やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

監修のことば
 新しい本ができました.「皮膚・軟部腫瘤の超音波アトラス」北川君指揮の天理よろづ相談所病院臨床検査部の超音波検査に関わられる方の努力の賜物です.超音波画像と皮膚写真,さらに病理像と,これだけの症例を1施設でよくぞここまで用意されました.日々の検査で常に高いレベルで仕事をされている証です.
 超音波エキスパートは,2004年にはじめて発刊され,すでに20年近い歴史のなかで20冊が出版され,超音波テキストにおいて広く支持されているシリーズです.他の臨床検査の専門書をみても類をみない冊数であり,いかに超音波検査が広い領域に普及しているかを証明しています.私自身は,光栄なことに現在のところ通算4冊担当させていただいています.“超音波エキスパート”が興味深いのは,テーマごとに作り手の思いが込められていて,本ごとにまったく体裁が異なっているにもかかわらず,高い企画力,編集力と相まって,どれもすばらしい本となっているところにあります.
 私をご存じの方は,佐藤といえば“血管の人”なぜにこの本の監修?と思われるでしょう.この本にまつわるエピソードをお話します.奈良県天理市出身の私にとって北川君は,2014年に閉校となった天理医学技術学校の6年後輩になります.2019年9月,北川君より依頼をうけて天理よろづ相談所病院にて奈良県臨床検査技師会の生理研究班での講演を行い,その後の意見交換会の席で,「佐藤さん,検査で撮りためた皮膚や軟部腫瘍のエコー症例集,本にしたいんです」と,とても熱意感じる相談を受けました.後日サンプルを拝見したところ,とても完成度が高く,これは多くのエコーに関わる人に参考になると直感しました.そこで四半世紀前からお世話になる医歯薬出版の編集担当者に連絡し相談したものが,2年半あまりの時間をかけてついに1冊にまとまりました.
 症例集のような企画では,全編を同じトーンで仕上げた方が,読み手側はわかりやすいものです.執筆陣が多施設に及ぶ場合にはこの作業で苦労することが多いのですが,本書はすべて天理よろづ相談所病院の症例で,北川君の意思が他のスタッフに明確に伝わっていることがよくわかります.
 “皮下にある何か腫れたもの“は見た目でその存在はわかりますし,その部位に探触子を置けば,“腫れたもの”が容易に映像化されるのですが,多くの病態があるために,鑑別には経験値が必要です.本書により,その膨大な経験値を短時間で習得することが可能になることでしょう.
 最終校を読みながら
 2022年4月
 関西電力病院 臨床検査部技師長
 佐藤 洋



 皮膚・軟部腫瘤の超音波検査は,検査室だけでなく外来診療の場でも広く行われています.腫瘤の大きさ・存在部位,周囲血管との関係を評価することで手術や生検時の情報として有用であり,内部の性状を評価することで嚢胞性腫瘤か充実性腫瘤かの鑑別が可能となります.さらに,悪性腫瘍では腫瘤の境界部の観察により浸潤範囲の評価が可能となります.
 本書では,日常よく遭遇する皮膚・軟部腫瘤の疾患だけでなく,まれな疾患も取りあげました.超音波の基礎知識,装置やプローブについての解説は最小限とし,超音波像をできるだけ多く,摘出標本や割面の画像も掲載したアトラスにしました.また,同じ診断名であっても多彩な超音波像を呈す腫瘤は,複数の画像を掲載しました.検査室や外来診療で,多くの方々に本書をみていただき検査の参考となることを執筆者全員こころより願っています.
 当院では超音波検査の中央化が進められ,現在も技術向上にさまざまな診療科の先生方のご協力をいただいております.なかでも,病理診断部の小橋陽一郎先生からは,超音波技師は病理像と超音波像を対比して超音波像が何を反映しているかをみた方がよいと常にご指導いただいており,いつか皮膚・軟部腫瘤の超音波と病理像のアトラスを作りたいと思っていました.十数年前に形成外科部長の義本裕次先生にアトラスについてご相談した際に構想が固まり,症例を収集するために,当日の検査枠を設け,初診患者にも積極的な超音波検査を行いました.皮膚科部長の田邉 洋先生には臨床画像の提供やアトラスの構成にご協力いただき,病理組織検査室の坂本真一主任技師には組織の摘出標本や割面,病理像の画像抽出にご協力いただきました.結果的に過去20年の手術症例1000例以上から,全症例数223例,超音波画像358枚と膨大な画像を掲載することができました.画像の抽出から編集は腹部超音波室のスタッフ全員で取り組みました.休日も返上し超音波画像のトリミング,ボディマークやスケールの挿入など,役割を分担し編集を行いました.1ページ1ページに全員が関わり,まさに一手一つ(いってひとつ:みんなの心を一つに合わせること.天理大学ラグビー部のスローガンでもある)に協力し完成した1冊となりました.
 本書を出版するにあたり,佐藤 洋先生(関西電力病院 臨床検査部)には大変感謝いたしております.先生にご相談したのは,確か2019年9月だったと思います.奈良県臨床検査技師会の講師として天理よろづ相談所病院に来てくださった際に,目次と症例のサンプルページをみていただき,その際には摘出標本や割面像をたくさん掲載したほうがいいとアドバイスをいただきました.“これはみんなの役に立つと思うよ”とおっしゃられ大変うれしく思ったのを覚えています.先生は私の出身校である天理医学技術学校の先輩で,学生時代から大変お世話になりました.
 最後に,発行にご協力いただきました医歯薬出版の関係者の皆様に深く感謝申し上げます.
 2022年4月
 北川孝道
I 皮膚・軟部腫瘤の超音波検査による評価
 1.皮膚の超音波像
 2.超音波検査の進め方
II 皮膚・軟部腫瘤超音波アトラス
 1.嚢胞性病変
  A 表皮嚢腫・粉瘤
  B 石灰化上皮腫
  C 外毛根鞘嚢腫
  D 皮膚皮様嚢腫
  E 毛巣嚢腫,毛巣洞
  F 霰粒腫
  G 正中頸嚢胞
  H ガングリオン
  I ベーカー嚢腫
 2.充実性病変
  A 脂肪腫
  B 平滑筋腫
  C 神経鞘腫
  D 傍神経節腫
  E 神経線維腫
  F 顆粒細胞腫
  G 皮膚線維腫
  H 弾性線維腫
  I 孤立性線維性腫瘍
  J 腱鞘巨細胞腫
  K 粘液腫
  L 汗腺腫
  M 過誤腫
  N グロームス腫瘍
  O 副乳
  P 副耳(軟骨母斑,副耳珠)
 3.血管病変
  A 静脈拡張,静脈血栓
  B 静脈性血管瘤
  C 動脈瘤
  D 巨細胞性動脈炎
  E 血管奇形
 4.リンパ節病変
 5.炎症性病変
  A 結節性筋膜炎
  B リウマチ結節
  C 肉芽腫
  D 脂肪織炎
  E 膿瘍
 6.悪性病変
  A 悪性軟部腫瘍(軟部肉腫)
  B 基底細胞癌
  C メルケル細胞癌
  D 転移性腫瘍
  E その他