エリツィン・ロシア共和国大統領の晩餐会でのスピーチを聞きながら，冷戦構造が終わり，経済や人々の意識が，国境を越えて世界的レベルで大きく変わっていきつつあることを実感しています．そして生産者重視から生活者・消費者重視へと時代の視点が変わっていくなかで，歯科医療もまた，患者を中心とする新しい展開が急がれています．この展開においては，純粋に歯科医学的な疾患や病的状態を改善，治癒させること以外に，患者の抱える心理的問題や社会的問題をも解決することを迫られています．この患者中心主義のなかでは，「歯科医療の質」が大きな議論のテーマとなり，現在多くの人々の関心が高まっている口腔インプラントに関しても，実はこの議論の延長上に位置するものと考えられます．
インプラントに的を絞った場合，現在では必然的に「オッセオインテグレーション」にいきつきます．1977年にスウェーデン・イエテボリ大学の P.I．Braonemark教授の提唱したオッセオインテグレーションは，長期間の科学的実証に裏づけられた，予知性の高いインプラントと骨組織とのかかわりであると理解され，このような骨内支持構造を有する各種のオッセオインテグレーテッドインプラントが，現時点では最も確実で成功が予測できるものであると，先進国の多くの研究者・臨床家の間では認識が一致しています．
今回，私たちは，オッセオインテグレーテッドインプラントを特集のテーマとして取り上げ，現在までに行われた科学的データにできるだけ基づいた「インプラントに関する基礎知識」や「基本的な臨床術式」「比較的長期の予後」「トラブルとその対応」，さらには「将来の可能性」などについてまとめることにし，また，この際，単なる臨床経験は率直にその旨を付記することとしました．さらに，読者の理解を深める意味で付録としていくつかのよく用いられているインプラントの構成も示してみました．
これらの作業の結果は，現時点の口腔インプラントの研究と臨床の実際を照らし出すことになり，いくつかの領域ではいまだに，必ずしも十分に解明されていない事柄が山積みされていることも明らかになりましたし，例えば，用語1つをとってみても，見解の統一ができていないことにも気がついています．もとより，私たちにこれらを総括できる能力はなく，学会や会議などにより，きちんと整理されることを望むものであります．しかしながら，現在の研究と臨床を強い先入観なしに率直にまとめることにより，いくつかの問題点が浮き彫りにされ，また次の検討すべきテーマがはっきりしたことと思われます．
本書の企画に深い理解や賛意を示され，大変お忙しい中快くご執筆を引き受けていただきました各執筆者の先生方に厚くお礼を申し上げるしだいです．「柔らかな企画」でまとめられた本書が，インプラントに多大な関心をもっておられる歯科医師や学部・大学院学生，コデンタルスタッフの方々には，より深い理解と診断・治療能力を身につけられるための手助けになることを期待するものです．また，現時点でインプラントに疑問をもたれている人々が少なからずいらっしゃると思いますが，できる限り多面的に本インプラントについて論じていただいたつもりですので，この種のインプラントについての現状を把握する一助となると思います．さらに，本書により，「医療の質」とインプラントとのかかわりに対する本格的な議論がスタートすることを願うものであります．
1993年10月12日
インプラントに的を絞った場合，現在では必然的に「オッセオインテグレーション」にいきつきます．1977年にスウェーデン・イエテボリ大学の P.I．Braonemark教授の提唱したオッセオインテグレーションは，長期間の科学的実証に裏づけられた，予知性の高いインプラントと骨組織とのかかわりであると理解され，このような骨内支持構造を有する各種のオッセオインテグレーテッドインプラントが，現時点では最も確実で成功が予測できるものであると，先進国の多くの研究者・臨床家の間では認識が一致しています．
今回，私たちは，オッセオインテグレーテッドインプラントを特集のテーマとして取り上げ，現在までに行われた科学的データにできるだけ基づいた「インプラントに関する基礎知識」や「基本的な臨床術式」「比較的長期の予後」「トラブルとその対応」，さらには「将来の可能性」などについてまとめることにし，また，この際，単なる臨床経験は率直にその旨を付記することとしました．さらに，読者の理解を深める意味で付録としていくつかのよく用いられているインプラントの構成も示してみました．
