やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 消化管領域において,超音波検査が従来不向きとされてきたその最大の理由は,消化管内ガスの影響を直接に受けるため体外式走査法では十分な情報が得られないという点にあった.また,正常の消化管壁は薄く,診断装置の分解能の限界からもその対象となりにくい領域というのが従来の認識であった.しかし,実際に多くの症例を経験してみると,病的状態に陥った消化管はその病態により,浮腫や腸管内に液体貯留などが生じ,腸管内ガスは排除され,むしろ超音波検査に適した条件が揃うこととなる.これに加え,高分解能,高感度血流表示,ティッシュハーモニックイメージング(THI)など超音波診断装置の飛躍的な技術進歩により,病的に肥厚した消化管壁からスクリーニングとしての正常な薄い消化管壁まで詳細な観察が可能となってきた.
 しかし,残念ながら臨床現場においては,腹部超音波検査といえば肝臓や膵臓などの実質臓器が対象と思われているのが実情である.ただし,日常検査を顧みると,実際には急性腹症を含め消化管疾患に遭遇する頻度が驚くほど高いことを実感する.さらに,超音波検査では消化管の動きを直接観察できるという利点があり,消化管の運動機能評価などにも応用されている.これらの見地より,超音波検査は消化管疾患のスクリーニングから質的診断,急性腹症の検査・診断にいたるまで多くの情報を提供してくれる検査法といえる.また,超音波検査の特徴である簡便性,非侵襲性,低コストの点からも,消化管疾患における画像診断として第一に選択される検査法としての意義は高く,新たな医療が求められるなか,その重要性は今後さらに増していくであろうことはいうまでもない.
 今般,このような事情を鑑み,消化管超音波診断のよりいっそうの進歩と普及を目的として本別冊を出版することとなった.
 本別冊の特徴は,第一線で活躍されている先生方に,消化管超音波検査のレベルアップを望む初心者〜中級者の方々を対象に,まず総論として消化管超音波検査が必要な背景やその意義,診断の限界から必要な消化管の解剖の知識,基本走査と装置の設定法などについて解説していただき,消化管超音波検査の全体像が把握できるように配慮した.続いて各論では,各々の消化管疾患について,その所見と特徴,鑑別すべき疾患,描出のテクニックを,長年の経験のなかで培ってきた実際に役立つ知識や技術に重点をおいて,わかりやすく執筆していただいた.
 本書が,消化管超音波検査の技術書として検査に携わる皆様のお役に立ち,ひいては消化管超音波検査の普及と発展に少しでも貢献できれば,これに勝る喜びはない.
 平成18年4月
 編集代表 長谷川 雄一
総論
1 消化管超音波検査が必要な背景(畠 二郎)
 1 消化管と超音波検査
 2 体外式超音波検査の意義
 3 超音波内視鏡vs体外式超音波
 4 体外式超音波の限界
2 消化管超音波検査に必要な解剖の知識と基本走査(関根智紀・朝田 寛)
 1 はじめに
 2 消化管の解剖
 3 装置の設定法
 4 より良好な画像の表示法
 5 消化管超音波検査の基本走査
 6 おわりに
各論
1 消化管の正常像と異常像(畠 二郎・山下 都・中武恵子・竹之内陽子・谷口真由美・原 文女)
 1 はじめに
 2 正常な消化管壁の超音波像
 3 各部位における正常消化管の形態
 4 消化管の異常像とは
 5 おわりに
2 上部消化管腫瘍(南里和秀)
 1 はじめに
 2 食道
 3 胃,十二指腸
3 下部消化管腫瘍(西田 睦・木村もと子・新山智美・佐川直美・坪内 友・今井希一・廣川直樹・堀 正和・小井戸一光)
  1 はじめに
 上皮性腫瘍
  2 大腸癌
 非上皮性腫瘍
  3 悪性リンパ腫
  4 消化管間葉系腫瘍(GIST)
  5 腸間膜腫
  6 リンパ管腫
  7 下部消化管観察の際のポイント
  8 おわりに
4 潰瘍性大腸炎,Crohn病の超音波像(長谷川雄一・浅野幸宏・伊能崇税)
 1 はじめに
 2 IBD疾患における超音波検査の意義
 3 検査方法
 4 潰瘍性大腸炎(UC)
 5 Crohn病(CD)
 6 潰瘍性大腸炎とCrohn病における超音波診断の鑑別ポイント
 7 おわりに
5 感染性腸炎と薬剤性腸炎(宇治橋善勝・棟方伸一・狩野有作)
 1 はじめに
 2 腸疾患における超音波検査の実際
 3 感染性腸炎
 4 薬剤性腸炎
 5 おわりに
6 その他の消化管疾患-ヘルニア,腸内異物(松原 馨)
 1 ヘルニア
 2 腸内異物
7 消化管の急性腹症(山下安夫)
 1 はじめに
 2 急性腹症の診かた考え方
 3 急性胃粘膜病変(AGML)
 4 胃・十二指腸潰瘍
 5 イレウス
 6 虚血性大腸炎
 7 大腸憩室炎
 8 急性虫垂炎
 9 おわりに
8 小児科領域の消化管疾患(桜井正児)
 1 はじめに
 2 小児消化管超音波検査の特徴と注意点
 3 肥厚性幽門狭窄症
 4 アレルギー性紫斑病
 5 腸間膜リンパ節炎,回腸末端炎
 6 小児の急性虫垂炎
 7 メッケル憩室炎
 8 腸回転異常症,中腸軸捻転
 9 腸重積症
 10 腸間膜腫
 11 腸管重複症
 12 小児の消化管腫瘍
 13 おわりに