぜでしょうか.これは,拡大視することが“治療の質”を向上するために必須であることに,われわれ歯科医が気づいたからにほかなりません.
 誤解があるかと思いますが,手術用顕微鏡は難しい処置のためだけに必要なのではありません.基本的な治療にこそ使用し,その精度を上げることで再治療を減らすことは,真のMI(Minimal Intervention)としてわれわれが目指すところではないでしょうか.
 本別冊は,手術用顕微鏡に興味をおもちにもかかわらず,いまだ導入に踏み切れない皆様に顕微鏡歯科の必要性を理解していただき,失敗なく導入していただくことを目標にしています.
 顕微鏡の倍率を1stepずつ上げていくように,皆様の顕微鏡歯科に対するご理解もStep upしていくことを期待してやみません.
 2006年4月
 編者 井澤常泰
 日本顕微鏡歯科学会副会長/東京都渋谷区開業
 *マイクロスコープ,実体顕微鏡等さまざまな名称が用いられていますが,本別冊では,手術用顕微鏡あるいは略して顕微鏡という名称を用います.
 はじめに(井澤常泰)
 目次
 執筆者一覧
Step1 自分の臨床を見直そう(井澤常泰)
 本当に顕微鏡下で行う必要があるの?
 見えなかったことが原因で起こるトラブル
 見えなかったことで気づかなかったこと
 見えたら何が変わるのか
 卒後2年の私でも,見えればここまでできる!(藤井 直)
Step2 手術用顕微鏡を使おう(井澤常泰)
 手術用顕微鏡に本当に必要な条件
 トレーニングの必要性
 手術用顕微鏡による医院の経済的効果は?
 手術用顕微鏡がホコリを被っていませんか
Step3 周辺機器を充実させよう(井澤常泰)
 治療を記録する目的
 記録装置の種類と条件
 顕微鏡の記録装置を用いたマーケティングの発想
Step4 簡単な処置から始めよう(井澤常泰 三橋 純)
 口腔内を見せるには
 処置の確認
 顕微鏡下で歯を削るには
 顕微鏡下で歯を形成するには
Step5 高度な処置とプレゼンテーションを目指して
 根管治療における顕微鏡の活用
  1.外科的根管処置(井澤常泰)
  2.根管内破折器具の除去(寺内吉継)
  3.歯根破折の診断(吉岡隆知 花田隆周 川村洋子 興津茂登子)
  4.外科的歯内療法中に歯根破折を診断した症例(川村洋子 吉岡隆知 須田英明)
 修復処置における顕微鏡の活用(三橋 純)
 補綴治療における顕微鏡の活用(佐藤政志)
 歯周外科における顕微鏡の活用(秋山勝彦)
 インプラント治療における顕微鏡の活用(松本和久)
Q&A(井澤常泰 三橋 純)
 Q1 手術用顕微鏡の扱いに慣れるのにはどのくらいの期間が必要ですか?
 Q2 手術用顕微鏡を購入した後の維持費はどのくらいかかりますか?
 Q3 現在,手術用顕微鏡は何種類くらい入手可能なのですか?
  現在入手可能な手術用顕微鏡一覧
 Q4 治療中,手術用顕微鏡を汚染させない方法は?
 Q5 対物レンズの選択は?
 Q6 絞りはどのように使うのですか?
 Q7 手術用顕微鏡下で歯を切削する場合,対物レンズをどのように保護するのですか?
 Q8 上顎大臼歯のいわゆる第4根管を見逃すことは根管治療の予後に大きな影響があるのでしょうか?
 Q9 根尖切除手術において効果的な止血方法は?
トピックス アメリカの歯科治療における手術用顕微鏡事情(石井 宏)
 1 手術用顕微鏡の歯内療法領域での位置づけ
 2 アメリカでの根管治療費
 3 破折ファイル除去について
付録DVD
 根管処置(井澤常泰)
 破折ファイル除去(寺内吉継)
 修復処置(三橋 純)

 編集後記