これらの作業の結果は，現時点の口腔インプラントの研究と臨床の実際を照らし出すことになり，いくつかの領域ではいまだに，必ずしも十分に解明されていない事柄が山積みされていることも明らかになりましたし，例えば，用語1つをとってみても，見解の統一ができていないことにも気がついています．もとより，私たちにこれらを総括できる能力はなく，学会や会議などにより，きちんと整理されることを望むものであります．しかしながら，現在の研究と臨床を強い先入観なしに率直にまとめることにより，いくつかの問題点が浮き彫りにされ，また次の検討すべきテーマがはっきりしたことと思われます．
本書の企画に深い理解や賛意を示され，大変お忙しい中快くご執筆を引き受けていただきました各執筆者の先生方に厚くお礼を申し上げるしだいです．「柔らかな企画」でまとめられた本書が，インプラントに多大な関心をもっておられる歯科医師や学部・大学院学生，コデンタルスタッフの方々には，より深い理解と診断・治療能力を身につけられるための手助けになることを期待するものです．また，現時点でインプラントに疑問をもたれている人々が少なからずいらっしゃると思いますが，できる限り多面的に本インプラントについて論じていただいたつもりですので，この種のインプラントについての現状を把握する一助となると思います．さらに，本書により，「医療の質」とインプラントとのかかわりに対する本格的な議論がスタートすることを願うものであります．
1993年10月12日
序
執筆者一覧
1 インプラントの必然性
生物学的にみたインプラント 高田 隆・二階宏昌
機能面からみたオッセオインテグレーテッドインプラント 赤川安正・相良正明・橋本正毅
患者ニーズからみたインプラント 赤川安正・石岡静香・橋本正毅
2 オッセオインテグレーションとは
オッセオインテグレーションの概念と評価 井上 孝・下野正基
オッセオインテグレーテッドインプラントの生物学的考察～病理学からみた考察～ 井上 孝・下野正基
オッセオインテグレーテッドインプラントにおけるオッセオインテグレーションの力学的考察 関根 弘・吉田浩一
3 診査・診断の要点
オッセオインテグレーテッドインプラント治療における全身的診査・診断 野村 篤・高森 等
オッセオインテグレーテッドインプラント治療における骨のX線診査・診断 代居 敬・高森 等
オッセオインテグレーテッドインプラント治療における歯周・軟組織の診査・診断 仲谷 寛・佐藤 聡
オッセオインテグレーテッドインプラント治療における補綴処置のための診査・診断 赤川安正・和田本昌良・橋本正毅
オッセオインテグレーテッドインプラント治療におけるインフォームドコンセント 亀沢広嗣・高森 等
4 臨床応用の基本
オッセオインテグレーテッドインプラント治療における基本的な治療の流れ 中村社綱
オッセオインテグレーテッドインプラント治療における補綴設計の基本 赤川安正・久保隆靖・橋本正毅
オッセオインテグレーテッドインプラント治療における外科手技の基本～外科手技の基礎～ 野村 篤・高森 等
オッセオインテグレーテッドインプラント治療における外科手技の基本～1回法の外科手技について～ 中村社綱
オッセオインテグレーテッドインプラント治療における外科手技の基本～2回法の外科手技について～ 中村社綱
オッセオインテグレーテッドインプラント治療における上部構造の基本 小宮山彌太郎
オッセオインテグレーテッドインプラント治療におけるメンテナンスの基本的な考え方 仲谷 寛・佐藤 聡・大谷和男
5 臨床応用の実際
無歯顎者に対するブローネマルクインプラントの臨床応用～フルアンカードブリッジの場合～ 平賀 泰・渡辺嘉一
骨吸収の著しい無歯顎者に対してオッセオインテグレーテッドインプラントを応用した症例～バーシステムによるオーバーデンチャー～ 添島義和
オッセオインテグレーテッドインプラントの部分欠損への応用～単独植立への応用～ 武田孝之・飯島俊一
オッセオインテグレーテッドインプラントの部分欠損への応用～天然歯と，あるいはインプラント同士を連結する場合～ 飯島俊一・武田孝之
6 トラブルとその対応
オッセオインテグレーテッドインプラント治療におけるトラブルとその対応 ～フィクスチャー埋入手術から上部構造装着まで～ 高森 等・野村 篤・代居 敬
オッセオインテグレーテッドインプラント治療におけるトラブルとその対応 ～上部構造装着以降のトラブルとその対応～ 大谷和男・亀沢広嗣・渡辺嘉一・仲谷 寛・佐藤 聡・平賀 泰
7 長期臨床例
ITIインプラントを応用した咬合再構成とその長期症例についての検討 添島義和
IMZインプラント応用例その5年間の評価 渡辺文彦
ブローネマルクインプラントシステムによる長期臨床例 関根 弘・吉田浩一
