やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 超音波検査の大きな利点の一つは,装置さえ目の前にあれば,すべての被検者にすみやかに検査を行うことができる点にあると思われる.例えばCT検査であれば,もし被検者が妊娠可能な年齢の女性であれば,まず妊娠の有無を確かめなければならないし,乳幼児や不穏状態の被検者では鎮静剤使用が必要なこともある.これはMRI検査の場合も同様であり,さらに閉所恐怖症で検査できない被検者も案外と多いものである.超音波検査ではそのような心配は全くなく,乳幼児であろうと,妊婦であろうと,すみやかに検査は可能であり,熟練した検者であればリアルタイムで診断が導かれることすらある.さらには装置の大きさがはるかに違う.CT,MRIでは被検者を検査台に移動させる必要があるが,超音波検査では被検者は動かさず,装置の方を移動することが容易にできる.最近ではポケットサイズの携帯型装置も多数の種類が普及しており,充電さえしておけばコードレスで在宅でも長時間の超音波検査が連続して行える.
 さてこのように長所・利点の多い超音波検査であるが,その最大の欠点は診断能が検者の技量に左右される点ではないだろうか.ある程度経験を積んだ検者が行えば,等しくある程度の所見が得られるような教育・指導が欠かせないのはいうまでもないが,特に泌尿器科領域では超音波専門医が全国的に少なく,所属する医療機関に泌尿器科医がいない施設も多いため,教育・指導を受けられる機会が少ないのが現状ではないだろうか?
 今まで残念ながら近くに適当な指導者がいなかったため,腎・泌尿器領域の超音波検査に消極的だった検査技師の方々にとって,基本的な知識やルーチンテクニックを少しでも提供でき,今まで以上に腎・泌尿器領域の超音波検査に積極的になっていただければ,編集者そして執筆者一同このうえない喜びです.
 2016年11月
 編者を代表して 千葉 裕
I.総論―知っておきたい基本的知識
 1.腎・泌尿器超音波検査が必要な背景(千葉 裕)
  1.腎・泌尿器領域が扱う臓器とその超音波特性
  2.腎・泌尿器領域での超音波検査の有用性
 2.腎・泌尿器の解剖(千葉 裕)
  1.副腎・腎の位置,大きさ,周囲臓器との関係
  2.腎の内部構造
  3.腎の脈管
  4.尿管の解剖と走行
  5.膀胱,前立腺の解剖
  6.男性尿道と陰茎
  7.女性尿道
  8.精巣および陰嚢内容の解剖
  9.後腹膜リンパ節
 3.腎・泌尿器超音波検査における基本走査(米山昌司)
  1.腎臓の観察
   1)右腎の右季肋部・側腹部走査
   2)左腎の左季肋部・側腹部走査
   3)背側走査
  2.膀胱の観察
  3.前立腺,精嚢の観察
   1)前立腺の観察
   2)精嚢の観察
 4.腎動脈超音波検査における基本走査(ドプラ検査の進め方)(三木 俊)
  1.解剖と生理
  2.腎動脈狭窄を疑う指標(病態・臨床所見)
  3.体位
  4.圧迫走査
  5.検査前の準備
  6.腎動脈超音波検査の測定項目
  7.実際の描出
  8.腎動脈起始部描出のポイント
  9.腎内動脈描出のポイント
  10.見落としをなくすコツ
II.各論―さらに一歩進めた検査をするために
 1.腎(齊藤弥穂)
  1 正常像
   1.正常Bモード像
    1)超音波像
    2)観察のコツ
   2.正常カラードプラ像
    1)超音波像
    2)観察のコツ
   3.正常変異
    1)ベルタン柱
    2)胎児性分葉
    3)ひとこぶらくだのこぶ
   4.主な腎奇形
    1)重複腎盂
    2)馬蹄腎
    3)位置異常
  2 腫瘤性病変
   1.充実性腫瘤
    1)腎細胞癌
    2)腎血管筋脂肪腫
    3)その他の充実性腎腫瘍
   2.嚢胞性腫瘤
    1)単純性腎嚢胞
    2)複雑腎嚢胞,嚢胞性腎細胞癌
    3)多発性嚢胞腎
  3 非腫瘍性病変
   1.石灰化病変
    1)腎結石
    2)腎石灰化症
   2.水腎症
   3.炎症性疾患
    1)急性腎盂腎炎
    2)急性巣状細菌性腎炎
    3)腎膿瘍
   4.血管性病変
    1)腎梗塞
    2)腎動脈瘤
    3)腎動静脈瘻
