やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

発刊にあたって
 1996年11月,“百聞は一見に如かず”をキャッチフレーズに『Medical Technology別冊カラーアトラス微生物検査』(第1版第1刷)を発行しましたが,13年経ったいま,ようやく専門の先生方のお力をいただき,リニューアル版をお届けすることができました.この間,多くの皆様にご愛読いただきましたこと,心から御礼申し上げます.
 さて巷では,新型インフルエンザや各種耐性菌が我が物顔で横行し,人類環境を苦しめています.しかし,人間の知恵は,遺伝子検査やイムノクロマト法による迅速微生物検査を開発し,適切な治療薬やワクチンを世に送り出してきました.その最前線で活躍しているのが感染症診断治療の一端を担う微生物検査担当者であり,あらゆる感染症への対応を実践しています.その「未知との遭遇」に備えるためにも,多岐にわたる微生物を一度経験しておくことが大切であり,その意味からもこのアトラスをおおいに役立ててほしいと願っています.また,未来の臨床検査技師や微生物関連分野での活躍を目指す学生さんには,座右の書としてほしい1冊でもあります.さらに,医師,看護師,薬剤師,医療事務など医療従事者の皆様はもとより,応用微生物・感染症治療薬関連企業の方々にも活用していただければと思っています.
 この『新・カラーアトラス微生物検査』では,I.感染症診断の進め方(臨床診断の概要,感染症検査の利用,検体採取法),II.微生物検査(基本操作,染色法,迅速検査,同定検査,薬剤感受性検査),III.症例報告(全身感染症9症例,呼吸器感染症11症例,消化器感染症12症例,尿路・性感染症5症例,その他10症例),IV.感染症法の解説,V.微生物分類学,そしてVI.耐性菌(概説と検査法)を配列しました.ぜひ,この本の中から,STECの“新鮮血便“やSalmonella enterica感染症の“海苔の佃煮様下痢便”の写真を探して実感してください.グラム染色検査では多くの特徴ある菌体から特定微生物を迅速推定することができますので,症例報告によって認識を新たにしてください.Bordetella pertussisやMycoplasma pneumoniaeなどの特徴的コロニーを確認し,各種微生物同定の進め方を習得してください.そして,基本的操作法や各種解説資料は学生実習・講義で活用していただければ幸いです.
 症例報告のなかには,現在と異なる手技手法や少し見難い写真が含まれているものもありますが,各施設における経験当時の内容を遵守しましたので,ご理解いただきますようお願いいたします.また,細心の注意を払って校正いたしましたが,誤字脱字を含め不備な点があるやもしれませんので,ご指摘のうえお許しください.
 私の現役最後の編集になりました『新・カラーアトラス微生物検査』を,どうぞ愛してください.最後にご執筆いただきました先生方に感謝申し上げます.
 2009年7月
 大手前病院 山中喜代治
 発刊にあたって(山中喜代治)
I.感染症診断の進め方
 1.医師による臨床診断の概要(草野展周)
 2.感染症検査の利用(米山彰子)
 3.検体採取と取り扱い(豊川真弘・坂田友美・木村圭吾)
II.微生物検査
 1.基本操作(山中喜代治)
 2.染色鏡検(山中喜代治)
 3.迅速検査(中村竜也)
 4.同定検査(田中美智男)
 5.薬剤感受性検査(木下承晧)
III.症例
 1.全身感染症
  Salmonella Typhiによるチフス症(山中喜代治)
  Streptococcus pneumoniaeによる髄膜炎・敗血症(山中喜代治)
  Listeria monocytogenesによる敗血症・髄膜炎(三澤成毅)
  Neisseria meningitidisによる髄膜炎(三澤成毅)
  α-Streptococcusによる心内膜炎の2症例(永田邦昭)
  Staphylococcus aureus(MRSA)による敗血症(永田邦昭)
  Cryptococcus neoformansによる播種性髄膜炎(川上小夜子・斧 康雄)
  Plasmodium sp. によるマラリア症(川上小夜子・亀井喜世子)
  Haemophilus influenzae(BLNAR)による髄膜炎(和田恭直)
 2.呼吸器感染症
  Bordetella pertussisによる百日咳(山中喜代治)
  Mycoplasma pneumoniaeによる肺炎(山中喜代治)
  Mycobacterium tuberculosisによる肺結核症(樋口武史)
  Acinetobacter baumanniiによる慢性呼吸器感染症(樋口武史)
  Moraxella catarrhalisによる肺炎(幸福知己)
  Klebsiella pneumoniaeによる大葉性肺炎(幸福知己)
  Pseudomonas aeruginosa(MDRP)による重症肺炎(和田恭直)
  Legionella pneumophilaによるレジオネラ肺炎(川村千鶴子)
  Aspergillus fumigatusによる菌球型肺アスペルギルス症(阿部美知子・久米 光)
  Pneumocystis jiroveciiによるニューモシスティス肺炎(阿部美知子・久米 光)
  Nocardia spp.による肺ノカルジア症(阿部美知子・久米 光)
 3.消化器感染症
  Vibrio parahaemolyticusによる食中毒(正木孝幸)
  Vibrio chorelae O1 によるコレラ症(正木孝幸)
  STEC O157 による腸管出血性大腸炎(小川祐司)
  Shigella flexneriによる細菌性赤痢(小川祐司)
  Salmonella enterica subsp.enterica serovar Enteritidisによる胃腸炎(川上由行・松本竹久)
  Campylobacter jejuniによる腸炎(川上由行・松本竹久)
  Clostridium difficile関連下痢症(仲宗根 勇)
  Cryptosporidium hominisによる下痢症(山本徳栄)
  Entamoeba histolyticaによるアメーバ赤痢(山本徳栄)
  Giardia lambliaによる下痢症(高市祐子)
  Isosporaによる下痢症(山中喜代治)
  Helicobacter pyloriによる胃潰瘍(山中喜代治)
 4.尿路・性感染症
  Escherichia coliによる膀胱炎(山本 剛)
  Serratia marcescensによる腎盂腎炎(山本 剛)
  淋菌性骨盤内炎症性症候群(山本 剛)
  Candida albicansによる腟炎(永沢善三)
  Chlamydia sp.による子宮頸管炎(永沢善三)
 5.その他
  Streptococcus pyogenes(Group A)による劇症型化膿症(大塚喜人)
  Staphylococcus aureus(MSSA)による皮膚膿瘍(大塚喜人)
  Bacteroides fragilisによる腹腔内感染症(国広誠子)
  Clostridium perfringensによるガス壊疽(国広誠子)
  Pasteurella multocidaによる創傷感染(山中喜代治)
  Aeromonas hydrophilaによる創傷感染(和田恭直)
  Trichophyton tonsuransによる白癬症(宮本仁志)
  Bartonella henselaeによるネコひっかき病(常岡英弘)
  Acanthamoebaによる角膜炎(山中喜代治)
  連鎖球菌による脳膿瘍(小森敏明)
IV.感染症法(谷口清州)
V.病原微生物の分類(大楠清文・江崎孝行)
VI.耐性菌の概説と検査法および判定基準(加藤貴代子・小松 方)