8 確実性向上・適応拡大に向けて
オッセオインテグレーテッドインプラント治療における GBR法の応用 中村社綱
オッセオインテグレーテッドインプラント治療への骨移植の応用～上顎への応用について～ 藤 力
ブローネマルクインプラントを用いて咬合回復を行った下顎骨切除症例 香月 武・後藤昌昭・中西勇一
インプラント治療に付随する軟組織処置 坪井陽一・飯塚忠彦
オッセオインテグレーテッドインプラントの顎顔面補綴への応用 上田 実
BMPなどのサイトカインと硬組織再建 久保木芳徳
Appendix ブローネマルクインプラントの構成/ITIインプラントの構成/IMZインプラントの構成
執筆者一覧
1 インプラントの必然性
生物学的にみたインプラント 高田 隆・二階宏昌
機能面からみたオッセオインテグレーテッドインプラント 赤川安正・相良正明・橋本正毅
患者ニーズからみたインプラント 赤川安正・石岡静香・橋本正毅
2 オッセオインテグレーションとは
オッセオインテグレーションの概念と評価 井上 孝・下野正基
オッセオインテグレーテッドインプラントの生物学的考察～病理学からみた考察～ 井上 孝・下野正基
オッセオインテグレーテッドインプラントにおけるオッセオインテグレーションの力学的考察 関根 弘・吉田浩一
3 診査・診断の要点
オッセオインテグレーテッドインプラント治療における全身的診査・診断 野村 篤・高森 等
オッセオインテグレーテッドインプラント治療における骨のX線診査・診断 代居 敬・高森 等
オッセオインテグレーテッドインプラント治療における歯周・軟組織の診査・診断 仲谷 寛・佐藤 聡
オッセオインテグレーテッドインプラント治療における補綴処置のための診査・診断 赤川安正・和田本昌良・橋本正毅
オッセオインテグレーテッドインプラント治療におけるインフォームドコンセント 亀沢広嗣・高森 等
4 臨床応用の基本
オッセオインテグレーテッドインプラント治療における基本的な治療の流れ 中村社綱
オッセオインテグレーテッドインプラント治療における補綴設計の基本 赤川安正・久保隆靖・橋本正毅
オッセオインテグレーテッドインプラント治療における外科手技の基本～外科手技の基礎～ 野村 篤・高森 等
オッセオインテグレーテッドインプラント治療における外科手技の基本～1回法の外科手技について～ 中村社綱
オッセオインテグレーテッドインプラント治療における外科手技の基本～2回法の外科手技について～ 中村社綱
オッセオインテグレーテッドインプラント治療における上部構造の基本 小宮山彌太郎
オッセオインテグレーテッドインプラント治療におけるメンテナンスの基本的な考え方 仲谷 寛・佐藤 聡・大谷和男
5 臨床応用の実際
無歯顎者に対するブローネマルクインプラントの臨床応用～フルアンカードブリッジの場合～ 平賀 泰・渡辺嘉一
骨吸収の著しい無歯顎者に対してオッセオインテグレーテッドインプラントを応用した症例～バーシステムによるオーバーデンチャー～ 添島義和
オッセオインテグレーテッドインプラントの部分欠損への応用～単独植立への応用～ 武田孝之・飯島俊一
オッセオインテグレーテッドインプラントの部分欠損への応用～天然歯と，あるいはインプラント同士を連結する場合～ 飯島俊一・武田孝之
6 トラブルとその対応
オッセオインテグレーテッドインプラント治療におけるトラブルとその対応 ～フィクスチャー埋入手術から上部構造装着まで～ 高森 等・野村 篤・代居 敬
オッセオインテグレーテッドインプラント治療におけるトラブルとその対応 ～上部構造装着以降のトラブルとその対応～ 大谷和男・亀沢広嗣・渡辺嘉一・仲谷 寛・佐藤 聡・平賀 泰
7 長期臨床例
ITIインプラントを応用した咬合再構成とその長期症例についての検討 添島義和
IMZインプラント応用例その5年間の評価 渡辺文彦
ブローネマルクインプラントシステムによる長期臨床例 関根 弘・吉田浩一
8 確実性向上・適応拡大に向けて
オッセオインテグレーテッドインプラント治療における GBR法の応用 中村社綱
オッセオインテグレーテッドインプラント治療への骨移植の応用～上顎への応用について～ 藤 力
ブローネマルクインプラントを用いて咬合回復を行った下顎骨切除症例 香月 武・後藤昌昭・中西勇一
インプラント治療に付随する軟組織処置 坪井陽一・飯塚忠彦
オッセオインテグレーテッドインプラントの顎顔面補綴への応用 上田 実
BMPなどのサイトカインと硬組織再建 久保木芳徳
Appendix ブローネマルクインプラントの構成/ITIインプラントの構成/IMZインプラントの構成