 2.尿管(河本敦夫)
  1.尿路結石症
   1)超音波像
   2)アーチファクト
   3)ピットフォール
   4)病変を見逃さないコツ
  2.尿路悪性腫瘍
   1)超音波像
   2)ピットフォール
   3)病変を見逃さないコツ
  3.先天性疾患
   1)腎盂尿管移行部狭窄症
   2)巨大尿管症
   3)膀胱尿管逆流
   4)重複腎盂尿管
  4.尿管外病変によるもの
   1)後腹膜線維症
   2)尿管子宮内膜症
   3)その他
 3.膀胱(皆川倫範)
  1.主要な疾患の超音波像
   1)膀胱癌
   2)膀胱結石
   3)神経因性膀胱─機能の検査─
   4)その他
  2.アーチファクト
  3.ピットフォール
  4.病変を見逃さないコツ─膀胱腫瘍の診断(死角をなくす工夫)─
 4.前立腺(皆川倫範)
  1.主要な疾患の超音波像
   1)前立腺肥大症
   2)前立腺癌
   3)その他の前立腺の所見
  2.アーチファクト
  3.ピットフォール
  4.病変を見逃さないコツ
 5.副腎(白石周一)
  1.位置
  2.解剖
  3.走査方法と正常像
   1)右副腎の走査方法
   2)左副腎の走査方法
   3)横隔膜脚と副腎の鑑別
  4.超音波検査における健常成人の副腎の描出率
  5.胎児期や新生児期の副腎の描出
  6.副腎疾患と超音波像
   1)良性腫瘍
   2)悪性腫瘍
   3)その他
 6.陰嚢内容(渡辺秀雄)
  1.陰嚢内容疾患特有の臨床症状を理解する
  2.陰嚢内容疾患特有の身体所見を理解する
  3.正常画像を理解する
  4.左右の陰嚢を比較する
   1)精巣腫瘍
   2)精索静脈瘤
   3)精巣上体炎
   4)精巣炎
   5)精巣捻転症
III.透析腎の検査を進めるうえでの注意点
 (尾上篤志)
 1.透析腎の臨床
  1)透析腎の経時的変化
  2)導入疾患によるエコー像の特徴
  3)腎嚢胞性疾患と診断
 2.透析腎癌と超音波診断
 3.透析腎癌と鑑別を要する疾患
  1)嚢胞内出血の鑑別
  2)腎血管筋脂肪腫の鑑別
  3)オンコサイトーマの鑑別
IV.症状を有する泌尿器領域の超音波検査
 (南里和秀)
 1.腹痛を呈する疾患
  1)腎結石,尿管結石
  2)水腎症
  3)腎梗塞
 2.発熱を呈する疾患
  1)腎盂腎炎
  2)気腫性腎盂腎炎
  3)膀胱尿管逆流症
 3.血尿を呈する疾患
  1)腎盂癌,尿管癌
  2)膀胱癌
  3)腎動静脈瘻
  4)ナットクラッカー現象
 4.排尿障害・尿量減少を呈する疾患
  1)急性腎障害
  2)膀胱炎
  3)神経因性膀胱
  4)膀胱憩室
  5)膀胱結石
  6)前立腺肥大
  7)前立腺炎
 5.その他の泌尿器疾患
  1)腎外傷
  2)腎血管性高血圧症
  3)陰嚢内疾患
 6.その他の骨盤内疾患
V.正しい診断のための知識
 1.腎・泌尿器疾患におけるCT,MRIの診かた(成田啓一・秋田大宇・陣崎雅弘)
  1.CT,MRIの特徴と適応
   1)CT
   2)MRI
  2.腎
   1)急性腎盂腎炎/腎膿瘍
   2)嚢胞性腎腫瘤
   3)傍腎盂嚢胞
   4)血管筋脂肪腫
   5)腎細胞癌
   6)後天性嚢胞腎
  3.尿管
   1)尿管結石
   2)尿管癌
  4.膀胱
   1)膀胱癌
   2)尿膜管疾患
  5.前立腺
   1)前立腺炎・前立腺膿瘍
   2)前立腺癌
 2.尿検査からみた腎・泌尿器疾患(宿谷賢一・下澤達雄)
  1.尿定性検査
  2.尿沈渣検査
  3.尿検査結果を読む
 3.血液生化学検査からみた腎・泌尿器疾患(手島太郎・久米春喜)
  1.炎症性疾患マーカー(WBC,CRP),Hb,血小板
   1)WBC
   2)CRP
   3)Hb
   4)血小板
  2.凝固
   1)APTT
   2)PT
  3.生化学
   1)Naと浸透圧
   2)Ca
   3)クレアチニン
   4)LD,ALP
   5)尿酸
  4.腫瘍マーカー
   1)PSA
   2)フェリチン
   3)AFP,hCG
  5.ホルモン関連
   1)レニン・アンジオテンシン・アルドステロン
   2)ACTHとコルチゾール
   3)DHEA-S